第34話 ギルド長の依頼(9)
「今日しか食べられないってどんな食べ物なの?」
横を歩くレンに尋ねてみる。
「いなり寿司って言って、味付けした油揚げにお米をいれた食べ物でフェブラルのは甘くておいしいらしいよ!」
甘いってドリスさん大丈夫かな。
前を歩いている甘味が苦手なドリスを心配をしていると彼女が振り向いて「なにを暗そうな顔をしているんだ」と僕の顔を覗き込んでくる。
あなたの心配をしていたんですけどね。
「今日は、いつも私たちを見守ってくれる神さまに感謝する日だ。この祭りを通して感謝を捧げるのに、そんな顔のやつがいるか」
「へー神さまに。ドリスさん詳しいですね」
そう言ってから、ドリスが情報屋であることを思い出す。
言動が子供っぽすぎて忘れちゃうんだよな。
「そう、ドリスさんの言う通り、今日は昔からこの地を見守っていてくれている神さまに感謝をする日なんだ。神さまのおかげでこんなに平和で明るく過ごせていますって」
レンがドリスの説明に付け加える。
「だから俺たちは明るく過ごせていますってことを、見守ってくれている神さまに明るい顔で見せる必要があるんだよ」
ドリスの隣を歩いているランドが振り返ってさらに付け足す。
フェブラルの歴史みたいなものを教えてもらいながら街を進んでいくと、今日最初の目的地に到着した。
「着きました。ここです!」
エリーゼが元気よく振り返る。
「「お~」」
手をパチパチたたきながら外観を眺めていると先頭を歩いていたエリーゼと先生が早速、中へ入っていく。
僕たちもそれに続いた。
案内された席に座るとすぐに食欲をそそる香りが調理場から漂ってくる。
「ご注文はどうなさいますか?」
店員がテーブルに寄ってくると
「いなり寿司を人数分お願いします」
とエリーゼが簡潔に注文する。
「私のは甘くないやつにしてくれ」
ドリスが店員を呼び止める。
店内に入ってから漂ってきた匂いでこれから提供されるものが甘いものだと気づいたようだ。
さっきから怪しい表情をしている。
「かしこまりました、少々お待ちください」
呼び止められた店員は持っていたメモになにか書き足すと軽く会釈した後、調理場へ戻っていった。
—————しばらくして
「お待たせいたしました」とさっきと同じ店員が両手いっぱいにお皿を持ってやってくる。
テーブルに置かれたお皿を見ると、ツヤのあるこげ茶色のこぶしサイズのものが山盛りに積まれていた。
「じゃあ、食べよっか!いただきます」
エリーゼが山盛りに積まれている中から数個手元の取り皿にとって食べ始めた。
他の四人も同じようにしていなり寿司を食べ始めている。
僕も見よう見まねで、自分の取り皿にとってかぶりついてみる。
「!?」
甘く味付けされた油揚げと酸っぱめの味付けがされたお米の味と香りがバランスよく口内に広がっていく。
「おいしい!」
目を見開いて思わず口にしてしまう。
「でしょでしょ。今日しか食べれないから思う存分食べなね~」
エリーゼが得意げに言う。
ドリスに目をやると油揚げと中のお米の色が少し違ういなり寿司を口にしている。
僕の隣に座るレンを見ると、おいしすぎたのか感動のあまり遠くを見ながらその目にうっすら涙を浮かべている。
「おいしいねレン」
「うん、本当においしい」
こちらを向いたレンが少しかすれた声で返事をした。
ほんとに泣いてない!?
その後も六人はそれぞれ会話を楽しみながら、しばらくの間食事を続けたのだった。
———————————————
「まんぷくまんぷく~」
ドリスとランドが昨日の夕食の後、店を出た時と同じしぐさをする。
「まだお祭りは終わりじゃないわよ!次はおやつね!」
エリーゼが、いなり寿司をたくさん食べて満足そうにしている僕たち五人の前に出ると次の目的地であろう方向を指さす。
「おやつってまた甘いものか…」
隣にいる僕にギリギリ聞こえるくらいの声でドリスが呟く。
甘いもの続きは流石にドリスに同情する。
「甘くないものかもしれませんよ」
ドリスにだけ聞こえるように囁く。
「だといいけどな…」
「甘くないものも探しましょうよ」
「お、流石探し物屋だな」
ドリスの表情が少し明るくなる。
そういうつもりで言ったわけじゃないですけど…
「そういえば、お前たちの店ようやく名前ができたらしいな、モノクルだっけか」
ドリスが思い出したかのように言う。
「そうですよ、探助屋モノクルです。いままでなんで名前ついてなかったんだろう」
「そりゃ、私が反対してたからな。なかなか思いつかないくせに、思いついても微妙なのばっかだし。ロイのセンスはほんとに酷い」
ドリスは多少呆れた顔で前を歩く先生を見る。
それでも微笑みを含んだその顔を見るとなんだかんだ良い相性だよな~と思ってしまう。
「なにをニヤニヤしてるんだ」
ドリスが僕の顔を下から覗き込む。
「別になんでもないですよ」
ニッカはドリスに悟られないように笑顔を続けるのだった。
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