第13話 喫茶店主の探し物(8)



「ああ、俺はランド、君たちに危害を加えるつもりはないから警戒は解いてくれないか」

男は警戒心Maxのドリスと先生を両手でなだめる。


ドリスと先生が少し顔を見合わせると頷いた。



「わかった。私はドリス、こっちの胡散臭いのがロイ、後ろの黒の帽子のやつがニッカだ。

私たちは今から、わけあってあの森に入りたい」


ドリスの適当な紹介に顔をしかめる先生。

仲が悪いわけじゃないんだけどな…


「どうもランドのパーティーメンバーのエリーゼです。よろしくね」

「こ、こんにちは、レンです。よろしくお願いします」


ランドの後ろに立っていた二人とも挨拶を交わす。

二人もランド同様、こちらに敵意はないようだ。



「俺たちは東のフェブラルという町を拠点に活動している冒険者だ。

ある依頼であの森に用があるんだが、内容的になかなか危険でな。

今は森には入らないようにしてほしいんだが…」

 ランドは申し訳なさそうにしかし安全のために断固として譲ることはしなさそうにドリスを見る。


「フェブラルか、たしかあの町には冒険者のギルドがあるよな。

そこから来たということか。なるほどな~、う~ん」

小さくうなりながらドリスが考え込んだ後、顔を上げてランドに尋ねる。


「依頼内容は言えないものなのか?こっちもあまり時間がないんだが」 


少し悩んだランドが口を開く。


「あの森は薬草採取など新人向けの依頼で行くことになる、比較的安全なエリアなはずだった。

しかしここ最近、あの森に足を踏み込んだ新人冒険者たちが戻ってこないという報告があってな。

で、本部が調査隊を出した」


「それで調査の結果は?」


「バーレウルフ。北側の地域を生息域とするその肉食動物がどういうわけか、南下してあの森に住みついてしまった。

あそこは新人が行くようなところだ、もちろんバーレウルフの敵となるような存在がいるわけもない。

でもって、そのまま放置できるわけもない。そこで、俺たちに討伐の依頼が回ってきたということだ」

 

ランドが続ける。


「まあ、一冒険者に立ち入りを禁止する権利はないからな、

忠告として受け取ってくれ。

ただ、安全は保障できないということは理解しておいてくれ」


伝えることは伝えたと、立ち去ろうとするランド一行をドリスが止めた。


「お前たち、バーレウルフのことはどれだけ知っているんだ?」

質問の意図を察した僕が先生に目配せすると、先生は「大丈夫ですよ」と頷いた。


ドリスが情報屋だということはできるだけ伏せておくようにって言ってましたよね!?




「ある程度はな。ただ、実物を見たことはない」

ランドが簡潔に答える。


ドリスが指をピンと立てる。

「なら提案がある」





「私は情報屋だ。そしてお前の言うバーレウルフを実際に見たことがある。

たぶん情報もお前たちより多く持っている」

突然の告白に驚く冒険者三人。


というか、こっち側二人も驚いてるから五人か。

そんな直接的に言うとは。



「ドリスってあのドリスか!?

それで提案とはなんだ」



「ん?私のことを知っているのか。

まあいい、簡単に言うと取引だ」

一呼吸おいてドリスが続ける。


「私の持っているバーレウルフに関する情報を提供する代わりに、一緒に森に入ってくれ。

悪い話じゃないだろ。それにこの二人は探し物屋だ。バーレウルフの住処を探すのに力を貸せる」

親指で僕たちを指しながらドリスは強気で言った。



「私たちも協力するんですか」

先生がドリスに耳打ちする。

「あたりまえだ、そうじゃないと情報をやる私だけ損するじゃないか」

「わかりました」



「ドリスさん、少しパーティーで相談させてくれ」

ランドが真剣な表情で言う。

「ああ、急がないでいいぞ。あとドリスでいい」




しばらくしてパーティーの方針が決まったようだ、ランド、レン、エリーゼの三人がこちらに寄ってきた。

ランドが一歩前に出て頭を下げる。


「俺たちでよければよろしく頼む。

しばらくの間、パーティーということでこっちのメンバーはそれぞれの名前で呼んでくれればいい」


ランドがそう言うと後ろの二人も笑顔でペコッとお辞儀をした。


「そんな頭なんて下げなくていい。

こっちだってお願いする立場なんだ。

じゃあ、よろしくな。ランド」


ドリスがそう言うと僕たちも頭を下げる。



「じゃあ、出発~!」

ドリスが元気よく手を突き上げた。




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