第27話 ギルド長の依頼(2)



二日後———



「揃いましたね、出発しましようか。今回はこれに乗っていきます」

先生が後ろの小さめの馬車を指して言う。


フェブラルへ出発する当日、朝早くから僕たちはベネットの門の前に集まった。


「こんなに早くから集まる必要あるのか?」

ドリスが眠そうに目をこする。


「今から出発すれば日が暮れる前には着くはずですから。

さ、もう乗り込んじゃってください」


そう言うと先生は早速馬車に乗り込んでいく。

僕とドリスもそれに続いた。





 街を出るや否やドリスは馬車の中で横になってスース―と寝息を立て始めた。

僕が馬車の中でガタガタと心地の良い振動を感じてボーっとしていると馬の手綱を握る先生が首だけ振り返る。


「そういえばニッカ、依頼で外に出たと言っていましたがどこへ行ったのですか?」


なんだかんだ先生と時間が合わず、ロウターさんの依頼の報告をできていなかったと思い出す。


「ベネットの近くに丘があるじゃないですか。その頂上に登ってそこからの景色を見に行きました」


あの時見た景色を頭で思い返しながら答える。


「この時期だとベナテラですかね、あれは綺麗ですからね」


「先生ご存じなんですね」

ドリスが知らなさそうな反応をしていたから先生が知っていて少し驚く。


「ええ、私も見に行ったことありますからね。あれはまさに絶景ですね」


「世界にはあんなものがたくさんあると思うと旅するの面白そうだな~なんて思っちゃいました」


「…そうですね」

やけにそっけない反応をしたっきり視線を前に戻す。




「まだまだかかりますから、休んでて構いませんからね」

今度は振り返らずに声だけ聞こえてくる。


お言葉に甘えて、と僕もドリスに当たらないように横になった。









「おーいニッカ、もう着いたぞ!いつまで寝てるんだ、まったく」


多分ニッカよりも長い時間寝てたやつが声をかける。


その声に起こされて上体を起こした。

ぐ~っと伸びをした後に目をこすりながら声の方を向く。


見ると「元気いっぱい!」と顔に書いているドリスが腕を組んでこちらを見ていた。

「よし起きたな。見ろ、あれだ」


ドリスの指す先に目をやるとベネットの3,4倍はありそうな大きな街が見える。

あれがフェブラルだろう。


「起きましたか、後10分ほどで着きますよ」

先生が振り返る。


さっき着いたぞって聞こえたんですが…





街の入口がどんどん近づいて大きくなる。

「思ったより早く着きましたね。着いたらまず冒険者ギルドへ行きましょうか」

先生が前から目を離さずに言うと


「えーお腹すいたから先にご飯食べないか」

ドリスが駄々をこねだした。


「ニッカもお腹すいたよな~そうだよな~」

仲間を増やそうと圧力をかけてくるドリス。


「お腹はすきましたけど…」


その返事がドリス寄りだと思われてしまったようだ。

同じ意見の仲間が増えて勝ち誇った顔をするドリス。


「わかりました、先に食事をしましようか」

その勢いに負けた先生が言った。


それを聞いたドリスが僕の方に悪そうな笑顔で振り返り無言でガッツポーズをした。







 フェブラルの門はベネットとは違い、開閉できるように造られており、門のそばには鎖形式の防具を付けた兵士が数名立っている。


僕たちの馬車が門の前に到着するとそのうちの一人が前に出てきた。

それに合わせて先生は馬車のスピードを緩める。


「こんにちは、身分を証明できるものは何か持っていませんか?」

兵士が先生に尋ねる。


「どうもどうも、これでいいですかね」

先生はポケットから小さなバッジを取り出して兵士に手渡した。


「おやギルド長の関係者の方でしたか。どうぞ通ってください」


「ありがとうございます」

先生はお礼と共にバッジを受け取る。



街に入るとすぐわきに馬車を止めた。


「おいロイ、さっき入口で見せたやつ、あれなんだ?」


「これですか?ネスから貰ったやつです。街に入るときに時短だから使えって」

バッジをドリスに渡しながら先生が説明する。


「あいついつの間にこんなもの作れるほど偉くなったんだ?」

バッジをジロジロ観察しながらドリスが呟く。


「ネスがすごいのあなたも知っているでしょう」

「…まあな」

一通り観察し終えるとバッジを先生に返す。





「さて、まずはご飯でしたね。食事をとれそうなお店を探しましょうか」

そう言うと先生は馬車を降りる。

僕とドリスもそれに続いた。


「あっちからいいにおいがする、行くぞ!」

馬車から降りるや否や美味しそうな匂いを嗅ぎつけたドリスが駆け出す。


「あ、待ってくださいよ~」

先生と僕はドリスを追いかけるように街の中へ進んでいった。

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