第29話 ギルド長の依頼(4)
ギルドの中は建物の外見通りの広さをしていた。
20人は脇に座れそうな縦長のテーブルが左右に並んでおり、今も冒険者が何人か腰かけ食事をしたり会話を楽しんでいる。
正面の奥にはこれまた大きな受付のカウンターが、その両脇には上の階へ続く階段が見える。
左側の壁には依頼内容の紙を集めたボードが掛かったりしていた。
「うわ~流石に広いですね」
「この国の冒険者ギルドはもっと広いところもあるんですよ」
得意げに説明する先生。
初めての場所に新鮮な気持ちでギルド内を見回していると———
「あ~!!!」
ギルド内に高い声が響き渡る。
声の主はギルド二階の吹き抜けから身を乗り出して笑顔でこっちに手を振っているようだ。
そして、その勢いのまま階段を駆け下り真っ直ぐ向かってくる。
僕たちの前で急ブレーキをかけて止まると、その赤い長髪の女性は勢いよく顔をあげた。
「ロイ~よく来たね!で、君がニッカ君?あれ、ドリスは?」
「ネス、ここにいますよ…」
そう言い先生が振り返ると、いつの間にか先生の後ろに隠れていたドリスが恐る恐る顔を出す。
「や、やあ、ネス」
「あら~ドリス、久しぶり!会いたかったよ~ずっとずーっと」
ネスはドリスを見つけるや否やギューッと抱きついて頬をこすりつける。
抱きつかれたドリスは少し抵抗を試みるも、体格的に不可能と判断したのか諦めて手をダランと下げ、流れに身を任せるのだった。
———数十秒後
ようやくネスから解放されたドリスがげっそりした顔で僕に寄りかかり愚痴り始める。
「…すまん、ニッカちょっと肩借りる。だから嫌だって言ったんだ…」
あのドリスさんがペース握られてる…
ドリスさんが言っていた癖が強い人ってあながち間違ってないのかも。
「ネス、出迎えはありがたいですが、その…なんだか目立ってますよ」
先生が言った通り、ロビーにいる冒険者たちの視線がこちらに集まっている。
「あ、ほんとだ。じゃあ、ちょっと場所替えよっか」
振り返って状況を確認したネスが「こっち、ついてきて」と手招きする。
僕たちが受付前を通ったとき、受付嬢から「ロビーで叫ぶのは控えてください」とお叱りを受けたネスに対して、
先生とドリスは
「相変わらずなんですね」
「変わってなくて安心するよ、ほんと」
と冷たい目を向けた。
僕たちはギルドのロビーを通って、受付横の階段から二階に上がり、通路を進んで一番奥の部屋に案内された。
「座って座って。ここはギルド長の部屋、つまり私の部屋だからかしこまらなくていいよ」
ネスが促すと
「さて、早速話を聞かせてもらおうか。私がわざわざベネットから出てきたんだから、それなりに面白い話を聞かせないと怒るぞ」
少しづつ顔色が良くなってきたドリスが、客用ソファーに深く座り込んでネスを見る。
僕と先生もその横に三人並ぶようにして座った。
「面白い…かどうかはわからないけど…」
ネスが頬をかきながら言う。
話が違うじゃないかっ!と先生をにらみつけるドリス。
先生は目を合わせないようにしていた。
「ロイからはどのくらい伝わってるの?」
慌ててネスがドリスに尋ねる。
「遺跡の調査だろ。遺跡のわりに何も見つからないとかいう」
「そうそう、だいたいそんな感じ。説明を付け足すと…」
ネスが依頼内容の説明を始めようとしたそのとき、
「その前にニッカに遺跡について基本的なことを教えてあげてください」
先生が割り込む。
「え、ロイ遺跡の説明してないの?」
「ネスの方が詳しく教えられるだろうと思いましてね」
「あ、そゆこと。ニッカ、遺跡について、いまから私が世界一わかりやすく教えてあげよう」
ネスが胸をポンとたたく。
「まずはクリスタルとか魔道具って知ってる?」
「あの四角いやつですよね?ドリスさんが持ってた収納できるやつ」
オレンジ探しの依頼の時、ドリスに物を収納できるクリスタルを見せてもらった。
目の前で起こった非現実的な現象はいまでも鮮明に思い出せる。
「ああ、あれもそうだな」
ドリスが頷く。
「あードリスが説明したってことは、それ関連の歴史の話も多少聞いたかな」
「最近の研究で大昔の魔法とか失われた技術とかが存在することが確認できたって話ですよね」
僕が説明するとドリスが「よく理解してるじゃないか」と頷く。
「そう。でも、大昔の技術なんだよ?現代まで残ってるのっておかしいと思わない?」
「言われてみれば確かに」
時間と共に風化したりして、壊れて使えなくなってしまってもおかしくない。
「ドリスの説明に付け足す形になるんだけど、遺跡っていうのはそういうクリスタルみたいな魔道具を保管する場所っていうことがわかったのね」
そのままネスが説明を続ける。
「実際、他の遺跡からは現代でも問題なく使えるクリスタルとか魔道具がたっくさん見つかってるの」
ネスは手をいっぱいに広げて言う。
一呼吸置いた後「わかった?」とネスが尋ねてくる。
「はい、なんとなく」と頷くとネスは声のトーンを下げて言った。
「ここからが本題ね」
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