第18話 喫茶店主の探し物(13)
急に、手に持つ帽子が重くなって落としそうになるのを何とかこらえる。
何が落ちてきたんだろう、と帽子の中を三人で覗き込むと中にはオレンジ色の果物が入っていた。
八百屋に売っているものと比べて一回り大きくずっしりとしている。
ドリスが帽子に手を突っ込んでそれを取り出してよくよく観察してみる。
「!?」
「先生!これってもしかして!」
僕が少し興奮気味に先生に尋ねる。
「ええ、とにかく中の果肉の色を確かめてみましょう!」
先生がドリスからオレンジを受け取ってナイフを縦方向にいれた。
オレンジがきれいに開いて、中からオレンジにしては赤っぽい果肉が顔を見せる。
「おい、これってやっぱり目的のやつじゃないか!?ちょっと食べてみようぜ」
ドリスが先生を見上げる。
「そうですね、チョットだけ」
なんか二人とも悪そうな顔してないか…
先生は半分にしたオレンジの一部を食べれるように小さく三切れほど切り取った。
一口大に切られたオレンジを受け取った僕とドリスは唾をのみ込む。
「いいですか?いきますよ」
口元にいつでもかぶりつけるようにオレンジを構え、先生が僕たちに目配せする。
せーのっ、その掛け声とともにオレンジにかぶりつく。
口いっぱいに爽やかな甘さが広がる。
プチプチと音を立てて果肉が潰れるたびに果肉内に閉じ込められていた甘味があふれてくる。
自然と顔に笑みが浮かんでくる。
「甘くておいしいですね。先生、これがトマナオレンジですか?」
「ですね。大きさ、果肉の色、味、どれも前情報のトマナオレンジの特徴と一致しています」
「ああ、そうだな。私たちは新人たちを助けるのに夢中で、気づかないうちに森林地域のその先のところまで来ていたようだ。それでこれは確か上から…」
ドリスの声に三人がオレンジが落ちてきたであろう崖上を見上げる。
三人の目線がニッカの黒の帽子が引っかかていた崖の途中の枝のさらに上、
崖の上から少しだけはみ出している数本の枝とそこに生い茂る葉をとらえる。
もう少し目を凝らして見てみると崖上を覆うような緑の中にポツポツとオレンジがあることに気づいた。
「あんなところから落ちてきたんですね」
上を見ながら僕が呟いた。
「さっきから三人とも何してるんだ?」
三人で上を見ていることに不思議に思ってか、ランドたちが近寄ってくる。
「みなさんの分も切り分けましょうか」
ランドにオレンジを見せながら先生が提案した。
一瞬ドリスが嫌そうな顔をしたような気がする。
「これは…オレンジ?それともグレープフルーツか?」
先生が切り分けたうちの一つを受け取ったランドがよくよく観察する。
「まあ取り合えず食べてみてください、毒とかじゃないので」
その場にいる全員分を切り分けて配った先生が言った。
それぞれ恐る恐るオレンジを口に入れる。
「甘い!?うまいぞこれ!」
ランドが声を上げた。
他の人もランドと同じような反応をしている。
「それはトマナオレンジというものでして、その果物が私たちの目的のものなんです。」
「探し物屋ってこんな冒険者みたいなこともするんですね。
でも食べちゃってよかったんですか?依頼品ですよねそれ」
エリーゼが先生に尋ねる。
「良くはないんでけど、どうしても興味がですね…」
歯切れの悪い返事をする先生。
そして先生はレンの方へ向き直る。
「それで大変言いにくいんだけど、もう一度だけレン君に力を貸してほしくてね」
先生が両手を前で合わせて申し訳なさそうにレンを見る。
「あれ見える?」先生が崖の上を指さす。
「帽子をとった要領であれも取ってほしいってことですね、いいいですよ」
「ホント!?」
先生の顔がパァっと明るくなる。
「でも今度探し物お願いするかもです。五個くらいでいいですか?」
「うんうん、全然かまわないよ!お願い」
先生の返事を聞いたレンは今度は矢尻を変えないまま弓を構えて弦を引く。
綺麗に真上に放たれた矢は見事、オレンジだけを切り離した。
落ちてくるオレンジを僕が帽子を使って受け止める。
「このくらいでいいですか」
五個ほどのオレンジをすべて、実を傷つけることなく打ち抜いたレンが先生に振り返る。
「ええ、助かりました。私の店はベネットという町にあるのでいつでも来てください」
先生がお礼を言う。
ランドたちは冒険者ギルドからの依頼であるバーレウルフを討伐し新人冒険者たちを助けた。
僕たちは喫茶店主からの依頼であるトマナオレンジを発見し手に入れることができた。(かなりレンのおかげで)
「ということはもうここにいる必要もなくなったってことか。
じゃあ、帰るか」
ドリスが手をポンと鳴らす。
「そうだな。暗くなる前に森を出てしまおうか」
ランドが笑顔で答えた。
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