第15話 喫茶店主の探し物(10)



一行は警戒態勢で森を進んでいた。

先ほど見つけた痕跡を辿って歩みを進めるがいまだに痕跡が途切れない。


「これほど血を流し引きずられているとなると生きている可能性は低いか」

重く低い声でドリスが呟く。


みんなの顔がより一層真剣になる。


先頭を進んでいたランドが振り向く。

「もし接敵した場合、三人はすぐに俺たちの後ろに隠れてください」

僕、ドリスそして先生が頷く。


その時だった。




「来るなぁ!!!!!!」


遠くから人の叫び声が森の中に響く。


それは僕たちの行く先からのものだった。


途端にランドとドリスが走り出す。

僕たちもそれを追うように声の方へ向かった。






「来るな!なんでこんなところにこんな奴らがいるんだよ!」


かなり森の奥まで来ていたようだ。

膝まで伸びた草をかき分け、絡まった枝を避け進んでいくと

壁を背にウルフの群れに囲まれた冒険者たちが数人見えた。

何人かは怪我をしており、怪我を負っていない者が前に立って無我夢中で剣を振り回している。


「あれだ。あの囲んでいる奴らがバーレウルフだ!」

ドリスが指をさして叫ぶ。



「あいつらを助けに行く!

エリーゼはついてこい、レンはここから俺たちの援護だ!ドリスたちはレンのそばを離れないでくれ」

ランドが全員に簡潔に指示を出す。


みんなが頷いたのを確認するとエリーゼと共に走り出した。

 次の瞬間、レンが冒険者たちに当たらないようバーレウルフの足元に矢を放ってけん制する。

バーレウルフたちが後ろに下がったところをさらにランドが大剣を振って距離を開けさせた。



「怪我人はいるの!?回復薬が入ってるから使って!」

エリーゼが怪我をしていない冒険者の少年に袋を差し出す。

少年はお礼と共にそれを受け取って怪我を負っている仲間のもとへ向かう。




 大剣を構えてバーレウルフたちと相対しているランドの横に立ったエリーゼが腰の短剣を抜く。

人間の数が増えてもバーレウルフは引き下がることはなかった。


そこからはあっという間の出来事で、新人では苦戦するバーレウルフもランド、エリーゼそしてレンの弓の前では、なすすべなく一匹また一匹と倒れていった。





「す、すごい」

レンの後ろに隠れながら戦況を見守っていた僕が人間離れした動きの戦闘に唖然として呟く。


「当たり前だ」

やけに堂々としているドリスに肩を小突かれる。

「森に入る前に金属のカードみたいな物を見せてもらっただろう。

あれに書いてあった冒険者ランク、あいつのはかなりの高ランクだった」


「やっぱり詳しいですね、ドリスさん。僕には何が書いてあったのかさっぱりで…」


「まあな、知り合いが冒険者関係の仕事をしているからそっち方面はな」

得意げに鼻の下をこする。


「まだ、一匹残っていますから気を抜かないで」

レンが顔だけこちらに向ける。


 もう向こうの戦闘はあらかた終わっているようで、最後の大きめの個体もランドとエリーゼに追い詰められている。


ランドがウルフの正面に立ち注意を引く。

その隙にエリーゼが横から一気に懐に飛び込むと短剣で首元を切り裂いた。

力なくその場に倒れ込むバーレウルフ、完全に倒し切ったのを確認して二人は冒険者たちのもとへ向かう。



「怪我人は!?命の危険がある者はいるか!」


「大丈夫です。助かりました…もう少し遅かったら全員あのウルフにやられてました」

怪我を負っていない冒険者がランドへお礼を伝える。



遅れて僕たちも集まる。

「レン、また弓うまくなったね」


「そうかな、うまくなれてるならよかった」

エリーゼに褒められてまんざらでもなさそうにレンが頬をかく。



「ランド、バーレウルフは全部倒したのか」


「ああ、ドリスの情報通りであれば数はあの程度だろう」


「私の情報を疑うのか?」


「いや、まさか。情報屋のドリスなんて一部じゃ有名人だぞ」


「群れのボスらしきやつもいたんだろうな」


「ああ、最後にエリーゼがとどめを刺したやつが体格がでかくて体に古傷が多くあった。

おそらくあいつが群れのボスだろう」


「そうか、それならいい」



ひと段落ついて張り詰めた空気がとけていく。

ひとまずみんな助かってよかった。

ほっと胸をなでおろした僕はぼんやりとさっきエリーゼがとどめを刺したバーレウルフに目をやった。

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