第19話 喫茶店主の探し物(14)



「私たちはこっちだからここでお別れだな」

ドリスが右を指さしながら言う。


暗くなる前に森を抜けた一行は来た道を進んで帰路についていた。

今、一行がいるのはベネットとフェブラルへ続く分かれ道。

短い時間ではあったがパーティーメンバーとして行動したもの同士、別れの挨拶を交わしていた。



「ドリス、ロイさん、ニッカ君、皆さんの観察力と情報のおかげで手遅れになる前にこの子たちを助けることができました。本当にありがとう」

ランドが丁寧に頭を下げる。

少年たちもそれぞれ「ありがとうございました」と頭を下げた。


「いやレンがいなかったら、こっちのニッカだって危なかったんだ。感謝はお互い様だぞ。」

ドリスが返すと先生がレンに近寄る。


「私からも、ニッカを助けてくれて本当にありがとう」

レンに向かって深く頭を下げお礼を言った。


「ニッカが気づいていなかったら、もっと大変なことになっていたかもしれないです。

僕だけの力じゃないですよ」

肩の傷をさすりながらレンが微笑んだ。





夕日は沈みかけていて街道には等間隔で明かりがあるが、森の方は距離感をつかめないくらい暗くなっている。


「それじゃあ、そろそろ行くか。そっちは怪我人もいるしな」


「ああ、そうだな。では、またどこかで会いましょう!」

ランドが手を上げる。


僕たちはベネットの方向へ歩き出した。

後ろ向きで歩きながら、僕たちも手を振り返す。



「ニッカ!!またねー!」

レンの声が聞こえた。


「レン!!またねー今日はありがとう!!」

僕はもう一度大きく手を振った。









「長い一日でしたね」


僕たちはゆっくりとベネットへと続く道を歩き進める。


「いやー久しぶりの外はいいもんだな。かなり楽しめたぞ」

ドリスが両手を目一杯広げて伸びをする。


「楽しめたって…ニッカは危ない目にあってたっていうのに」

先生がため息をつく。


「それは…ニッカ!お前が弱いのが悪い」

ドリスにビシッと指をさされる。


僕、ベネットの外出るの初めてだし…

こんなに危険だとは思わなかったし…



「それは無理がありますって、ドリス」


「ロイ、お前今度簡単な護身術でも教えてやれ」


「私がですか、まあいいですけど」

僕の知らないところで話がどんどん進んでいく。




「ところで何個か聞きたいことがあるんですけどいいですか?」

僕が二人に尋ねる。


「おお、いいぞ。勉強熱心だな。それでなにが聞きたい?」


「今回のバーレウルフが南下してきたみたいなことってよくあることなんですか?」


すぐに二人の表情が暗くなる。

「聞いたことない…」

「私も聞かないですね」

二人そろって首を横に振る。


「じゃあ、冒険者って本当に大変なんですね」


「ああ、あんな仕事命がいくつあっても足りない」


「ドリス、そんな言い方はよくないですよ。彼らが生活を支えてくれているんですから。それにネスのおかげで冒険者の安全度も上がったと聞きますよ」



「ネス?」

聞き覚えのない名前に首をかしげる。


「ああ、私たちの友人です。いずれニッカも会うことになると思いますよ」


「あいつは癖が強いから、会って話したらたまげるぞ。あと私は苦手だ」

渋そうな顔でドリスが言う。


癖が強いってそれドリスさんが言うんですね…





「話がそれましたね。それで他に聞きたいことは?」

先生が話を戻す。

「トマナオレンジのことはこれからどうするんですか?」


「そのことは私に預からせてほしい」

今度は真剣な顔でドリスが言う。


「トマナオレンジの情報が出回ってしまうと、昔のように乱獲されてしまうかもしれない。そうならないよう私がしっかりと裏で情報の管理をする。

だから二人ともトマナオレンジのことは言い広めないでほしい。この通りだ」

ドリスが両手を合わせて頭を下げる。


「わかりました。他の人に言わなければいいんですね」


「私もいいですよ。その代わり…」

わかるよね、とでも言いたげな視線がドリスに向けられる。


「わかってるよ、それでいいから。頼むぞ」

嫌そうな顔をしながらドリスが答えた。


「ニッカ、他に聞きたいことはあるか?」


「もうないです。」

気になっていたことを聞き終えた僕は首を振る。



「それにしてもニッカ、よく気づきましたね。角が折れているなんて」


「ああ、すごい観察力だ。ちょっとは成長したな」


二人に褒められて口角が上がる。

「僕は後ろで見ているだけでしたから。それに、見落とさないことが大事だって先生の言葉が頭に浮かんで」

僕はあの時のことを思い出しながら答えた。



「それに結果的に帽子が飛ばされたおかげでトマナオレンジを見つけることができましたし、お手柄ですね。流石、私の弟子です」

先生が胸を張る。


やっぱり弟子なんだ…




そうして歩いていると薄暗い中、視界に映っていたベネットがかなりの大きさになるところまで来ていた。


「今日はもう暗いですから、明日依頼主にオレンジを届けましょう」

先生の提案にドリスが頷く。

「その方がいいな。ニッカは初めての外でかなり疲れがたまっているだろうから、今日はゆっくり休め」

そう言うとドリスが「ほれっ」と僕のリュックを渡してくる。


いつの間にかクリスタルから取り出していたようだ。

それに気づかなかったってことはドリスさんの言う通り疲れがたまっているんだろうな。




ベネットのそこまで大きくもない門の下に着くと先生が手を合わせる。

「では今日は解散。二人ともお疲れ様でした」


僕たちは軽く挨拶を済ませ、それぞれの帰路についた。

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