第15話
俺は人の姿に戻った。
中学生相当の背丈。身なりは特にいじってないけど、この世にはそっくりな人が数人いるという。そのままでも特に問題はないだろう。
適当に繕った私服をまとい、公園のベンチで時間を潰す。
放課後の頃合いになって腰を上げる。土と樹木の芳香が漂う空間を後にして、白菊さんの通学路を靴裏でたどる。
正面に二人組の女子が見えた。白菊さんがまとう物と同じ制服だ。
俺は微笑を作って口を開く。聞きたいことがあると告げて足を止めさせ、自身がオカルト研究会の会員であると自己紹介する。
会社員だった頃ならともかく、グランアースで年齢種族問わず幅広い相手と駆け引きをしてきた。コミュニケーションの取り方は心得ている。
微笑を崩さずジョークも交えて接したおかげか、二つの顔に浮かんでいた警戒の色が
俺は満を持して神隠しのうわさを口にする。二人の少女は快く口を開いてくれた。
いわく、峯咲学園には高慢な女子生徒がいた。理事長の孫ということもあって、権力を後ろ盾にやりたい放題していた。その所業の中には、下手をすると立件されるような内容もあったが、当時は問題にならなかったようだ。
しかしある日、理事長が病に倒れた。やがて理事の役職を下り、高慢な女子生徒は後ろ盾を失った。
女子生徒の立場は急変した。クラスメイトはもちろん、取り巻きも彼女の相手をしなくなった。教師も加わり、女子生徒は校舎内で完全に孤立した。
直接的ないじめはなかったという。暴力的な行為は警察が動く上、高慢な少女も親からの指示で武道を修めていた。腕力でどうこうするにはハードルが高かったのだろう。
かといって、過去の行いを水に流せるほどの器もなかった。
そんな彼らが取った選択は、その女子生徒をいない者として扱うことだった。声をかけられても無視、抗議の声を張り上げられても知らんぷり。やがて女子生徒は声を荒げる気力すら取りこぼし、失意のままに身を投げた。
その翌年から、学園でおかしなことが起こるようになった。
毎年生徒の一人が消える。正確には一年の間誰からも認識されず、学年が上がる頃にぽっと現れて『あれいたの?』となる。消えていた本人にその間の記憶はなく、警察も手を挙げているらしい。
興味深いのは、神隠しの対象となった生徒以外にも影響が及ぶ点だ。世界から存在が消失していると言っても過言じゃない。
俺は女子生徒にありがとうを告げて別れる。他の生徒を見つけるなり朗らかに声を掛ける。男子、女子、学年問わず情報を収集する。
奇々怪々な現象に見舞われているのに、入学希望者が減っている事実はないようだ。
当事者達が半信半疑というのもある。神隠しが、峯咲学園中等部でしか起こらないのも一つの要因として挙げられる。
伝統と格式に重きを置く学校だけに、進級の際には高い学力を必要としない。学校のアフターケアもしっかりしているため、大学進学までには問題なく学力が戻る。名門と言えば七十オーバーの偏差値をイメージしていたけど、お金持ちの世界はよく分からない。
何にせよ欲しい情報は手に入った。神隠し疑惑のある生徒の名前、消失したと思われる時期、記憶が途絶える前に足を運んだ場所。聞き込みの成果は十分だ。
俺は人目を忍んでラブリーな猫にイデア変換し、諸々の情報をアパートに持ち帰る。
部屋主の帰宅をにゃーんで迎える。布擦れの音を聞いて窓際に移動し、室内の景観を視界から消す。
白菊さんの部屋は居心地が良いけど、ずっと猫のままではいられない。
元々この世界には、失われた青春を謳歌するために戻ったんだ。食って寝ての生活を満喫するためじゃない。やるべきことは明白。決めたことをやり通すだけだ。
俺は身を丸めて魔力を練る。来たるべきエックスデーに向けて思考に没頭した。
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