少年ニッカとさがしもの
わだち
プロローグ
第1話 少女の探し物(1)
アメリア王国、大陸の南に位置する100年の歴史を持つこの国は政治、武力、経済どれをとっても各国と比べ群を抜いている。
また、優秀な人材をたくさん輩出し隣国との良い関係築き年々国力を増大させている大国である。
この国のはずれにある小さな町ベネットに住む僕、ニッカは今年で15歳になる。この国では、15歳から親元を離れ自分にあった職業を探す……のだが
「ごめんなさいね。うちはもう人が足りてるの」
パン屋のおかみさんが申し訳なさそうに不採用の旨を伝えてきた。
「はい。わかりました。ありがとうございました」そう返事をして店を去る。
後ろから諦めずにがんばってねとおかみさんの声が聞こえた。振り返り、軽く頭を下げてまた歩き出す。
「これで20個目か、、、今日は疲れたから帰ろうかな」
運動、勉強、その他どの分野においても目立った才がなく、特技もない僕はこの半年ほど手に職がない状態が続いていた。
周りの同世代の子たちは、国直属の騎士になったとか、その頭の良さを生かして政治や経済関連の仕事についたりとか色々と噂が流れてくる。
「ただいま。まただめだった。明日別のところを探しに行くよ」
家に帰り、今日あった出来事を母親に伝えた。
しかし、最近良くないことばかりで、だれかとしゃべる気力もないので、すぐに自室の方に向かう。
ごはんできてるから後でちゃんと食べるのよ~と母親がキッチンから声をかけてくれたが、適当に返事をして自室に戻った。
翌日、家にいるのももどかしくなって、職場探しがてら散歩することにした。
大通りを歩いていると、ふと気分転換に普段は通らない脇道にでも入ってみようと思い、道を曲がってみる。
そこは大通りと違い、昼間なのに明かりが少なく、少しジメジメしており、人二人が並んで通れるくらいの幅の道が奥まで続いていた。
どこまで続いているのかと進んでみると少し先のひらけた場所に、赤く丸い窓ガラスが真ん中についた木のドアを正面に構えたみすぼらしい建物がたっていた。
ドアのそばには、「探し物 見つけます。」の文字と虫眼鏡のような絵の看板が置いてある。
探し物…?
特にすることもなかった僕は、その建物と看板の不思議な雰囲気に魅かれて中に入ってみることにした。
「お邪魔します。だれかいませんかー」恐る恐る店の中に声をかける。
中は、閑散としており人の気配はなさそうだった。
天井からは質素なランプがかけられており、暖かいオレンジ色の光が室内を照らしている。
一人部屋程度の広さの空間に長方形のローテーブルと小さなソファーが二つ向かい合うようにして置いてあり、奥にはドアがついていた。
誰もいないのかと部屋の中を見まわしていると奥のドアが開いた。
「おやおや、お客さんなんて珍しい。まぁとりあえず、座ってください」
ドアの奥から低めの声とともに暗い茶色を基調としたスーツを着た背の高い男が現れた。
「あっ、いえ僕はただ…」と小さく答えるも雰囲気に流されるままにソファーに座ると、向かい側に座ったその男は優しそうな目で話しかけてきた。
「私ここのオーナーのロイと申します。それで、何をお探しですか?どんなものでも私が探しますよ」
「いえ、僕はただ散歩をしていてなんとなくこの建物に入ってみただけで…。何かを無くしたとかそういうわけじゃないんです。
まぁ、強いて言えば仕事先をさがしてはいますが…」
僕がそこまで言ったところで、キィと入り口のドアが開く音がした。
そちらに目をやると、僕よりも少し年上そうな女の子が立っている。
「おやおや、今日はお客さんが多いね。立っているのもなんだから、こちらに座ってください」そう言うとロイは立ち上がり、さっきまで自分が座っていたソファーを女の子に譲る。
するとその女の子は
「先客の方の探し物の後で私は大丈夫ですので、時間をおいてまた伺います」と、かしこまって去ろうとしたので、
僕は「あっ、いや僕は特に急用があってここにいるわけではないので、この子の探し物を優先してください」と言いロイのほうを見た。
ロイは軽く頷き、女の子に「彼もこう言っていますし、遠慮なさらずにどうぞ」と促した。女の子は「それなら、お願いします」と僕の向かいのソファーに腰掛けた。
「私ここのオーナーのロイと申します。何をお探しですか?私が探してみせますよ」
さっきも聞いた決まり文句でロイが質問すると
「私、名前はアンっていいます。実は、父からもらった懐中時計を無くしてしまって…心当たりのある場所はだいたい探したんですけど見つからなくて」
アンが答える。
まったく関係のない赤の他人の僕がここにいていいのかなと思いつつも、席を外すタイミングを逃したので黙って座っている。
話は続き、「その懐中時計はどのような特徴がありますか?」ロイが尋ねる。
「色は金で、時計と同じ色のチェーンがついています。時計の裏側には花の模様があって代々親から子に受け継がれている大切なものなんです」
アンが声を少し震わせながら答えた。
「いつ無くなったとかは覚えていますか?」再びロイが尋ねる。
「3日前、お買い物に出かけたときに持っていきました。昼頃から家を出て、帰ったときには暗くなっていたと思います。
なくなっていることに気づいたのは夕食を食べた後で、翌日いろんな場所を探して回ったんですけどダメでした。それで、探し物をしてくれるっていうお店の噂をきいてお願いしに来たんです」
なるほどと呟いたロイは入り口のドアの方に歩いていき、「ではひとまずその3日前に行ったところに案内をお願いしてもよろしいですか?なにか見つける手掛かりがあるかも」振り返って笑顔で言った。
アンは「わかりました」とうなずくとソファーから立ち上がり、ロイのそばに寄った。
それまで事の成り行きを黙ってみていた僕はどうしようかと考えていると、ロイが僕の方を向いて「君も一緒に来ますか?」と言った。
僕はどうせやることもなかったし、なにか力になれればと思い
「僕でよければ、協力させてください。ニッカっていいます」と伝えソファーを立つ。
「ニッカ。助かります。人手は多い方がいい。よろしくお願いしますね。では、二人とも行きましょうか」
そう言い、ロイは扉を開けた。
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