第7話 喫茶店主の探し物(2)



「先生、今までベネットの外に出てまで探し物をしなきゃいけない依頼ってあったんですか?」


 僕は飲み物を片付けながらロイ先生に話しかけた。


先生は外に出かける準備をしながら答える。



「そういえばニッカはこういう依頼は初めてですね。数はそこまで多くありませんが、今までもありましたよ。 いままでの経験から、ベネットの外に出なければいけない依頼は事前の準備が特に重要です。なので、これからドリスのところに行きます」


「ドリスさんのところ?修理屋になにか用があるんですか?」

 僕は首をかしげる。


「詳しい話は向こうについてからします。準備してください、すぐに出ますよ」


「先生、やけに急いでますね。なにか理由があるんですか?」


「ほかにもトマナオレンジのことを聞きつけて取りに行く人がいるかもしれないですからね。この店の信用のためにも、善は急げです」


親指を立てて大げさにこちらを見る。


さっきから先生の目が妙にキラキラしているような気がする。


先生、トマナオレンジのロールレッシュ食べたいだけなんじゃ……


そんなことを考えながら、「出発しますよ」と店を出る先生の後を追った。





「相変わらず、独特なにおいですねここは。」


「来て早々に言うことか。一応情報提供が目的なんだろ。」


眉をひそめて手をパタパタしているロイにドリスが言う。


依頼があってから僕たちはすぐに先生の店を出てドリスの修理屋に来ていた。



「お前は確か…ニッカだったか。この間の懐中時計の件のときにいたよな、てっきり      あの女の子の付き添いかなにかだと思っていたが客じゃなかったのか?」


「あのときは客みたいなものだったんですけど、今はロイ先生のお手伝いをしています」


 それを聞いたドリスは、さっきの自分の店に対する小言のお返しとばかりにニヤニヤしながらロイに目を向ける。


「お前が先生ねぇ、」


「いいでしょ、べつに。そんなことよりはやく本題に入りますよ」





「先生、そろそろ説明してほしいです。本題ってなんですか?なんでここに来たんですか?」


いまだになんの説明も受けていなかった僕はしびれを切らして先生に尋ねる。


「ロイお前、言ってなかったのか」

ドリスが呆れた顔をロイに向ける。


 先生は「まあいいじゃないですか今からしますから」とドリスに言うと一転、真剣な顔で僕に向き直る。


「いいですか、今からとても大事なことを言いますからね。本当に大事なことですからね」

繰り返し念を押す先生に僕は頷き返す。


一呼吸おいて先生は口を開いた。




「ここドリスの店は一つは修理屋として知られていますが、もう一つの顔として情報屋をやっているんです。 ドリスは修理の腕と扱う情報の正確さから、多方面でかなり信用されている人物なので、今日はまずここで情報を整理しようというわけです。

 で、情報屋というのはあまり目立つのは良しとされていませんので、外ではドリスは修理屋として接するようにしてください」


 一通り説明し終えた先生はこれでいいかとドリスを見ると、ドリスは満足気な表情を浮かべた。




 説明を終えると先生はすかさず本題に入る。


「では早速ですがドリス、『トマナオレンジ』について何か情報はありませんか?

依頼主からベネット近くでの目撃情報があったようなんです。今回の依頼はそのオレンジを見つけてほしいというものなんですよ。ただ、それ以外情報が手元にないのでここまで来たわけです」



「トマナオレンジ?あの希少性の高いオレンジか。数年前までの乱獲で最近は市場でもめったに見ることがないって代物だぞ。私も実物は見たことがない。ベネット近郊でそれらしいものを見たという情報は……私の耳にはまだ入ってないな」


ドリスは首を振る。



「ドリスのところにも情報が入っていませんか……では、ほかに手掛かりに関係しそうな情報はありませんか?」


顎に手をかけて考え込んでいた先生が再びドリスに目を向けた。



 ドリスは少し考えた後、思い出したかのように目を見開いて指をピンと立てた。


「そういえば今、アメリア王国の首都の方からここベネットに商業一団が来ているらしい。 王国内の広範囲を商業活動のために移動しているその一団に話を聞けば何か手掛かりを得られるかもしれない」



「なるほど、それはいい案ですね。それでドリス、その一団は……」


「今、その一団は大通り沿いのバザー会場を中心に店を構えているぞ」

すぐさまドリスは答えた。


 新しく手に入りそうな情報を前に、情報屋の血が抑えられないのか目をキラキラさせている。


 はやく情報を取ってこいと言わんばかりの好奇心のあふれだした表情で先生を見ていた。

 

先生はというと、そのドリスの顔を見てはひきつった笑みを浮かべていた。

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