第5話 〜遭遇2〜
「実験と言っても何をするかは正確には決めてないですよね…」
「う~ん確かにそうだけどさぁ、こういうのって意外と何とか発動できるものよ」
「たまに立木が振りかざすその理論、未だに良く分からないのですが?」
「考えすぎって事よ…そこまで出会ってから時間経っていないけど、何となくよっちゃんは考え過ぎる節がある気がするのよ」
「そうですか?もし考え過ぎる節が俺にあるのなら、追い出されるまで脳死でゲームを続けずに、ちゃんと大学に行って卒業してますよ…」
そう続ける世一に立木は少し面倒な人だなと思った。
「まぁ、いいわ…兎にも角にもスキルをどうにか発動しなければ、きっとこの世界じゃまともに生きては行けないわ」
「それもそうですね…それじゃあまずは兎探しですね、きっとこのデパート内にまだいるはずです」
「そうね…さっき行かなかった場所を
二人はこのデパートの地下に行ってみることにした、明かりは乏しかったがそこまで暗いというわけではなく、慣れれば支障は無い。
デパートの地下は生鮮食品売り場の様で、生鮮食品などは大体腐っていたが、缶詰などが所々に残っていた、少なくとも腐っては無さそうなので手頃な物を見繕って、何か行商人と取引が出来ないか、それにお腹も空いていたので腹を満たす為に、缶詰を世一のリュックに詰め込んだ、その間も盗っ兎の姿はどこにも無かった。
「行商人さんが探索したって言った割に、地下はそこまで物が無くなってなかったね」
「ラッキーでした」
地下の右側の生鮮食品売り場を探し終え、一旦1階に上がろうと決め階段へ向かっていたその時。
「あわぁ…た、助けてくれ!」
と地下の左側の奥から助けを呼ぶ声が聞こえて来た。
「ねぇ」
「あぁ、人の声だ」
「でも、モンスターとかに襲われているとしたら私達もやられちゃうかもしれないよ!そうなったら…」
「大丈夫だ、やばかったら引くって事にしておこう…」
そう言って警戒しながら奥へと進んだ、左側は二人が探索した側とは違い、お菓子などが腐った状態で放置されていたが、そこに声の主の姿は無かった、その間も助けを呼ぶ声がしていた。
「ね、ねぇ…何か変じゃない?助けを呼ぶ声は聞こえて来て、悲鳴とかが全く聞こえない、それにずっと同じセリフだし、これって何か既視感があるんだけれど…」
「俺も何か変だなとは思ったが、もし本当に助けを呼ぶ声なら助けに行きたい」
「そう、よっちゃんがそう言うならついてくよ」
「別に、無理してついて来てくれなくても大丈夫だよ」
そんな話をしている内に、助けを求める声がする部屋の扉の前に辿り着いた、その間も同じセリフで助けを求め続けていた、が近づくにつれて少し声が乱れ始めていた。
「あ、あわ…わぁ助けて、くれぇ…」
「大丈夫ですか?」
「あ、あわ…わぁ助けて、くれぇ…」
「…ねぇやっぱあいつの仕業だよねこれ」
「あぁ、間違いないと思うこいつは人の声を真似て誘い出し、狩りをするモンスターの『
「あのモンスターか、私ちょっとビジュアル面から苦手なんだよね…」
谺というモンスターは植物の様な見た目のまんま草の塊であり、そこから細長い手が2本生えている、そして人の血肉を吸い喰らって生きている為、谺の身体を見ればその血の色の濃さ度合いで、どれだけ生き長らえてきたのか喰ってきたのか分析できる。
分類としては動物に属しており肉食の獣である、基本は霧の谷という特殊フィールドでしか出現が確認されておらず、特殊モンスターとしての枠組みでの追加だったはずなので、普通のデパートの中にいるのが不思議、という訳だ。
ちなみに過去にはイベントに血肉で全身が濃く赤黒くなった谺がボスとして登場した。
そして、デソラで登場する動植物は大抵変異種であり、100年前に起きた大災害の影響で、突然変異したと伝えられている。
「とにかく開けるのはよそうよ、だたでさえ苦戦するモンスターなのに、手ぶらで挑んで勝てる相手でもないよ」
「そうですね、流石にここに突っ込もうと考える馬鹿はいませんよ、無視してピョンちゃん探しに戻りますか、それに地下があまり探索されていない理由も分かりましたし」
「そうだね、無理に挑む必要は無いよ」
その後一応左側も探索する事にし、お菓子売り場などを探索してみるも、ほとんど腐って異臭を放っていた。
そして地上に戻り次は1階、2階へと探索を進めていった。
「さっきはフードコートへ一直線に進んでいったから分からなかったけど、ここデパートって言うだけあって残り物だとしても色々な物があるね!行商人さんが目を付けるわけだよ」
「確かにかなり品物が残った状態で放置されていますね、しかしそろそろ食料だけでなく武器なども欲しいですね」
「また物騒なこと言ってる…さっきから武器武器って戦わずに逃げればいいのよ」
「逃げ切れなかった時に応戦する為に必要になりますよ」
そして3階に上がった、そこは服売り場の様で色々な服の店が立ち並んでいた。
「うわぁ…すごい量!これ全部無料…ねぇよっちゃんちょっと見てって良い?」
「状況の割に何か楽しそうですね……しょうがない、俺も少し休みたいと思ってた気分なので店の前のベンチに座って待ってますよ」
「やったー!」
と言いながら走っていく立木を見ながら、妹を思い出していた。
世一の妹の荒田桜は世一が中学生くらいの時までは、良く一緒に近所のデパートへと買い物に出かけていた時期がある、その時も欲しい物が見つかると立木の様に嬉しそうに駆けて行ったものだ。
世一が高校に上がってあのゲームが発売されたと同時に、行く頻度は劇的に減ったがそれでも土日等の休みの日にたまに連れて行く事もあった、そして親に追い出されそこから身内とは一切連絡を取っておらず、たまに妹からメールが一方的に来るくらいでやり取りはしていない。
「よっちゃん!どう?」
「どう?ってどこも変わってないじゃないですか」
「もう!鈍感な奴ね、色々と変わってるわよ…まぁ良いわきっとここにはあの兎はいないと思うから次行きましょ!」
「はぁ、分かりました…」
立木はそう言うがやはりあまり変わってはいないんじゃないか?と思う世一だったが、もう何も言うまいと口を慎んだ。
ご機嫌とは裏腹に世一に気付いてもらえなかったせいか、少し不機嫌も混じった様子で立木は4階に上がって行く。
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