第3話 〜遭遇〜

「さっきは助けてくれてありがとう!」


「気にしないでください、あのまま放っておいたら夢見が悪かっただけです」


「そういえば名前聞いてませんでしたね、私の名前は西条立木さいじょうたつき、気軽に立木って呼んでくれて良いから!」


「俺の名前は荒田世一です、好きに呼んでくれて構いません」


「じゃあ…よろしくねよっちゃん!」


「よっちゃん…響きは悪くはないですね、よろしくお願いします」



 と言うのも世一は昔一緒に遊んでいた幼馴染みから『よっちゃん』と良く呼ばれていたからだ。



 幼馴染みは世一が高校に上がるそこらで、家の事情で引っ越してしまったのをきっかけにその後の事はそこまで知らない、ただ毎年不定期で年賀状を送ってくれるので少しの近況報告、と言ってもお年玉何円貰った?から始まり、何食べた?とかそこら辺の無駄話である。



 あの後、無事ネカフェから脱出した世一達は、外の世界の変わり様に驚いていた。



「まさか東京が…こんな事になるとは」


「そうですね、昨日まであんなに騒がしかった都内が、こうも静かだと現実とは思えませんね」


「と言うかここ本当に東京?1日でここまで草木で鬱蒼としちゃうと思う?」


「ですね、そもそも地形とか諸々変わってる気がしますね…こんな大岩ここには有りませんでしたよ」



 東京は以前とは比べ物にならない程変わっていて、道路はひび割れその隙間からは草木が生えて来ており、高層ビルはつたや苔に侵食されて、今にも崩れそうなくらいボロボロで、窓も所々割れていた。



 地形もほとんど変わっていて、地面が陥没して大穴が開いていたり、隆起した地面が山を形成してる程、その変わり具合はまるで別の世界に街ごと迷い込んだかの様であった。



「まるでデソラですね…」


「えっ…よっちゃんもしかしてやってた?」


「えぇ、最近は大型アプデとかでサーバーをメンテするとか言ってましたけど、そのアプデそういえば昨日でしたね」


「あ〜そういやそうだったね、新要素とか所々ぼかされてたもんね……気になるなぁ」



『デソラ』とはゲームDesolation Worldの俗に言うあだ名である、デソラは名前の通り荒廃した世界を題材に作成されてる為、実際ゲームの世界の地名や地形は現実と似た所が多く存在している。



 そして、東京も今回のアプデで追加される予定だった街である。



「ところで、そのバッグに付いてるキーホルダー」


「あぁ、これ?リアルイベントで一位になった時にね、可愛いよねデソラのマスコットキャラクターのピョンちゃん」



 ピョンちゃんとは、ゲーム内で度々行商人と呼ばれるNPCの売り物に手を出し、困らせている言うなれば盗っ兎である、風貌は二足歩行の兎で、赤い目をして体毛は白く一般的な白兎の様だが、耳だけは緑色に染まっている。



 たまにNPC達から盗んだ盗品を身に着けている、ピョンちゃんのレアエネミーもいてバリエーション豊富である。



「可愛いですよねぇ…俺もピョンちゃんをアイコンにしてました、ところでリアルイベントで1位ってことはまさか、ゲーム名『こたつ』でやってましたか?」


「え?もしかしてあのイベントに居たんですか…って思い出した!対抗チームにいたの見ました!たしか……イチヨさんですよね!」


「はい、一応イチヨでやらさせて頂いてました」


「あの時のかぁ…こんな偶然あるんですね!よっちゃんの戦闘技術凄かったよ!まぁギリギリで私達のチームが勝ちましたけどね!」


「立木さんの罠も凄かったですよ、攻めるのに苦労したせいで負けてしまいましたがね…」



 デソラには『戦闘』『生産』『栽培』『建築』『狩猟採取』の5つの職業が存在し、メイン職とサブ職が存在していた。



 メイン職は経験値効率がサブ職の半分程度だが、どこまでも進化できスキルの数も多いが、サブ職は経験値効率が良く比較的進化しやすい点、メインの様にどこまでも進化せず基礎的なスキルしか使えない。



 ちなみに立木の罠設置のスキルは、生存者側の初期スキルにて獲得できるものである。



「しかしこれからどうしましょうか?」


「家に帰っても良いんだけどパパとママ厳しいし煩いし、家出したのもそのせいだし…」


「え!立川さん家出少女的なノリでネカフェにいたんですか?」


「そうよ、悪い?あいつら煩いんだもん、ゲームばっかやってないではやく働け〜って、てか少女って年齢でもない気がする18だし」


「俺も追い出されたのそんぐらいの年齢だったなぁ」


「え、ぶっちゃけ同い年だと思ってました…すいませんなんか、てか追い出されたの!?」


「そこはあんま気にしないでいいよ、それに同い年だと思ったはみんな言うんだよね、特に店主からは童顔だってしつこくイジられてたし慣れてるよ」



 世一達は趣味の話などで盛り上がりながら、すっかり変わった東京の街並みを見て回っていた。



 その時、世一達の目の前をすっかり慣れ親しんだ動物が横切った。



「えっ、今のってもしかしてピョンちゃん?いや、あり得ないかこここんなんでも現実だもんね…」


「いや、見間違える筈もありません…あのフォルムや緑色の耳、間違いないピョンちゃんです…!」


「うそ!?何でこんな所に?」


「とっ、とりあえず追いかけましょう!あの兎がいるって事はもしかしたらその先に、何かアイテムがあるかもしれません!」



 突如現れた盗っ兎はまるで2人を誘う様に、時折後ろを振り向きながらジグザグと移動し、建物の影に溶けて行った。

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