第2話 少女の探し物(2)

「あの日はまず、天気が良かったのでこの道を一人で散歩してました」

 僕らが住むこの町、ベネットは上から見ると楕円のような形をしており、周りは塀で囲まれていて町の東西にそれぞれ小さめの門が立っている。塀のすぐ内側にはそれに沿うように、道がひいてありぐるっと一周、町を囲んでいる。

 


 町の中心から東西南北に伸びる大通り、そこを中心に商業地域が広がっている。中心部は人通りも多くかなり賑わっているが、ロイ先生の店付近のように人気のない閑散とした場所もあるのがこの町だ。


 ロイ先生の店を出て、まず最初に来たのは塀に沿って町を囲んでいる道だ。アンが3日前に歩いたところと同じところに案内されてきた。


「ロイ先生、なにか手掛かりをなんて言ってましたけど、道を歩いてるだけじゃないですか?手掛かりなんて見つかりますか?」僕は不意に先生に尋ねた。



この先生という呼び方だが、ロイ先生の店を出てここまでくる途中、自己紹介的な会話の中で決まったものだ。「先生はどうですか?先生って呼ばれるの憧れてたんですよね~」とか言っていた。



「手掛かりは見つかるかもしれないし、見つからないかもしれない、大事なのはできるだけ見落としを減らすことですよ」

 人差し指を左右に振りながら得意げにそう答えた。まるで先生が生徒にものを教えるときのようだ。



先生呼び気に入ってるんだななどと先生を見ていると、


「ところで、アンさんは階級の高い家の出身だったりしますか?」

ロイ先生がそんなことを聞いてきた。



予想外の問に僕は、隣を歩いていたアンの方を見ると、アンは少し驚いたような表情をしていた。それから、

「私はそのような出身ではないです。ただ、昔は近くの一帯を治める貴族だったと親から聞いたことがあります。さっき説明した時計の裏の花の模様は、当時の家の紋章だったみたいです。でも、かなり昔のことなのであまり当時のものは残っていないって教えられました。もちろん私は今の生活で十分満足していて幸せですよ」

と笑顔で答えた。

 


手を顎に添えてなるほど~などとブツブツ呟いている先生に対して

「なんでそんなこと聞いたんですか」と聞くと「なんとなくですよ」と返された。


「散歩が終わった後、あの日はまずこの服屋さんに入ったんですよ。ここにあった真っ白なワンピースに一目惚れしてつい買っちゃいました」

アンが言う。


 もの静かな印象があったが服の話となるとテンションが上がっているようだ。僕たちは塀沿いの道をはずれ、少し行ったところの服屋の前にいた。

「では店員さんに話を聞いてみましょうか。中に入りますよ」

そういいながら先生は服屋のドアを開けた。





「ここでも、とくに有益な情報は得られませんでしたね」

 そう言いながら花屋をでた。ここまで、服屋、カフェ、花屋とアンが訪れた場所を巡ったが、懐中時計の行方はいまだにわからずじまいであった。

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