第31話 ギルド長の依頼(6)


「じゃあ、今日のところは終わり。一応、次は同行する冒険者の紹介とかする予定ね」

ネスがパンと手を胸の前で合わせる。


「今日はいないのか?その冒険者」


「さっきまで結構ハードな依頼受けてたから、別日にすることにしたの」


「そういうことですか。では今日は失礼しますね」

そう言って立ち上がる先生に合わせて僕とドリスも立ち上がる。



「失礼します」「お邪魔しました」「またな」

ドアの前で止まった僕たちはもう一度振り返って各々、ネスに挨拶をした。


「またね~、ドリス~寂しくなったらいつでも呼んでね。すぐ駆けつけるから!」

先ほどの宿の部屋の件に懲りていないネスが目をキラキラさせながら、ドリスに向けて親指を立てる。


「はいはい」

ドリスはもう疲れたよという顔で手をパタパタ振って適当に返事をして部屋を出た。







「はぁ~精神的にドッと疲れた気がする」

ギルドを出たドリスが第一声と共に深いため息をつく。


「明るくて素敵な人でしたね」


「あれが!?お前はターゲットになったことないからそういう気楽なことが言えるんだ。会うたびにあれをくらってみろ、素敵なんて言えなくなるから」


「ドリス、そこまで言わなくっても…ネスだって悪気はないですよ」

先生がまあまあとドリスをなだめる。


「とにかくこれから宿に向かいます」

先生がネスから貰った紙に目をやって「こっちかな」と歩き出す。




 「悪気がないやつが部屋なんて聞こうとするか」とかブツブツ言いながら後ろをついてくるドリスをほっておいて先生の横を歩く。


「明日、時間があるならフェブラルを回ってみたいと思うんですけどいいですか?」


せっかくの機会を何もしないで終わらせるのはもったいない。


「いいですね。せっかくですので、みんなで街を歩いてみましょうか」


「いいなそれ。誰かさんに面白い情報が手に入るかもって嘘つかれたからな~

街に出れば、何か面白そうなことありそうだよな」


ネスから思ったより面白い話を聞けなかったドリスが横目で先生を見ながら言う。


切り替え早。


「ああいう言い方をしたのは悪かったと思ってます。どうしても三人で来てほしいって言われたので仕方なくですよ…」


ドリスの目つきは鋭いままだ。


「わかりましたよ…なにをご所望ですか?」

それを聞いたドリスが笑顔になる。

「今はない。またほしいものが見つかったら伝える」

満足げな顔で後ろをついてくるドリス。


前を歩く先生はドッと疲れた表情で深いため息をついた。




——————————


「ここですね。フェブラルにいる間、私たちがお世話になる宿です」

前を歩いていた先生が手をあげながら振り返る。

先生が指さす先には正面に入口を構えた赤色の屋根が特徴的な旅人宿が見える。


「おお!立派な宿じゃないか」

ドリスが建物の大きさを見定めるように両手を目一杯広げた。


 ギルドほどではないにせよ、二階建ての家が立ち並ぶフェブラルでも一つだけ抜けて目立つこの建物こそ今日僕たちの宿泊する宿らしい。



「とっとと受付済ませちゃおうぜ」

そう言って歩き出すドリスの後を「そうですね」と先生もついていく。

僕も二人の後を追った。




 一階には部屋はなく、入口のそばに受付とロビーには誰でも使える丸テーブルとイスが置かれている。


「すみません、三部屋ほどお借りしたいのですが」

先生が受付の女主人にネスから貰った紙を手渡す。


女主人は紙を受け取るとなにやら手元の控え帳を確認しだす。

しばらくして、確認を終えた女主人は顔をあげると「確認できましたので、部屋を案内します」と奥にある階段をさした。


建物は三階建ての構造で各階に八部屋、宿泊用の部屋があった。

ちなみにベネットの同じような旅人宿はどれもここの半分ほどの部屋しかない。

三階に上がった僕たちは一番奥の三部屋に案内された。


やっぱり大きい街なだけあるな~などと考えていると


「おいニッカ、ぼーっとしてるな。ここからは戦いだぞ」

とドリスに背中をたたかれる。


「戦い?なんのですか」


「そんなの決まっているでしょう」


「どの部屋にするかの、ですよ!」「どの部屋にするかの、だ!」

背中を合わせてこっちに指さし決めポーズをとる二人。


今からじゃんけんしますの構えをとる二人はお互いの手を読もうと表情を伺い合う。


なんか盛り上がってるとこ申し訳ないんですけど…


「あの…僕どの部屋でもいいですよ…」

申し訳なさそうに手をあげる。


「いえニッカにも参加してもらいます」


「そうだぞ、私たちだけ子供みたいに映るからな」


そんな理由ですか…


はよ手を構えろと見つめてくる二人。

「わかりましたよ…」

根負けした僕は二人に倣って手を構える。


「よしいくぞ、じゃんけんっポンっ!」

ドリスの掛け声に合わせて三人は各々の手を出した。

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