第22話 初老紳士の探し物(2)
「ドリスさ~ん、聞いてますか?」
「聞いてる聞いてるって、いつも通りでいいだろ。
そこをロイに評価されて任されたんだろお前」
普段は首にかけているゴーグルをつけて、小さな道具の修理をしているドリスがめんどくさそうに答える。
昨日、あのまま家に帰った僕はどうしても不安が消えなかったので翌日の今日、集合時間前にドリスのアドバイスを求め修理屋に来ていた。
「アドバイスって言ったって、私は修理屋だぞ。
人の探し物なんてしたことない。なんならお前の方がその仕事は詳しいだろ」
「そうなんですか?先生とは一緒に仕事したりしないんですね」
「ああ基本はな、この間のオレンジ探しは例外中の例外だ」
「へー、意外でした。てっきりもっと一緒に仕事しているのかと」
「まあ昔はなー。それも仕事って言っていいかわかんねーけどな」
一切手元から視線を外さずにドリスが曖昧な返事をする。
「これでよしっと」
どうやら修理が終わったようでドリスがゴーグルを外してカウンターに置いた。
「まあ、とにかくお前なりに精一杯やればいいんだよ。
ほれ時間だろ、もう行った行った」
ドリスが追い払うように手を振る。
「わかりました。お邪魔しました」
具体的なアドバイスはもらえなかった。
しょんぼりと出口へ向かう。
「後で話聞かせてくれな~モノクルの助手君」
去り際にニヤニヤと手を振るドリスにため息をつきながら僕はドリスの修理屋を後にした。
なんか適当な大人しかいなくないか……
ドリスの修理屋を出た僕はその足でそのまま、モノクルの前に来ていた。
店の前に立っているとしばらくしてロウターがやってきた。
「おや、少し待たせてしまったかね」
「いえ、僕もさっき着いたところですから。
早速ですが、どこから回りますか?」
「そうだねぇ。ニッカ君は昼食はとったかい?」
そういえばまだ何も食べていないな。
「まだです」
「じゃあニッカ君のおすすめのお店で昼食をとろうかな。
どこかいいお店はあるかい?」
「ありますよっ!ロウターさんは甘いものとか大丈夫ですか?」
「ああ、甘味は好物だよ」
「じゃあ行きましょうか」
二人は通りへ続く道へ歩き始めた。
「着きました、ここです」
つい二週間ほど前に探し物依頼で先生と一緒に来た店『アルティ』。
あれ以来、甘いものを食べたいときに何度か来るようになってしまうほどの虜になっていた。
「おお!アルティじゃないか。ニッカ君見る目あるね」
店の看板の文字を見てロウターが笑顔をみせる。
「ロウターさん知ってるんですか!?」
その言葉に驚いた僕が尋ねる。
「私がベネットに住んでいたころたまに来ていたよ」
「そうなんですね。そんな昔からあったんだ、このお店」
以外な話を聞いた。
先生と働き始めてベネットのことをかなり知れてきたなと思っていたがまだまだなのかもしれない。
後でベネットのこと詳しく聞いてみようかな。
「ここでの会話もなんなんで中に入りましょうか」
「ああ、そうだね」
店のドアを開け二人で中に入る。
「いらっしゃいませ、おやニッカ君じゃないか」
アルティの店主、サディックが出迎えすぐに僕に気づく。
「こんにちは、二人なんですけど空いてますか?」
「空いてるよ、案内するね」
店内はこの時間にしては客は少なく、僕とロウターは四人掛けのテーブルに案内された。
「サディックさん、ロールレッシュを二人分お願いします」
「わかりました、少々お待ちください」
丁寧な対応で調理場へ下がっていくサディック。
「相変わらずロールレッシュは人気だね」
調理場へ戻っていくサディックを眺めながらロウターが懐かしむようにつぶやく。
しばらくして、サディックが両手にお皿を持って調理場から出てきた。
「お待たせしました。当店のおすすめロールレッシュです」
サディックは僕とロウターの前にお皿を置く。
「ごゆっくりどうぞ」
そう言うとサディックは調理場へ戻っていった。
「いただきます」と手を合わせ、ロールレッシュを食べ始める。
「おいしいですか?」
「うん、変わらない思い出の味だ。とてもおいしいよ」
ロウターは一口食べて笑顔で頷いた。
「ごちそうさまでした」
昼食を食べ終えた僕たちは店を出る。
「これから町中を順番に巡っていこうと思うんですけどいいですか?」
「ああ、それで構わないよ。この町がどう変わったのか見るのが楽しみだね」
ロウターが笑顔で頷く。
僕たちはゆっくりと次の目的地に向けて通りを歩き始めた。
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