第4話 〜確信〜

「立木さん!そっち行きました!」


「え!えぇ?」



 ピョンちゃんと思しき兎は、2人の股下を鋭く駆け抜け翻弄して行く、そしてピョンちゃんはネカフェから遠く位置するデパートの中に逃げ込んだ。



「デパートか、ここも閑静としてるんだろうなぁ」


「そうですね…でも、こんな大災害に巻き込まれた人達が集まっている場所がなければ、それこそおかしく感じます。」



 他のビル群と同様にデパートも、蔦に覆われ苔に浸食され寂れていた。



 やはり人の気配は微塵も感じられずに、まるで東京から丸々人がいなくなり、世一達だけがこの街にいる様な、そんな異様な空気感が漂っていた。



「本当に私達の他に人間は居ないのかしら…」


「確かに、ピョンちゃんを追いかける為にネカフェからかなり遠ざかってみても、その道中誰1人見かけませんでしたね…まるで俺達以外もうこの街にはいない、最悪この世界からも…みたいな?」


「もう…変な事考えてないで、ほら、ピョンちゃん探し続行よ!」



 そう啖呵を切り、進んで行く立木を見て、年上としてもっとしっかりしなくてはと思い直す世一であった。





 先へとズカズカ進む立木を追いかけ、世一も電気が通っておらず昼頃ではあるが、薄暗くなったデパート内を探索する。



「ちょっと暗いね、それにちょっと不気味な雰囲気…」


「はぁ…少しお腹が空いて来ましたね」


「そうね、朝から何も食べてないし…1回フードコートに寄ってみる?何かあるかもしれないよ!」


「あってどうするんですか…まさか盗るんですか?流石に非常時であってもあまりオススメはできなそうですけど…それに俺達と同じ考えをした人達がもう先に盗ってるってのがオチだと思いますけど」


「もう、こういうのはノリでしょ…もっとノリ良く生きなきゃ、ね!よっちゃん」



 そして立木に手を引っ張られて4階のフードコートにたどり着いた世一達は予想外の人物に出会った。



「え、もしかして行商人さん!!?」


「ま、まさか…あ、あぁ本当に行商人さんですありがとうございました」


「なんかデソラ関係だとキャラ変わっちゃうよね、よっちゃん」



 2人が行商人さんと呼ぶ彼は、デソラに出てくるキャラクターであり、どこからともなく馬車と愛鳥と共に現れて、プレイヤー相手に商いを始める謎のキャラクターである、行商人は生存者にしか商売をせず、襲撃者側は闇市でアイテムなどを買い揃えなければならない。



 背格好は世一達と同じくらいで、黒いマントを全身を隠す様に被っていて、素顔は誰も見たことがない、口調も演技調であまり良い行商人の様に見えないが、優しい人にしか懐かないと言われている鳥をたまに肩に止まらせている。



 品揃えはその地域によりけりで当たり外れが大きく、上級者はそこまで利用する頻度は高くないが、たまに掘り出し物が売られている時があり、そうなると生存者内でも争いが起こったりする。



 初心者の頃に行くとかなり安く割引されているので、お世話になったプレイヤーは多く、上級者になって恩返しの様な形で行商人クエストをこなすと言うのが、デソラの生存者側の定番となっている。



 ちなみに、襲撃者側の定番は闇市の商人にぼったくられ、借金を背負わされてしまい迂闊に商人を攻撃し、闇市の用心棒に捕まり20分間投獄されるというのが定番である。



「おや、生存者じゃあありませんか、是非ウチをご贔屓に、と言いたいところですがウチも困っているんですよ…最近あの兎が活発化してて、商品を度々盗んで行くんです…対策してもしきれないのでこちら側としてはもうお手上げでして、もし見かける機会があったらわたくしの代わりに懲らしめてやってください、そうしたら色々割引しときますよぉ〜」


「よっちゃん、これは行商人クエストだよね…やっぱりデソラがリアルに、」


「えぇ、流石にこれは確信を持って言えます…何らかの事象でデソラの世界と俺らの世界が融合してしまったということを…」



 この世界はもう普通じゃなくなっている事に薄々勘付いていた2人は、行商人の出現により完全にこの世界が自分達が知っている元の世界じゃなくなっているという確信が持てた。



「ねぇ、行商人さん…私達以外の生存者や略奪者を見かけた事はある?」


「ふむ、そうですねぇ…一度だけ昨日の夕方に生存者を1人、あなた達と同じくわたくしの姿を見て驚いていましたねぇ…」


「よっちゃん聞いた!?昨日の夕方って…」


「えぇ、聞きました…どういうことでしょうか、もしかしたら俺らよりも先にこの世界に連れていかれた、という訳でしょうか?それなら目が覚めた時周りに誰1人いなかったという状況に説明が付きます。」


