勇者召喚って誘拐じゃないですか? 17

「一連の騒動で、被害を被っていないのはクリス第二王子様だけです」

「ちょっと待て! 私は何もしていないぞ!」


 我が身が説明しているのを遮るようにクリス第二王子が、自分を擁護して叫び声を上げます。相変わらずの自分中心な対応に、彼はあまり変化を遂げていないことを理解させられます。


「はい。誰も、クリス様が犯人だとは言っていません」

「うっ」


 失態を犯したことにやっと気づいてくれたようです。

 周りからの視線が居た堪れなくなった様子で、座り込んでしまいました。


「さて、クリス王子が此度の件で確かに容疑者としてあがりやすく。そして、宰相閣下の部下を務める文官が、何者かの名によって闇ギルドに今回の依頼をしました。その結果、法務省の襲撃や第一王子殺害という結果をもたらしました」


 我が身の説明を聞いてマリアンヌやサラサは驚いた顔を見せます。

 彼女たちには、第一王子が襲撃を受けて死ぬ寸前であったことは伝えていませんでした。


「さて、では誰がこんな大掛かりな事件を仕掛けたのか? それについて私は公爵様から頂いた言葉に真理があるのではないかと考えたのです。公爵様は宰相閣下を疑われていたようですが、私は欲がない者として、サラサ王女が自作自演で事件を起こしたのではないかと思いました」

「私!」


 サラサ王女が驚いて立ち上がりますが、十二歳の彼女は、ここ数日過ごして観察していましたが、聡明でありながら狡賢さは感じませんでした。


「ですが、これは私の中であり得ないと判断させていただき、最後の一人に問いかけたいと思います。第三王子アイン・ノープラン・カイオス様。証言台に来ていただけますか?」

「僕ですか?」

「はい」

「わかりました」


 王の横に座っていた聡明な顔をした美少年に証言台に立っていただきます。


「改めて初めましてアイン第三王子様」

「初めまして、シャーク・リベラ子爵」


 証言台に立たされ、これまでの説明を聞いてこの場に呼ばれたにもかかわらず、彼は落ち着いた雰囲気を保ったまま微笑んでいる。


 我が身の持論で、犯人が自分の犯行を暴かれようとする時、笑顔を見せるという知識があります。


 物語だけの話だと思っておりましたが、どうやら実際に犯人というのはそういうものなのですね。


「あなたに問いかけたいと思います。今回の事件を起こした黒幕はあなたですね?」


 我が身から発せられた担当直入の質問に、アイン王子ではなくサラサ王女が立ち上がる。


「お兄様がそんなことするはずないわ! 確かに聡明で天才ではあるけれど、お兄様はとても賢いのよ! こんなことをしても何の得にもならないじゃない!」

「はい。そうですね。確かに何の得にもならない。ですが、果たして損得だけで人は動くのでしょうか?」

「えっ? どういうことかしら?」


 我が身はこの事件が起きた当初から、犯人の目的が全くわかりませんでした。

 サラサ王女を操り、勇者召喚を行い。

 勇者たちに護衛をつけると、法務省を襲撃して、第一王子を殺害する。


 全ての事件に目的があったのか? 動機は何だろう? 


 ずっとそればかりを考え続けていたのです。


 そんなある日、公爵様の家で飾られていた兄である王と弟である公爵様が描かれた絵を見て、一つの答えが出ました。


「第三王子アイン様は、別にどちらでも良かったのではないでしょうか?」

「どちらでも?」

「はい。今回の一連の事件が、成功しても失敗しても良かった。サラサ様が勇者召喚を失敗しても良かった。法務省襲撃を失敗しても良かった。第一王子襲撃が失敗しても良かった。成功など必要ではなかったんです」


 我が身の説明に一部の人間以外は、意味がわからないという顔をする。


「アイン第三王子、質問に答えていただけますか? あなたが今回の黒幕でしょうか?」

「……そうだ。僕が全ての指示を出した。シャーク・リベラ子爵が言うように成功しても、失敗してもどっちでも良かった。僕自身を襲撃させて、死んでしまっても良かった」


 そうだ。この方は自らの命すらも賭けに投じて、今回の騒動を画策した。


「理由をお聞きしてもよろしいですか?」

「そうだね。退屈していたんだ」

「退屈ですか?」

「ああ、この世界は安定に向かっている。王政も次の代で終わりを迎えるかもしれない。いや、終わらなくてもお飾りの王と呼ばれるようになるだろう」

「何を根拠に?」

「異世界人が持ち込んだ書物を見たんだ。それは歴史書だね。異世界で住む王政の破綻や王が民のために生きる世界。それは本当に正しいことなのかな?」


 その幼く聡明な瞳で何を見ているのか、凡俗である我が身にはわかりません。


「僕は王族として生まれたなら、自分の好きなように生きたいと思うようになっていった。それが我儘であり、傲慢だと言われても、この頭脳を生かして出来ることはないかとね。だから実験したんだ。サラサを使い。叔父上の力を使い。宰相の部下を使ってね」


 王族としての矜持を語り出すアイン第三王子。


「王とは、己の欲望のために、己の叶えたい夢のために、覇道を歩む者なり。そのために今回の事件を起こした。結局はこうやって君に暴かれてしまったけどね」

「あなたは方法を間違えたのです。裏から人を動かすのではなく、表立って行動をしていれば、誰かがついてきてくれたかもしれないのに」


 我が身は聡明であり、バカな夢を見ようとした彼の思想を否定しきることはできません。ですが、彼は犯罪者です。


 ただ、私は最後に話を聞かなければいけない人物に視線を向けました。

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