第28話 ギルド長の依頼(3)

 


 ドリスを追いかけながら進んでいく道は人で溢れ、気を抜くと前を走っている小さな影を見失ってしまいそうだ。


 左右には二階建ての建物が並び、中にはベネットのバザー会場のような店をやっているものもある。

 道を行き交う人々は、時折店の前で足を止めては商人と会話をしたり、品物を手に取って眺めてたりしている。



しばらくすると前を走っていたドリスが十字路の真ん中で足を止めた。



「ちょっとくらい待ってくださいって」

ドリスに追いついた僕は息を整えながら言う。


そんなことお構いなしに笑顔で振り返ると

「ついたぞ、あの店からいいにおいがする」

と角にある肉料理の絵の看板の店を指さした。



「じゃあ、食事はあの店でとりましょうか。ニッカもいいですか?」

後ろからまったく息を切らしていない先生が尋ねてくる。



 僕が頷くのを確認したドリスが「よし行くぞー」と右腕を突き上げて歩きだそうとしたとき




「今日は肉気分だな」

「ランドはいっつもお肉の気分でしょ。別にいいけど」

「肉って言ったらここじゃない?」


なんとなく聞き覚えのある声が聞こえてくる。

目を向けるとその三人組のうちの弓を背負っている少年と目が合った。




「「あー!」」

人通りの多い場所というのも忘れて声を上げ、お互い駆け寄る。


「レン!久しぶりだね!」


「ニッカ、フェブラルに来ていたんだ!?」


「うん!なんかギルドに用事があるんだって」




「おお、久しぶりだな」

「どうもこんにちは」

ドリスと先生も後から寄ってくる。


「ドリス、ロイさんにニッカ君まで久しぶり」

「久しぶり、森の時以来かしら」

レンと同じパーティーの大剣使いの大男ランドと短剣使いのスラっとした女性のエリーゼもいる。


「そうか、お前たちはこの街の冒険者だったな」


「そう言う三人は何の用でフェブラルまで?」

ランドが尋ねると先生が説明する。

「冒険者ギルドに用があるので来ました。先に食事をしようという話になってそこのお店に入ろうとしていたところです」


「一緒に食べます?俺たちも同じ店入ろうと思ってたところなので」

ランドが店を指さす。



「いいなそれ、おすすめ教えてくれよ」

「いいぞ、ここのオカル鳥の丸焼きは格別だからな」

意気投合したドリスとランドがスキップしながら店の中へ入っていった。


「は~まったく、私たちも行きましょうかロイさん」

店に入っていく二人を見てエリーゼがため息をつく。


「そうですね」

苦笑いで答える先生。



「そうだニッカ、あの後の話とか聞かせてよ」

レンが言う。

「うんいいよ!レンの話も聞きたいな」

僕とレンは大人四人の後に続いて店に入っていった。




40分後———


「「はぁ~おいしかった~」」

満足気にお腹をさするドリスとランド。


「この後はギルドに行くの?」

エリーゼが先生に尋ねる。


「ええ、そのつもりです」


「じゃあ私たちは宿に帰るからここでお別れね。ギルドはこの道を真っ直ぐ行ったらあるわよ」


「ありがとうございます。では私たちも行きますね」

先生は軽く頭を下げるとドリスに「行きますよ」と催促する。


ランドと話し足りないのか頬を膨らませるドリス。

「暗くなる前にやることやらないと」と言われ渋々納得する。


「じゃあねニッカ」

「うんまた今度」

僕たちも挨拶を済ませ別れた。






「三人とも元気そうでよかったですね」


 ランド、エリーゼ、レンのパーティーと別れた僕たちは、今回の依頼主に会いに行くため冒険者ギルドへ向かっている。


「ああ、それにしてもレンってはあんなに明るいやつだったか?人見知りの激しい子供って感じだったのに」


見た目は子供のドリスが言う。


「ニッカの影響が少なからずあるんじゃないですか?オレンジ探しのとき結構二人でしゃべってましたし」


「そうなんですかね…?」


「まあ、年が近いと話しやすいだろうしな」


確かに僕も大人ばかりだったあのパーティーの中ではレンは一番喋りやすかったが。





そんな会話をしながら街中を進んでいくと正面に明らかに大きな建物が見えてきた。

屋根の上に立てば、ほとんど二階建ての構造の建物が並ぶフェブラルを一望できそうだ。


「あれですね、あれがフェブラルの冒険者ギルドです」


「なんかやっぱり行きたくなくなってきたな~あいつの顔思い出したら」

それを聞いたドリスが嫌そうな顔をする。


「いまさらだめですよ、依頼は私たち三人宛てなんですから」


「でも会いたくないんだもん」

ドリスがしゃがみ込んでブツブツ言いながら地面をいじりだす。


ドリスさんの方がよっぽど子供じゃないですかね…



「暗くなってギルドが閉まるまで時間稼ぎしようったって無駄ですよ」

先生がドリスの両脇に手をかけ一気に立たせる。


先に食事を提案したのも時間稼ぎのためだったんじゃ…



「わかったよ、行くよ…」

ドリスはもう逃げられないと悟ったようだ、さっき店から出てきたときとは真反対のテンションで言った。

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