第16話 喫茶店主の探し物(11)
ん?何かおかしくないかあのバーレウルフ。
急いで頭の中で森に入る前のドリスの情報と照らし合わせる。
やっぱりちょっと変だ!
「ドリスさん、あのバーレウルフよく見たら角が折れてませんか?」
さっきエリーゼがとどめを刺したバーレウルフを指さす。
「ん?お前、目いいな。ちょっと近寄って見てくる」
ちょこちょことドリスがバーレウルフの死体に駆け寄る。
「一人は危ないですよ」
ランドも後を追う。
さらにはとどめを刺したエリーゼ、その職業柄か異変があると反応してしまうロイ先生までもがその死体に寄っていく。
——————————
「おいランドここをよく見てみろ」
しゃがんでバーレウルフの角を観察していたドリスがランドの袖を引っ張る。
「これは!?」
「お前も気づいたか、わずかにだが角が折れた形跡がある。
まったく、こんなに見分けがつかないように折れるなんて」
ドリスが両手を広げて呆れた態度をとる。
「いやドリス、それどころじゃないだろ。
こいつが群れのボスじゃないんだとしたら、まだ本当のボスは生きていることになる」
ランドの言葉を聞いたドリスはすぐになにやら思考し始めた。
「自分は出てこないで群れの連中に狩りをやらせるくらい慎重なやつだ。ずっと機会を伺っているはず………!?」
ドリスは勢いよく後ろに振り向いた。
そう、この瞬間、今この瞬間だけは脅威がなくなったと思い全員の気が緩んでいる。
そして相手の脅威である大人の冒険者たちは怪我人、子供と距離のある場所に集まっている。
つまり餌を狙うなら絶好の機会であるということだ。
どこだ!どこにいる!必死に周りを探すがバーレウルフの気配はない。
そのとき、
ドリスの目にニッカを含めた数人の子供たちが映る。
「!?」
上か!
ドリスが崖の上に目をやる。
そこには今にも駆け下りてきそうなバーレウルフが二匹。
片方は足元に倒れているものと大差ないがもう一匹は明らかに体が大きい。
次の瞬間、その二匹は臆することなく崖から飛び出した。
「ニッカ!上だ!!!」
ドリスは叫ぶことしかできなかった。
——————————
なにやら僕の些細な一言で大人の人たちが集まって真剣な顔をしている。
余計なことを言ってしまったかもしれない、と少し後悔する。
その中でもドリスは一層深刻そうになにかを考えている。
ふとドリスが周りの茂みを何度の見渡しだした。
その顔はなんだか焦っているようだ。
そんなことを考えているとドリスと目が合った。
しかしすぐにドリスの視線が僕の上にいく。
視線を上に向けたドリスが目を剥いた。
次の瞬間ドリスが指をさした。
「ニッカ!上だ!!!」
反射的に上を見ると崖を駆け下りてくるバーレウルフ二匹、ものすごいスピードだ。
やばい!
逃げようとするが体が石にでもなってしまったかのように重く動けない。
二匹のうち大きいほうがニッカに襲い掛かる。
バーレウルフのその鋭い爪がニッカを切り裂こうとしたその瞬間、横からの衝撃で間一髪回避する。
僕はそのまま地面に倒れ込んだ。
顔を上げると自分の体の上にレンが覆いかぶさっていた。
レンが左肩を抑えながら笑顔をつくる。
「ニッカ大丈夫?いててて」
「僕は大丈夫、そんなことよりレンの肩は!?」
「大丈夫、ちょっとかすった程度だから。
それより僕の後ろに隠れてて!」
さっき僕に飛びついた衝撃で弓を落としてしまったレンは武器を持っていない。
態勢立て直したウルフがもう一度、飛び掛かってくる。
レンは体で止めるかのように両手を大きく広げた。
バーレウルフの角がレンを切り裂こうとしたそのとき
僕の両脇からランドとエリーゼが飛び出した。
二人はその勢いのままバーレウルフを十字に切り裂いた。
切られたバーレウルフは弱弱しい鳴き声を漏らすとその場に倒れこんだ。
「「レン怪我は大丈夫!?」」
ランドとエリーゼがそれぞれの武器をしまいながら振り返ってレンに駆け寄る。
「うん、ちょっと引っかかれたくらいで大丈夫だよ」
レンが二人に肩の傷口を見せる。
レンの言った通り傷はそこまで深いものではなかった。
もう一匹のほうを処理したドリスと先生が駆け寄ってくる。
「レン、さっきは守ってくれてありがとう」
応急処置を受けているレンにお礼を伝える。
「とっさのことだったからね、頭より先に体が動いたんだ。
ニッカに怪我がなくて本当に良かった」
「危険を承知で飛びついてニッカ君を守ったんだ、立派なことだよ。レン、成長したな」
ランドがレンの頭を優しくなでた。
レンが目を丸くして僕の方へ向く。
僕は笑顔で頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます