第23話 初老紳士の探し物(3)



「いろいろ回りましたけどどうですか?」


日は西に傾き始め空がオレンジ色に染まってきた頃、ベネット内を大方回りつくした僕がロウターに尋ねる。


「変わっているところもあったけど、やっぱりベネットですね。どこか落ち着いた印象を受けるところは昔から変わりませんか」


依頼の内容のこの街の記憶を思い出す場所を見つけることはできたのだろうか。

今日一日一緒に過ごして、所々昔のベネットの話を懐かしむように話していたから助けにはなれているのかな。


ロウターの曖昧な返しにそんなことを考えていると



ゴー―ン!!


ベネット内に大きな鐘の音が響いた。


ベネットは楕円形の形をしており街には十字に大きな通りがある。

 通りを境に大まかに四つの区域に分けたうちの北西エリア、そこの真ん中あたりには背の高い時計塔が立ってる。

 ベネット中を見渡せるその時計塔は現在は針は動かないが、一日に二回決まった時間に時計塔内部にある鐘が鳴ることで、ある程度の時間を伝える役目を果たしている。



今聞こえてきた音は二回のうちの午後になる鐘の音だ。




「おお、この音も懐かしい。そうだ、ニッカ君あの時計塔に登ってみたいのですがいいかな?」

ベネット中に鳴り響いた鐘の音の余韻に耳を澄ませながらロウターが言う。

「ええ、構いませんよ。」

もともと依頼主が行きたいところに行くのが目的だ、否定する理由はない。


二人はベネット北西の時計塔を目指す。







遠くから見ても高く感じた時計塔は近づいて見上げると更に大きく見える。

周りに高い建物がないことも相まってとてつもないインパクトだ。

「下から見ると迫力がありますね。そういえば僕、塔の上に行くのは初めてなんですよ」


「そうなのかい、上からの景色はとてもきれいだよ」

また、昔を懐かしむような表情を見せるロウター。


二人は時計塔の正面にある入口から中に入って内側の階段を進んでいった。




階段を上がりきると目の前にガラス越しに絶景が広がる。

「うわーすごい!ベネットが全部見える!」


「ここからの景色も変わらないな、心地が良い」


横目でロウターを見るとベネットではなくどこか遠く眺めているような気がする。


「ロウターさん、この街の昔のこと思い出せましたか?」

ふと、そんなことを訪ねてみる。



すると、ロウターは僕に向き直って深く頭を下げた。


「すまない、ニッカ君まず謝罪させてほしい」


何がなんだかさっぱり状況が読めない僕は口を半開きでポカンとしているとロウターが続ける。


「私は昨日、この街に住んでいたときの記憶が曖昧と言ったが実はあれは嘘でね。

本当は別の目的があってベネットに帰ってきたんだ」


「別の目的!?」


「ああ、まずはこれを見てほしい」

そう言うとロウターは一枚の写真を取り出した。


 その写真は丘の上に一面に咲く白の花と丘の麓にある街を一つに収めたものだった。

その写真に写る街をよく観察するとなんとなくだがベネットの面影があるような気がする。


もう少し観察してみると街中に一つだけ背の高い建物が存在している。

これって時計塔!?ってことはやっぱり…


「これって、昔のベネットの写真ですか?」


「おお、よくわかったね。これは私がまだベネットに住んでいたころに撮った写真なんだよ。

あの正面に大きな丘があるのが見えるかい?」

ロウターが指をさすベネットの南東方向に目をやると確かに丘がある。


「あそこから撮ったんですか?」


「そうだよ、それで最後のお願いなんだけど…

あの丘の上にどうしても行きたいんだ」

ロウターがもう一度深く頭を下げる。


ベネットの外といえどそこまでお願いされると断れない。

少し外に出るだけだからいいか、と自分に言いきかせロウターに返事をする。

「わかりました、いいですよ。ただ、本当の目的を聞かせてほしいです」


「時間もそんなにないし歩きながら話すでいいかな?」


「はい」

特に問題はないので了承する。


「よしっじゃあ今からは私が先導するよ。何回もあの丘には登ったからね、道はよく覚えているよ」


二人は時計塔の階段を降りベネットの東側の門へ向かうのだった。

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