第12話 喫茶店主の探し物(7)
ロイ一行の今回の目的地はベネットの北側である。
しかしベネットは東西にしか出入り口がないため彼らはまず東へ街道を進んだ後
そこから北西方向に歩みを進めた。
「ロイ疲れたぁ。お腹すいたぁ」
うへぇという顔でドリスがロイに助けを求める。
「かなり歩きましたね。時間はもう昼になりそうなので休憩がてら昼食でもとりましょうか」
太陽に手をかざして空を見上げていた先生が言う。
「あ、そういえば母から三人分のお弁当渡されてて、良かったらみんなで食べませんか」
「いいなーそれ!あの木の陰になってるところでいいんじゃないか」
休憩と昼食という言葉を聞いて元気になったドリスが木を指さす。
「そうですね。あそこで一度、休憩しましょうか」
「あー、涼しいー」
ドリスが木陰につくや否や横になる。
「ニッカ、お弁当はリュックの中ですか?それなら一度クリスタルから出さないと」
はい、と僕が頷くとドリスがさっきのヘロヘロな状態からは考えられないほどの速さでクリスタルから僕のリュックを取り出して僕に渡す。
目を輝かせながら「はやく~はやく~」とドリスが急かす。
僕は弁当箱を出して円の形に座っている三人の真ん中に置いた。
「甘くないだろうな」と思い出したかのように言って懐疑的な目を向けるドリスに「わかりません甘いかも」生返事をしながら箱のふたを取った。
「「「わあ~!」」」
中は仕切りで三つに区切られていて、
それぞれに照りやきのチキンの挟まったパン
ロールレッシュのような果物のシロップを使って作られたパン
そして、明らかに辛そうな色をしているパンが入っていた。
「決めたか?じゃあ、せーのっ!」
ほぼ確認を取ることなくドリスが掛け声をかける。
二人が食べたいものを指さす。慌てて僕もそれに倣う。
見事に三人別々のものを選んだ。
「おお!すごいな、じゃあいただきます!」
ドリスがすぐに自分の指した真っ赤に染まった見るからに辛そうなパンを手に取りかぶりついた。
「うお」それを見た先生の口から聞いたこともないような音が漏れた。
「なんだよ」
「いえなんでも」
「お前のやつは甘すぎて気分が悪くなりそうだな」
「ドリスのやつこそ、辛すぎて何を食べているかわからなくなりそうですね」
なんでそんなことで険悪になるんですか……
「もう二人とも、そこまでにしてくださいよ。休憩中に疲れることしてどうするんですか。それに言い過ぎですよ、僕の母さんに失礼でしょ」
二人をよそに僕はチキンサンドを口に運んだ。
二人は反省してちょっと静かになっていた。
「森林地帯ってあれのことですか?」
話題を変えようと見上げた先、一面に広がる木々を指さす。
「ああ、そうだ。食べ終わったらあの中に入っていくぞ」
口の周りを真っ赤にしたドリスが答える。
「はい、森の中は休憩できる場所も限られていますのでちゃんと体力を回復しといてくださいね」
先生がドリスの口元を拭きながら言った。
「うまかったな~ニッカ、母ちゃんに礼言っといてくれ」
「おいしかったですニッカ、私の分もお礼しといてください」
「ねえねえ、あの森じゃない?」
「ああ、おそらくそうだ」
三人が食後の余韻に浸っているとなにやら遠くから人の話し声が聞こえる。
辺りを見渡すと僕たちが歩いてきた方向から三人組が近づいてくるのが見えた。
男性が二人に女性が一人、探し物屋や修理屋の僕たちと違って戦闘することを想定したような恰好をしてるようだ。
向こうも僕たちに気づいてガチャガチャと音を立ててこちらに寄ってくる。
「どうもこんにちはー、ピクニックですか?」
三人のうち一番ガタイの良い男が声をかけてくる。
「いえ、少し探し物です。休憩していました」
先生が警戒しながら答える。
「そうですか、ところで森へは行かれますか?」
「え、ええ、まあ、そうですね」
曖昧な返事でごまかす先生。
すると男は胸のポケットから鉄製のカードのようなものを取り出して先生に見せた。
僕とドリスも先生の脇から顔を出して覗き込む。
なにやら色々と文字が書いているようだったが僕には何が何だかさっぱりわからない。
「お前たち、冒険者か?」
先生の代わりに口を開いたのはドリスだった。
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