勇者召喚って誘拐じゃないですか? 19

 法廷に戻った我々は、証言台に立ったままである第三王子アイン様を見ました。


 そして、その視線を勇者たちに向けます。


「それでは判決に入る前に、勇者様方に問いたいことがあります」

「なっ、なんですか?」

「目黒スナオ君。タイラユウナさん。辺見ヘンミヒネル君。あなたたちは今後どうされますか?」

「どうされるとは?」

「そうよ! どういうことよ?」


 二人が慌てた様子で我が身の問いかけに答える中で、最後の辺見君は理解されているようです。


「王族に犯罪者が出た。そして、僕たちは異世界へ誘拐され、目的もない。今後の身の振り方をどうするかってことでしょ?」

「ええ、理解が早くて助かります」


 辺見ヒネル君の説明で二人も状況を理解してくださいました。


「元の世界に戻る手立てを探して戻っても死が待っています。この世界に留まるのであれば、この世界の法律に則って自らの進む道を決めなければいけません。本来、目的があれば、それを達成した報酬として、貴族などの特権階級になることもできたでしょ。ですが、それも叶いません」


 現実を突きつけることが彼のためになるか、そんなことは我が身にはわかりません。ですが、誰かが言わなければいけないことならば、我が身が彼らに伝えてしまう方が関係性が薄く恨まれても構わないと思えたのです。


「ですからあなた方はどうしたいですか? この法廷で望みを叶えられるかもしれないため、聞いておきたいのです」

「何ができるっていうのよ!」


 平ユウナさんが怒っておられますが、目黒スナオ君は真っ直ぐに我が身を見ました。


「僕らが望みを言えば叶うかもしれないのですか?」

「全てとは言いません」

「わかっています。でしたら、僕は、この世界で生きて行くための方法を教えて欲しいです」

「つまり、この世界の住民として生きていくというのですね?」

「はい!」


 目黒君の言葉に、ユウナさんはため息を吐いて、ヒネル君は嬉しそうに笑顔になった。


「俺もそれでいい。王国じゃなくてもいいから、この世界で生きていくための方法を教えてくれ」

「仕方ないわね。私もそれで」

「わかりました。あなた方の望みは、このシャーク・リブラの名において叶えることをここに誓います」


 法廷で宣言したことは嘘はなく、また判決を下した際に発した言葉は実行されます。


「ありがとうございます!」


 目黒君が嬉しそうな顔を見せてくれています。

 彼らは勇者召喚によって誘拐された被害者であり、また元の世界で死ぬはずだった亡者でもあります。


 人権がないと思う人種もいるでしょう。


 王様や宰相はそう考えておられたのかもしれません。

 ですが、彼らをこの世界に呼び寄せた原因があるならば、責任は取ってもらわねばなりません。


「さて、それでは判決を言い渡します。第三王子アイン・ノープラン・カイオス様。あなたを有罪とします。勇者召喚におけるサラサ王女を操り、勇者たちを異世界から召喚したことは、この国の法で禁忌とされています。それは最も重い刑を言い渡さなけれいけません」

「えっ?」


 我が身の言葉にアイン少年は、驚いた顔を見せます。

 聡明な彼も法律にはそこまで詳しくないのかもしれませんね。


「ですが、第三王子アイン様の後ろ盾として、公爵様が動いていたことは明白。そのため刑を半分肩代わりしていただくことで減刑処置を取ろうと思いますが、公爵様いかがですか?」


 我が身は一人目の黒幕に対して、妥協案を提供する。


 この国の人間が全ていなくなっては、政務は賄えない。


「半分とは言わぬ。刑の殆どを我が引き受けよう」

「叔父上!!!」

「可愛い我弟子アインよ。貴殿は我に操られていたのだ。今の今まで気づいていなかったようだがな。情けないことよ。シャーク・リブラ子爵。此度の一件、全て我が黒幕であり、ここにいる黒衣の男に命じて我がアインを操っていた。そしてアインはサラサを操った気になっておったのだ」

「違っ! 違う! 僕は!」


 公爵様の潔い発言に、私はそれを尊重することにした。


 ただ、なんの罪も問わないというわけにはいかない。


「公爵様の発言に免じて、アイン第三王子におかれましては、神聖国にて正道とは何たるかを学ぶ機会を与えたいと思います。今一度人としての道を学ぶ機会を得ていただきたい」


 本来であれば、学園に通う年に、他国に留学して出家しろと言っているのだ。

 王族として資格を取り戻せるのかは、本人次第ではあるが、王国の色に染めることは許されません。


「そして、公爵閣下、あなたには死刑、もしくは終身刑を言い渡します」

「うむ、それで良い」

「なっ! 叔父上! 叔父上!」

「アインよ。我は自分の行いを恥じぬ。貴殿も我の弟子であれば、恥じるな!」


 第三王子が泣き崩れる中、最後まで潔い公爵様に我が身は感動します。


「さらに、国王陛下、宰相閣下、お二人には第三王子が行った事件への隠蔽、協力の疑いがあります。いかがですか?」


 我の問いかけに、全ての視線が王へと注がれます。


「そうだな。我が王の間に、勇者たちには迷惑をかけた。彼らへの謝罪を全て済ませたのちに、我は王を引退して、第一王子イスカに王位を譲ろう」

「父上!」

「お主が生きて戻ってくれたこと心から喜ばしい」

「同じく、私も王と共に罪を償いましょう。勇者様方の後ろ盾となることを誓います」


 これが潮時でしょう。


 これ以上、罪を問いただしても彼らに多くの罪を着せることはできない。

 

「それではこれにて、法廷を閉廷します!」


 我が身は木槌を打ち鳴らしました。


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