第9話 喫茶店主の探し物(4)


「それで、どんな情報が手に入ったんだ?」


「まあ、食べ終えたら話しますから、まずは昼食をとりましょうよ」


先生は紙袋からサンドイッチを取り出しドリスに渡す。


「甘くないだろうな」ドリスは疑いの目を先生に向けながらそれを受け取ってにおいを嗅ぐ。


どうやら大丈夫そうだと思ったのだろう、ドリスはサンドイッチにかぶりついた。


「ニッカも、どうぞ」

先生が僕にもサンドイッチを手渡してくる。


それを受け取って口へ運ぶ。


 朝に食べたロールレッシュとは違い、お肉の挟まったこのサンドイッチは食べ応えがある。


しばらくの間三人は黙々と昼食をとった。




 ミサさんにトマナオレンジの情報を聞いた後、帰り道にバザー会場でサンドイッチを買った僕たちはまっすぐそのままドリスの修理屋に戻ってきていた。


 得た情報をもとにドリスと今後の方針を考えるということらしい。ついでに昼食もとる。





「さて、昼食も済んだことですし情報のまとめに入りましょうかね」

三人ともが一通り食べ終えたのを確認して先生が姿勢を正した。


「それで、詳しい話は聞けたのか?」

新しい情報を前に少しウキウキしているのか食い気味にドリスが先生に尋ねる。


 まあまあとドリスを落ち着かせながら先生がミサさんから聞いた情報を簡潔に伝える。



「商業一団の団長に話を聞いたところ、ベネットの北側、森林地帯を進んでいった先にトマナオレンジの木を見た人がいるらしいです」



「外を移動しまくっている人間でもその程度の情報しかないとなるとかなり新しいものか、人が入れないような危険な場所にあるのか。なんにせよ、一筋縄ではいかなそうだな」



「これからどうしますか。もっと情報を集めに行きますか?それともオレンジを探しに出発しますか?」

先生に尋ねる。


先生は黙って考え込んでいた。


情報集めをするかオレンジ探しに行くかかなり迷っているようだ。


すると先生の代わりにドリスが口を開いた。



「もうこの町では新たな有力情報は手に入らないだろう。それならオレンジの木を探しに出発するべきだ。そしてもう一つ、今回の探し物は私もついていく」

突然の提案に僕と先生が驚いているとドリスが続ける。


「今回は情報が少なすぎる。町の外では何が起きるかわからない。情報屋かつ対応力の高い私がついていって、少ない情報の穴を埋める。これが最善じゃないか?」


「しかし、それではドリスに危険が及ぶ可能性があります」

先生が焦りを含んだ声で言う。


「お前が守ればいいだろ」

先生はまた黙り込んでしまった。



「ドリスさんはベネット近隣は行ったことあるんですか?」

今度は先生の代わりに僕が口を開ける。


「ん?ああ、昔はよくベネットの外に出ていたがそれがどうした」

質問の意図が読めていないドリスは首をかしげる。


「それなら、ドリスさんについてきてもらいましょうよ。この町の周辺を知っているなら危険も減りますよ」

先生を説得する。


「そうだぞロイ、ニッカの言うとおりだ」

ドリスの合わせる。



静かな時間が流れる。


先生は観念したように深いため息をついた。


「わかりました。ただ、危険と判断した場合はすぐにベネットに帰りますからね」

ドリスは分かればいいんだよと満足そうな表情で頷いていた。



「それで、出発はいつですか?」


「今日はこの後、支度をして明日の朝にここに集合ということにします。何日もかかる可能性もあるので、それぞれそれなりに準備してきてくださいね」

先生が今後の予定をまとめる。


ドリスもそれに異論はないようだ、軽く頷きながらロイの話を聞いていた。



「ではここらで今日は解散としましょうか。私は色々とやることがあるので失礼しますね」

そういうと先生はやや駆け足で店を出ていった。





店の中にはドリスと僕が残される。


自分も帰って支度を整えよう、そう思いドリスに挨拶だけして店を出ようとしたとき


「ニッカお前、その黒い帽子はバザー会場で買ったのか?」

カウンターに肘をついてこちらを見ていたドリスが興味ありげにそんなことを訪ねてきた。


「これですか、気に入ったものを買ってあげるって先生に言われて、そのとき目についたのがこの帽子なんです。妙に気をひかれちゃって、先生にお願いして買ってもらいました」

つい先ほどの出来事だが、そのときを思い出すように答える。



ドリスは遠い遠い何かを見ているような、思い返してるような顔をしていた。


 そしてすぐ「そうか、私も準備があるからじゃあな」とだけ言い店の奥へ消えていってしまった。




家につくまでの帰り道、さっき起きた出来事を繰り返し思い返す。


帰り際、なんであんなことをたずねてきたんだろう。


 それにドリスさんがついてくると言ったとき先生はどうしてあんなに焦っていたんだろう。



それがわかるのはまだかなり先の話だった。

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