第17話 喫茶店主の探し物(12)
「ニッカ良く気づいたな、お手柄だぞ」
手をパンパンと払いながらドリスと先生が近寄ってくる。
「さすがは私の弟子です」
先生が鼻を高くする。
僕って弟子なんだ…
「もう一匹の方は大丈夫だったか」
ランドがドリスに声をかける。
「まあな、私たちも少しは戦えるからな」
ドリスは得意げに腕を組んだ。
「それで今度こそ全部片付いたってことでいいの?さらに新しいのが出てきましたなんてことはないでしょうね」
エリーゼがドリスに尋ねる。
「ああ、さっきのでかいのが本当の群れのボスだろうな。体は他のやつより大きいし、角に折れた形跡はない。
群れのやつらが餌を壁際に追い詰めたのを上から見ていたってところだろう」
「なんで他のバーレウルフたちが倒されたのに、崖から降りてきたんだろう?」
僕が疑問を呟く。
すぐにドリスからそれなりの理由が返ってきた。
「まあボスは同種同士の争いに一回は必ず勝っているからな、力量を見誤ったんだろう」
続けて新人冒険者たちを指さす。
「それにこの森はこいつらみたいな新人がよく来る。それで学習したんだろうな、ここにくる人間は強くないって」
なるほどな、と感心する一同。
なにはともあれ、ことが手遅れにならずにすんでよかった。
「なにはともあれ、一件落着だな。
俺たちはこの子たちをフェブラル送り届けようと思うんだが
ドリスたちはどうするんだ?」
「私たちはまだ、目的を達成していないからな~どうするロイ」
「んーそうですね。
暗くなる前には森から出たいですし、今日はここらで一度撤退ということで。
ん?ところでニッカ、帽子はどうしましたか?」
「!?」
先生に言われて気づいた。
昨日買ってもらった黒の帽子が僕の頭の上にないことに。
急いで辺りを見回す。
しかし、それらしきものは見当たらなかった。
みんなも探してくれているが一向に見つかる気配はない。
「さっきレン君にかばってもらったときでしょうか。どこに飛んで行ってしまったんでしょう」
飛んで行ってしまった…
何気ない一言になんとなく空を見上げる。
僕の正面にいたレンが僕のまねをして顔を逸らした。
「あれ、あそこに引っかかってるやつじゃない!?」
まねをして顔を上げていたレンが僕の背中側の上の方を指さす。
振り返ると崖の上の方の壁から突き出た木の枝に黒の帽子が引っかかっているのが見えた。
「すごいな、あんなところまで飛んだのか」
ドリスが両手を目の上にかけて見上げる。
「上るのは現実的に厳しそうですね、どうやって取りましょうか」
ポロポロと崩れる壁を触りながら先生が言った。
みんなが頭を悩ませているとレンが手を上げた。
「あの俺が取りましょうか?」
「レン、あれとれるの!?」
「うん多分、まあちょっと見てて」
そういうとレンは腰にかかった筒から矢を一本取り出す。
そして、尖った矢尻を外して丸いものに付け替えた。
「これでよしっと」
そう呟くと弓を崖上に構える。
「怪我してるんだから、無理はしちゃダメよ。」
エリーゼの心配に「大丈夫大丈夫」と返事をしながら弦を引いて矢を放った。
ほとんど地面と垂直に放たれた矢は枝へ真っ直ぐに進んでいって帽子をかすめる。
かすめられた帽子はバランスを崩し、そのままフワフワとレンの手元に落ちてきた。
一連の出来事にあっけにとられていると
「はいニッカ、大事なやつなんでしょ」
レンが笑顔で帽子を差し出してくる。
「ありがとう!レンの弓すごかったよ!」
受け取ってまたお礼を言う。
「ほんとだぞ!レンお前あんな芸当できたのかよ!」
ランドがワシワシとレンの頭をなでる。
「今日はほんとに大活躍ね!」
ランドの横に立ってエリーゼがレンを褒める。
「レン君、私からもありがとうございます」
先生も頭を下げる。
レンに取ってもらった帽子を手に持って眺めているとドリスが寄ってきた。
「その帽子って意外と軽いんだな。見た目の色的に重そうだと思ってた」
「僕、他の帽子かぶったことないんでわかんないんですけど
飛んで行っちゃたり、簡単に落ちてきたり意外と軽いんですかね」
「珍しいな、帽子かぶったことないなんて。あいつの子だろ」
「ん?あいつの子?何のことですか?」
突然の意味の分からない発言に頭がついていかない。
すると、先生が慌てたように寄ってきてドリスの口をふさいだ。
「それにしても手元に戻ってきてくれてよかったですね💦」
先生はなにか知っているのかな、さっきのドリスさんの発言。
そんなことを考えていると上からなにか丸いものが振ってきて僕の持っている帽子の中にポスッと入った。
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