第30話 ギルド長の依頼(5)


「さっき説明した通り、遺跡はそういうアイテムを保管しておく場所なんだよ。

なのに中を調査したら何もなかったっていうのはおかしな話なんだよね」

ネスが説明を続ける。


「私自身も何個か遺跡の調査をしたことはあるけど、中から何も見つかりませんでしたなんてことはなかったの」



「もう他の人間が調査してしまったとかではないんですか?」

僕がネスの話を頭で整理していると先生が口を開いた。


「それはないね、初めてその遺跡の中に入った冒険者たちがそう言ってた。

彼ら相当ベテランだから、自分たち以外の誰かがいた痕跡を見落とすなんてことはないだろうし」

ネスは首を横に振る。


「ある程度観察力はある冒険者でも収穫は全くなかったと」


「それで、私たちに本当に何もないだけなのか調査してほしいと依頼が来たわけですね」


「そーそーなんか最近探し物屋?してるって聞いたから、せっかくならねぇ」

ネスは先生を見てニヤリと笑った。


「遺跡の基本的な説明はもう終わったな。じゃあ次は、今回の遺跡の話だ」


「ドリス、少し早いですよ。ニッカ、遺跡のことは分かりましたか?」


「まあ、なんとなく」と曖昧な返事をする。


「わからないことがあれば、なんでもきいてくれていいからね、じゃあ今回の遺跡についてだけど…」




「その遺跡の特徴は部屋が三つあるの!」

指を三本立てて静止するネス。


部屋が三つあるの…それで!?



「…まさか、それだけじゃないよな…」

ドリスが不安げに尋ねる。


「その部屋たちを隅々まで調べたけど、壁に傷がある程度だったって報告が入ってる。

あ、絵みたいなものは描いてあったって言ってたっけか」

一応それだけじゃないようだ。


トマナオレンジのときといい、なんか手元の情報少ないよな僕たち。

情報屋もいるのに…



「ネス、重要なことなのですがその遺跡は危険じゃないんですね」


「ああ、これまで何回も調査しているが罠などは見つかっていないと報告を受けている。まあ、念のため冒険者の護衛をつけようと考えているから大丈夫だよ。それに君たちなら、どうってことないだろ」

ネスは先生とドリスを交互に見る。



「私たちは多少なら大丈夫ですけど、ニッカがいますからね」

「なるほど、確かに」と僕を見て頷くネス。


「ロイが護身術でも教えてあげればいいんじゃないの」


また護身術の話だ…


「まあ、いつか教えますよ…」

ネスの提案を軽く流す先生。




すると、ドリスがより一層真剣な表情で口を開いた。


「おいネス、もし中から魔道具が見つかったらどうする?」


「確かに、魔道具はひとつで大きな家が建つと言われていて、その価値の高さから国同士の争いが起こったなんて過去もありますからね。私も見つかった魔道具の扱いを先に決めておくことに賛成です」

先生がドリスの意図をくみ取って頷く。


「まずはフェブラルに持って帰ってきてほしい。

そのあとは、場合によるけどその中に欲しいものがあればそれを依頼料としてもらってくれていい。

欲しいものがなければ、それに相当するお金、情報、他にも君たちが望むものを渡す。

見つからなくても、もちろん別で依頼料のお金は渡すつもりだよ」


「わかった、私はそれでいい」

「私も構いません」

二人はすぐに頷いた。


「ニッカ君もそれでいいかな?」

ネスが僕の顔を覗き込む。


「あ、はい」

さっき先生たちが話していた内容はよくわからなかったけど、一応返事をしておく。


「まあ、その時はロイたちがきっとなんとかしてくれるよ」

ネスは親指を立てて先生を見る。

「そうですね、先生にお願いします」


「先生…?」

僕の発した単語に食いつくネス。

チラチラと何度も僕と先生に目をやった後、明らかに悪そうな笑みを浮かべる。


「ロイ、君が先生ねぇ」


「なんでドリスと同じ反応するんですか、いいでしょ別に…」


「ドリスと同じ反応!?これってやっぱり、う・ん・め・い!?」


「なわけあるか、誰だって同じような反応になるわ」

机越しに抱き着こうとしてくるネスを手で押さえながらドリスはため息をつく。



 三人の仲のよさそうなやり取りを黙って見ているとネスが思い出したかのように話を戻した。


「よし!じゃあだいたい話はまとまったかな。聞きたいことがあればまた聞いてね。今日泊まる宿は私が確保しといたから、はいこれ」

ネスが先生になにか紙を手渡す。


「それ見せれば部屋に案内してくれるよ」


「ありがとうございます」

先生が紙を受け取ると

「ドリスがどの部屋かは、こっそり…」

ネスが先生に耳打ちする。



「来たら殺すぞ、ロイお前もな」

来なくても殺しそうな低い声が二人を刺した。

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