「行商人さん!その方はどこにいったか分かる?」


「いやぁ、どうでしたかなぁ、確かしぶや?という地名の街に行くと言っていましたなぁ」


「渋谷かぁ少し遠いね」


「そうですね、でも目的も無く彷徨い続けるよりかは、目的を定めてそこに突き進むって方が楽な気もしますし、他の生存者とも会いたいですしね」


「う〜ん…じゃあ話変わって変な事聞いちゃうけど、スキルとかってどうやったら発動するとか分かる?」


「おやぁ?本当に変な質問ですねぇ…そうですねぇ、わたくしは主に商いを中心として生活しているので、あまりスキルを使う機会が無いのですが、強いて言うなら未知のエリアの探索やぶっしょゲフンゲフン、残り物をありがた~く頂戴する時に隠密などを使っていますねぇ…ただ、それらのスキルを発動する時はスキルを発動するぞ!という心意気など無く、息を潜める的なはたまた自然に溶け込む感じの感覚で発動しているので、あなた達が言うスキルなどとは少し異なってくるのではないでしょうか…そういえば先程話した昨日の夕方に来た生存者の話ですけど、あの方はちゃあんとスキルを使っていましたよ……ちなみにウチで秘蔵の品として扱っているスキルの書物があるのですが、一冊いかがですか?」



 そう言いながら行商人は、豪華な装飾が施されたケースを机に置いて開き世一の方を上目遣いで見る。



「なるほど…回答ありがとうございました、そちらの書物の方はきっと持ち合わせが足りないだろうですし今は遠慮しておきます」


「特別サービスでお安くしときますよぉ」





「よっちゃん、やっぱり私達もこの世界で発動できるんだね!スキル」


「そうですね…行商人さんの言うことは軒並み正しいと勝手に自負しているので、生存者がスキルを使ったという情報は間違っていなさそうですね、やはり渋谷に行ってみる価値はありそうです」



 ここで行商人が話した隠密というスキルは、生存と略奪両陣営のプレイヤーが取得することが出来るパッシブスキルで、モンスターから逃げるのではなく隠れる事を条件として手に入れられる。



 パッシブスキルの多くは、取得条件となっている行動を強化してくれるものであり、例えばモンスターから隠れやすくなったり、植物系のアイテムが淡く光り、見つけやすくなったりとその強化は多種多様である。



 メインやサブとは違い、単純なレベルや熟練度を上げて取得するスキルではなく、特定の取得条件が求められて、それを達成することで取得できる。



 その後も質問を続ける二人は色々と今の世界での事情や、いつどうしてこの世界にいるのかを質問した。



 どうしてこの世界にいるのか?という質問に対して行商人は、それもおかしな質問の様に感じるのですがと言いながら、彼は元々この世界の出身でどうしてとなると、商売をする為ですかね?と冗談混じりに言っていた。



 そしてここら辺の地域には初めて来たそうで、新たな顧客と売り物を探しに来ていた、そこでこのデパートを見つけ、ここを主な取引所としてやって行きましょうかねと思い3階に馬車を持ってきて構えていたと話した。



 そして今この世界での売り上げは、昨日の夕方に出会ったあの生存者が買って行ったたった缶詰3缶だけだったのだが、珍しい光を照射する魔道具を取引してくれたので、逆に得した気分だったのだと話した。



 デソラ内での魔道具とは、魔法の力が働いている〜とかではなく機械全般を指しているらしい、なぜらしいなのかは行商人やその他両陣営の味方NPCが口を揃えて機械をそう呼び、珍しがるから味方NPC達も実は地底人とかそういう眉唾物の考察が乱立している。



 運営からもキャラブックにもそれらの詳細は載っておらず、長年明かされていない謎である。



 ちなみに地底人とは生存や略奪ではなく、第3陣営の敵NPCとして存在していて、生存や略奪、どちらを選んでも必ず敵として現れる、皆一様に何かを被っているのが特徴で、両陣営の味方NPC達の恰好に酷似しているという共通点で立ったデソラの考察である。



「色々と質問に答えてくれてありがとうございました!じゃあお礼に盗っ兎を懲らしめに行ってくるね!」


「では、よろしくお願いしますよぉ」



 こうして行商人クエストにチャレンジすることになった2人は、一度デパートの入り口まで戻り、行商人の話を聞いた限りではスキルを使っている生存者がいた様なので、それを頼りにゲームを思い出し、クエストをこなしながら実験してみることになった。

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