第5話 少女の探し物(5)
先生の説明を聞き終えた少女はアンを見た。
「なるほどな。とりあえずその時計はお前にやる、修理は終わっているからな」
「ありがとうございます!」
お礼をしてアンは時計を受け取った。
「これで一件落着ですね。それにしてもすぐ見つかってよかった。では、私たちは帰りましょうか。ドリス、修理費は後日持ってきます。それでいいですか?」
「あぁ、お前に免じてそれでいい」
ロイは軽く頷き踵を返そうとしたとき、
「ちょっと待てロイ、話がある。出来ればだが一対一で話したい。いいか?」難しそうな顔でドリスはロイに話しかけた。
そのドリスの雰囲気を感じ取ったロイは軽く頷き、「少し店の外で待っててもらってもいいですか?」と真剣な表情で僕とアンの方を見た。
僕たちは少し目を合わせた後、「わかりました」と店の外に出ることにした。
「今日はありがとね。これ探すの手伝ってくれて」大事そうに手に握った懐中時計に目をやりながら、アンが言う。
「先生のおかげだよ。すぐ行動に移ってくれたから見つけられたんだよ。僕はついてきただけで力にはなれなかったし。とにかく、すぐに見つかってよかった」
お互いの沈黙の時間が続く。
「お仕事困ってるんでしょ?」不意にアンがそんことを言ってきた。
「さっきパン屋の店員さんとのやり取りみてたらなんとなくそんな気がして…違ったらごめんね」
「ハハハ、よく見てるね。アンの言った通りだよ、僕はまだ自分の仕事がないんだ」乾いた笑いしか出なかった。再び、重い空気が流れる。
「じゃあさ、ロイさんのところで助手みたいな形でお手伝いしてみたら?」
見るとアンが僕の顔を覗き込んでいた。
「ニッカ君、初めて会った私の時計一緒に一生懸命探してくれたでしょ。探し物のお仕事、向いてると思った」
アンの綺麗な笑顔に見惚れて顔をそらす。
返事をする前に後ろの扉がガチャッと音を立てた。
「二人ともお待たせしました。あれ、タイミング悪かったですかね」
ドリスとの話が終わった先生が店から出てきた。
「今日は一日中ありがとうございました。その、依頼料はどうすればいいですか?」
「私への依頼料は必要ありませんよ、今回は有益な情報が得られたので。ドリスに修理の代金を払う、それだけで十分です」
「わかりました。また今度ここ伺います」
「では、帰りましょうか。すっかり暗くなってしまったので二人とも家まで送っていきますよ」
「今日は何から何までありがとうございました」
ベネット北側のある程度広い敷地に建っている大きな家の前でアンは今日のことについてもう一度お礼を言った。
一行はドリスの修理屋を出てからまずアンを家まで送り届けていた。
「今日はかなり歩いたので疲れたでしょう、ゆっくり休んでください」
ロイがアンに微笑みかける。
「では、行きましょうか」と僕に向き直る。
「はい」と返事をして、アンに軽く会釈をした。去り際、アンが「頑張ってね」と手を振ってくれたのに手を振り返した。
朝の散歩から始まり一日中探し物のお手伝い。
ついには懐中時計を見つけて持ち主の手に戻った。
勘違いかもしれないが久しぶりに人に頼られ、人の役に立てた。
悪いこと続きで重かった心は少し晴れやかな気分だった。
その心情が顔に出ていたのだろう。
「なにやら、うれしそうですね。やっぱり人助けや役に立つことをすると気持ちがいいですよね」
隣を歩いているロイ先生が僕の顔を見ながらそう言い、そのままこう続けた。
「ニッカ、もし君が良ければですが私のもとで働いてみませんか?この仕事はかなりニッカの性格に合っていると思うんですよね。それに私にとってはニッカもお客さんですからね。仕事を探しているって言っていたでしょう」
驚いて、口が開きっぱなしの僕をみて「やっぱり嫌でしょうか?」と呟く先生。
さっき先生の言っていたことを繰り返し頭の中で考える。
今日一日を通して先生のもとで働き、先生の力になりたいと心から思った。
「僕でよければ先生のもとで働きたいです!働かせてください!」
「ええ、是非。これからよろしくお願いします、ニッカ」
「よろしくお願いします、先生!」
こうして『僕と先生のさがしもの』の毎日が始まった。
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