第14話 喫茶店主の探し物(9)


「ドリス、先にバーレウルフについての情報を共有しときませんか?」

森に入れるとなってテンションの上がっているドリスに先生が言う。


「私たちとしても森に入る前に確認はしておきたいです」

ランドの意見にエリーゼとレンが頷く。



「それもそうだな、よし!」



六人はドリスの情報をもとに作戦を立てたり、隊列を組んだりした。

ドリスの持っているバーレウルフに関する情報はこうだ。


《バーレウルフ》


・体長 約1,5メートル

・頭部に鋭い角が生えている

・群れで行動する(一つの群れに6~8匹)

・群れにはボスがいる

・二つの3匹前後の集団のボス同士が互いの集団を吸収しようと争う。

・数が増えすぎるのを好まないため、ボスが何度も争うことはない。

・負けたボスはだいたい角が折れている。



「まあ、だいたいこんなもんかな」

まだ何かあったかな、と記憶を呼び起こしているドリス。

しばらくして「多分もうない」とランドに首を振る。


「森の中では俺を先頭に、ロイ殿、エリーゼ、ドリス、ニッカ君、レン、この順で列になって進もう。

異論はあるか」

ランドの提案に、異論はないと全員首を横に振る。


「じゃあ、今度こそ行くか」




「ニッカ君だよね。君の探し物屋?ってどんな仕事なの?」

後ろを歩いていたレンが声をかけてきた。


「うーん、普段は町の中でできる範囲の依頼を受けてその探し物を探すっていう仕事かな。

でも、僕は始めたばっかだからそこまで力にはなれてないんだよね」


「最初はみんなそうだよ。僕だって大変だったからね。いつかできるようになるよ」

年の近いレンに励まされてなんだか元気が出た。


「冒険者ってどんなことをするの?」


「依頼を受けて報酬をもらって生活する。危険な依頼もあるけど、だいたいニッカ君と一緒かな」


「でもすごいよレン君、そんな年から危険な依頼もこなしてるなんて」


「ううん、そんなことない。危険な依頼の時はランドとエリーゼの後ろに隠れて何もできないんだ…」

手に持っている弓をさすりながらレンは苦笑する。


「大丈夫だよ、さっき言ってくれたでしょ。いつかできるようになるって」


「うんそうだね、ニッカ君の言うとおりだ。お互い頑張ろうね」



そんな会話をしながら歩き進める。

一行が森に入って一時間ほど、バーレウルフの住処には近づいているのだろうが

確証を得られるほどの痕跡は見つけられずにいた。




「んー今のところ何の痕跡もないな。ここは少しひらけているからな、何かあると思ったんだが…」

地面を確認していたランドが立ち上がる。



「そうでもなさそうだぞ。ロイ、何か見つけたか」

ドリスが反対側でエリーゼと辺りを散策していたロイに呼びかける。


「ちょっと待ってくださいねー

ん!?ちょっとこっちに来てこれを見てください」


ロイの呼びかけに全員が集まる。

先生の指さす地面を見てみると微かにだが何かが引きずられた跡があった。

周りの雑草と比べてもそこだけは同じ方向に倒れていて何かが通った痕跡であることは僕にでもわかった。

それは森の奥の方へと続いている。


「流石探し物屋だな」

ドリスがロイの背中を軽くたたく。

ロイはなぜか硬い表情で固まっていた。


「先生どうしたんですか?大丈夫ですか?」

僕が固まっている先生に声をかける。


するとおもむろに先生がさらに先の地面を指さした。


全員がその先に目をやる。

森の奥へ倒れている雑草、よくよく見てみると赤黒い何かが付着している。

木々の葉の隙間から指す日の光がそれを照らす。



「「「血!!!」」」


急いでドリスが駆け寄って地面にしゃがみ込む。

明らかに血であることを確認したドリスが顔を上げてランドに言う。

「比較的新しいものだ。ランドどうする、こういう場合の判断はお前がするべきだ」



「ま、待ってください!この血が人のものと決まったわけではありません。焦って森の奥へ行くのはどうなのでしょう」

ドリスとランドの間にロイが割って入る。


「ロイ殿の言う通りだな。ただ逆に人のものである可能性もある」

落ち着いた声でランドが言う。


少しの間ランドが方針について頭を悩ませる。

辺りは沈黙に包まれた。

五人がランドの判断を固唾を飲んで待っているとランドはゆっくりと口を開いた。



「今からこの跡を辿って奥に進む。今までより慎重にいくぞ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る