勇者召喚って誘拐じゃないですか? 18

 我が身は相手に配慮して、白い部屋に三人だけを召喚しました。


「改めて、お越しいただきありがとうございます。王様、宰相様、公爵様」


 この国の中枢を担う三人の重鎮たち。


 彼らこそが王国であり、裏も表も牛じる人物たちです。


「うむ。して、何用だ? シャーク・リベラよ」

「はい。先ほどまでの事件解明はいかがだったでしょうか?」

「そうだな。実に見事であったと言っておこう。貴殿の推測と、観察によって全てが明るみに出た。アインが犯人であったことは悲しき事実であるが、こればかりは判明した以上は仕方ない」


 王様の言葉に感情が込められているようには感じない。


 それは、王様の左右に控えるお二人にしてもそうだ。


「此度の事件で一番疑問は、どうしてプライベートルームにいるはずのサラサ王女が、操られたのか? 闇ギルドであってもプライベートルームの地理を把握した上で、サラサ王女を操るための媒体を用意して、召喚に必要な魔法陣や魔力を用意することまでしなくてはいけません。そんなことがアイン第三王子だけでできるとは思えません。いいえ、出来たとしましょう。ですが、それを王や宰相が気づかなかったのですか?」


 我が身の問いかけに対して、王も、宰相も沈黙をされて何も話をされません。


 ですから、我が身はさらに言葉を重ねることにしました。


「今回の第三王子アイン様はサラサ王女が話す通り賢い方なのでしょう。ですが、賢いと言っても学べることは限られています。その限られた知識を導くのは大人であると我が身は考えます。何を学び、何を得るのか? それは環境が左右します。アイン王子を導いたのはあなた方ではありませんか?」


 最初は異世界からの転生者かと思いましたが、先のやり取りで確信しました。

 彼はただ賢いだけの少年です。


 幼い頃に聡明で、全能感味わう瞬間が誰しもあるでのはないでしょうか? アイン第三王子はそのように育てられたのではないかと推測できます。


 元々の性格もあると思いますが、それぞれの王子には個性があり、意図した形で育てられているように思うのです。


 第一王子は、この平和な世の中で武を重んじる。

 第二王子は、バカな行動をして王族の権威を振り翳した。

 第三王子は、黒幕になったつもりでフィクサーを演じる。


 三者三様に見えて、意図を感じるのです。


「……だからどうだというのだね?」

「えっ?」


 王様は無表情で、我が身を見ておりました。


「私が息子たちを意図して育てたとして、何か罪に問われるかね?」

「どういう意味でしょうか?」

「ふむ。我は子育てに積極的な王だと言われている。平和な世だ。民衆の好感度を上げるために息子たちに立派に育てる王というのは美談になる。だが、育てる上で普通に育てて何が面白い? せっかく時間があるのだ。退屈な政務も、昔と違って王族が全ての決定をすることはない」


 先ほどまで穏やかな雰囲気を出しておられた王は、どこか不気味で不適な雰囲気を放つ。


「王とは孤独であると言われた時代は終わった。次世代の王を育てるために、様々な手法を試したに過ぎぬ。第一王子イスカは、生まれながらに大きく健康的な肉体を持って生まれた。頭脳も悪くはない。だからこそ戦闘力を高め文武兼ね備えた理想の王を目指すために指導をした。第二王子のクリスは、小柄で容姿に優れていたため文武を学ばせながらも遊戯を教え、芸を仕込むことした」


 第一王子は文武ともに優秀で学園での成績もトップだったと聞いております。ですが、卒業後は騎士団に入り体を鍛え、部下と戦闘や戦術を模索する日々を楽しんでおられた。


 第二王子も文武の成績も良かったが、それよりもダンスや絵を描くような自由な芸術を得意していて、下級貴族のシル様に惚れるような王族らしからぬ遺物であった。


「第三王子アインは、上二人よりも聡明であったが体が弱く。頭脳を使った労働が向いていると判断した、だからこそ弟を教育係としてつけて、様々な裏を見せた」


 ここで公爵様の役目があったのか……。


 本当に最初から公爵様は全てを知っておられたのだ。


 そして、王様と公爵様が並んで飾られた肖像画、公爵様が王に対して忠誠を誓っている証だったというわけだ。


「それぞれがそれぞれ王としての資質を育てた結果。このような悲劇が生まれてしまった。それに私が罪を問われることはあるか?」


 王様は、ただ教育しただけ。


 そう言えば確かに罪はない。


 だが、第三王子に裏を見せる必要があったのか? 公爵様の後を継がせるためであっても、あまりにも幼い子供に見せるのは早かったのではないか?


「我が身には判断できないことでしょうね。法律上は問題ありません」

「ふふ、ですからあなたを選んだのですよ」


 宰相閣下が微笑んで我が身を選んだ理由を告げてきました。

 どうやら最初から、この三人は全てをわかっていたのだ。


「ですが、我が身もやられっぱなしは癪に触るので、あなた方三人に我が身から一矢報いたいと思います」

「何を?」

「勇者召喚は誘拐ではありませんか? 禁忌として定められており、王国の法では一番の重罪です。そして、今あなた方は第三王子が行った全ての事を黙認しており、公爵様は協力もしている。それは隠蔽罪に当たります。そして、王よ。あなたは第三王子に罪をなすりつけようとしていますが、我が身から言えることは子の罪や親の罪。と言った方が親としてカッコ良いですよ。さて、もういいでしょう。判決を言い渡します」

「まっ、待て!」


 焦りを見せる王たちに、我が身は指を鳴らして、白い部屋を出て法廷に戻りました。

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