第33話 ギルド長の依頼(8)



「おはようございます」


 翌日、眠い目をこすりながら宿の一階に降りていくと、ロビーに並んでいるテーブルの一つに先生がいた。


「おはようございますニッカ、昨夜はよく眠れましたか?」


「はい、ちょっと眠いけど疲れはもうすっかりとれました」


そう答えた後、昨夜のドリスとの会話を思い出す。


「先生は疲れはどうですか?」


「問題ないですよ、ところでドリスはまだですかね?」

と先生が階段へ目をやるとつい昨日一緒に食事をした見覚えのある冒険者三人組が降りてくるが見えた。




一階につくと彼らもこっちに気づいたようで、手を振るとすぐに三人は寄ってくる。


「おはようございます、ロイさんたちもこの宿に泊まっていたんですね」

パーティーリーダーのランドが軽く会釈する。


「そうなんです昨日ギルドに行った後、この宿を紹介されたんですよ。ところで今日はいつもと恰好が違うんですね?」


 先生の言う通りランドたちは、普段の鎧などを付けて剣や弓を背負った冒険者の恰好と言うよりは、僕たちに似た町人のような軽めな服装をしている。



「今日はフェブラルの特別な日で仕事は基本休み、街には出店の屋台なんかも並んでお祭りみたいになるんですよ」


ランドが先生に説明していると

「ロイさんたちは今日は何か予定あるんですか?」

とエリーゼが尋ねてくる。


「いえ、今日はもともと予定は入ってないので三人で街を歩いてみようとなりまして。今はドリス待ちです」


「それなら、一緒にお祭り楽しみませんか?私たちなら案内もできますし。ね、二人もいいでしょ?」


「お、いいですね。ロイさんたちが嫌でなければどうですか?」

ランドがエリーゼの提案に乗る。


「フェブラルを活動拠点にしている皆さんに案内してもらえるなら、こちらとしてもお願いしたいですよ。ニッカもいいですか?」


 昨日一緒に食事をしたとき、レンと話せなかったことがまだいっぱいある僕としてもいい機会だ。


「はい!」


「ニッカもこう言っていますので、ぜひお願いします」

それを聞いたエリーゼが笑顔でランドとレンに振り返った。





「そういえば、昨夜の大きな声はもしや…」

しばらくしてランドが思う出したかのように口を開いた。


「あ…」

「あ…、聞こえてましたか…あれ。ていうか、聞こえてますよね…あれ」

その場にいた当事者二名が途端に渋い表情になる。


「ええ、何事かと思いましたよ。女の子の雄たけびというか咆哮というか…そんなもの聞く機会なかなかないですからね」


「あれはびっくりしたね~」「僕も弓構えちゃった」

エリーゼとレンも顔を見合わせる。


「…すみませんでした」

先生が誠心誠意頭を下げる。


「いえ別に攻めようって気はないですよ。そんなことがあったな~ってだけで」

ランドが誤解されないように胸の前で手を振る。


「こちらも迷惑はかけたので」とペコペコしている先生。





叫び声をあげた張本人の姿はいまだに見えない。


「それにしてもドリスさん遅いですね」

僕はもう一度階段の方に目をやるが、相変わらずドリスが降りてくる様子はない。



———すると


「誰が遅いって?私はもうずっといるぞ」ともうかなり聞きなれた幼さの目立つ声が聞こえてきた。



声の主の姿が見えない僕は目をパチクリさせる。


「先生、ドリスさんの声だけが聞こえます。やっぱり疲れが取れてないのかな」


「私もですよ、長距離の移動が響いてるんですかね」

とわざとらしく大柄なランドの後ろに目をやる先生。


「おい、いつまで馬鹿な事を言ってるんだ」

するとランドの後ろから強めの語気と共に、小柄な声の主がヒョコっと現れた。



先生後ろにいたの気づいてたのか。

しかも、ドリスさんも先生が気づいてたことに気づいてたのか。



「ドリスさんおはようございます」「おはようございますドリス。話は聞いていましたね」


ドリスは五人それぞれと挨拶を交わすと腕を組んで胸を張る。

「ああ、私も構わないぞ」


「じゃあもう出発しちゃいましょうか。案内する場所はたくさんありますからね」

「まずは朝食~」とエリーゼが先生の手を引いて宿の扉を開け外に出ていく。


ランドとドリスの波長が合う二人も先生とエリーゼに続いていく。


「フェブラルの今日しか食べられないご飯だし楽しみだね」

すでに楽しそうな表情のレンが寄ってくる。


「そうなんだ~楽しみだな」


「昨日の話の続きとかもあるからね、今日はいっぱい楽しもう!」

オレンジ探しのときでは考えられないほど元気なレンが、右手を突き上げて四人についていくように宿を出る。


レンが元気だとなんだかこっちも嬉しくなるな~


 スキップしながら進んでいくその後ろ姿に微笑みを浮かべながら、僕はおいていかれないようその背中を追った。

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