第26話 ギルド長の依頼(1)


「それで…」



「待った、その話はお前たちの店でやってくれ私には関係ない」

ドリスが手を挙げる。



「ドリス、あなたがネスのことが苦手なのはわかりますが今回はあなたにも関係があるんですよ」

先生は真っ直ぐな目でドリスを見つめる。


「でも、あいつには会いたくない…」

ドリスは子供のように下を向いてブツブツ何か言っている。


「もしかしたら結構重要な情報かもしれないのにですか?」



下を向いていたドリスが一瞬ピクッと反応する。

先生はすかさず畳みかける。


「フェブラルと言ったらベネットよりも大きな街ですね。

冒険者ギルドもありますし、面白そうな話が聞けるかもな~」


「こ、今回だけだぞ…」



苦手な相手よりも面白そうな情報の方がドリスの中で勝ったようだ。


ちょろすぎないですか…






「それでどんな話をしてきたんだ」

さっきまで子供みたいにブツブツ言ってたドリスが少し食い気味に尋ねる。



「私たち半月ほど前、トマナオレンジを探しに行ったとき冒険者たちに出会ったじゃないですか」


「ランド、エリーゼ、レンの三人な」

ドリスが指を折りながら名前をあげる。


「そうその三人。その三人が、新人冒険者の救出に私たちが大きく貢献してくれたって報告したらしいんですね」


 トマナオレンジ探しでベネット北側の森へ行った僕たちは、森の前で新人冒険者探しで森に来ていた彼らと出会った。

 一時は中には入らないよう忠告されたが、結果的にお互い協力する形で話がまとまり見事オレンジと新人を発見することができたのだ。


僕はついていっただけな気がする、が口には出さずに話の続きを聞く。


「なんでも手掛かりの発見に力を貸してくれて助かったみたいなこと言ってたらしいです」


「なるほどな、その話がネスに伝わって呼び出されたわけだ。それで?」






「その観察力を見込んで頼みがあると…遺跡の調査らしいです」


「なんだそりゃ、そんなもの冒険者に頼めばいいじゃないか。あいつの下にはいっぱいいるだろ」


「詳しくはネスから直接聞くことになると思いますが、何やら遺跡にしては何もなさすぎると」


「冒険者さんたちが調査してもですか?」


「はい、何度も遺跡には入っているらしいんですが…とりあえず話だけでも聞きに行ってみませんか」

先生が説得する。


「それで先生、出発はいつですか?」

今度は僕が尋ねた。


「あまり君たちを外には連れて行きたくないんですけどね…

まあ、明日か明後日で考えてます」




それを聞いてドリスが思い出したかのように言う。

「あ、そういえばロイ、依頼とはいえニッカが勝手にベネットの外に行ったらしいぞ」


…チクられた。


先生が本当か?と疑いの目でこちらを見てくる。


「ちょっとだけ…」と渋い顔で頷く。

その返事を聞いて先生は頭を抱え、何か考え事をし出した。


うーん、とかなりの時間悩んでから先生が口を開く。

「今回は私にも責任はあるので…今度からはドリスにでもいいから一言伝えるようにしてください」


「わかりました」

もっと叱られると思っていたが軽い注意で済んでほっとする。


ドリスさんなんかつまんなそうな顔してませんか…




「私たち三人で行くのか?」

チクった本人がすぐに話を変える。


「はい、こればかりは仕方ないですね、ネスに三人で来てくれと言われてしまったので」

ドリスの問いに答えると先生は僕に向いて


「ニッカ、オレンジ探しのときは一日で終わりましたが、今回は移動も含めて時間がかかるので最低一日はフェブラルの宿に泊まろうと思います。

ですので、何日かは家に帰れないことを母親にも伝えておいてください」


今回の依頼は探し物仕事で初めての日をまたぐ長期間のものということだ。

「わかりました」と返事をする。


「では、今日は解散。出発の日は追って伝えます」

先生が手をパンとたたいて言った。





 僕たちは残って雑談の続きをすることもなく早めに解散した。


「ただいま」


「お帰り~今日は早く終わったのね」


家に着くと母親が迎えてくれた。

早速さっき先生に言われたことを伝える。


「母さん、今度フェブラルって街に行くんだけどその依頼、何日かかかるらしくて向こうの宿に泊まるんだって」


「わかったわ、先生にもよろしくね。迷惑かけちゃだめよ」

それを聞いた母は少し驚いた表情をしてから笑顔で頷く。

「うん!」と元気よく返事をした。



夜、ご飯を食べておやすみのあいさつをして自分部屋に戻る。


ベネット以外の街は見たことないからちょっと楽しみだけど緊張するな~

フェブラルってことはレンにも会えるかな。

また、ベナテラの花畑みたいな景色見れるといいな。


ニッカは期待で胸に膨らませながら眠りについたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る