勇者召喚って誘拐じゃないですか? 6

《side???》


 真っ黒な部屋の中は円卓のテーブルが置かれて、互いの顔は見えないように仕切りまで施されています。


 テーブルに座っている人数も違いに把握していないことでしょう。


 ここは秘密の依頼をする場所であり、依頼者とそれを請け負う人間というのは顔を合わせないで依頼内容と、金銭の交渉だけで仕事を執り行われます。


 それぞれがどのような立場の人間なのかは、互いに追求する必要もありません。


 むしろ知らないで済むなら知らない方が身のためになることもあるのですから。


 それらが暗黙の了解として、それぞれのテーブルについて話が行われています。


「まずは、こちらの要求を成功させていいただきありがとうございます」

「ああ、報酬通りの仕事はしたつもりだ。それで? 今度は何をして欲しくて呼び出したんだ?」


 円卓で会話を始めた二人は、依頼者と仕事を請け負った者であることは間違いないです。

 他の椅子にも人が座っているのか? そんなことはこの場では関係ありません。


 必要な人材が、取り揃えられて座っており、依頼者が求める仕事を達成できるのかどうかが肝心なのです。


「もちろん、仕事を依頼するためですよ」

「なるほど、前回は王女様を操って勇者を召喚することだったな」


 同じ依頼者が呼ばれたことで仕事の確認を行う。

 これはテーブルの周囲に座った者たちに、どのような仕事を言いつけられるのか事前に伝える意味も含まれています。


「ええ、そうです」

「今度は何をさせるつもりだ?」


 真っ暗な部屋の中では声だけで相手を特定します。

 しかし、互いに正体を知られたくないようであれば、代理を立てるなり、声を変質させる魔法や、魔導具を使って座ればいい。


「宰相閣下と王が、どうやら罠を張っているようなのです。勇者たちの周りを警戒して、誰も近づけさせないようにしています」

「なんだ? 宰相閣下か王の暗殺でも求めているのか?」

「いえいえ、そうですね。宰相閣下には近いうちに退場していただいた方が良いですが、今ではありません。ですが、王は傀儡としては最高の人物なので、このままの方が良いでしょう」

「うん? なら俺たちに何を求めているんだ?」

「王子二人の暗殺です」

「王子暗殺?」


 そう、私が計画したプラン。


 それを実行するためには、王位継承権を持つ王子二人が邪魔になるのです。


「勇者たちをこちらに引き入れるための準備ですよ」

「勇者を利用する準備だと?」

「ええ、知っていますか? ある書物に寄れば、召喚された勇者は見た目では成人を迎えているが、精神は幼く少しの精神的な揺さぶりで、力の覚醒や精神の崩壊を満たすと記されています」


 勇者召喚は私にとっても賭けでしたが成功したからには利用しないわけにはいきません。この場で集まっている者ならば、事前に勇者召喚が成功したことは調査を終えて情報として知っていることでしょう。


「なるほどな。勇者たちの精神を崩壊させて、それを利用してあんたは何かやろうとしているわけだ」

「ええ、そうです。内容までは話すつもりはありませんが」

「必要ねぇよ。俺たちは金をもらって仕事をする立場だ。金払いが良ければなんでもやろう」

「ありがとうございます。此度は大金貨1000枚(10億円)をご用意しました。そのうちの500枚は仕事をやり遂げる費用として、残りの500枚はあなた方の報酬とお支払いしましょう」


 木箱に入った大金貨500枚が入った木箱が円卓のテーブルに置かれます。


「なるほどな。それだけ危険な仕事ということか?」

「もちろんです。今回は操って何かをさせるだけの仕事ではありません。どんな手を使っても構わないので、暗殺が目的です。どれだけの人員を使えばいいのか、どのような手段を使えば成し遂げられるのか、全くわかりません。私が提示できるのはお金と、王子の二人のスケジュールだけです」


 依頼を受ける者だけが木箱とスケジュールを確認することができるのです。


 これは成功すれば、私にとっては大きな意味を持ちますが、失敗したとしても失うのはお金だけなのです。


「いいだろう。本日ここに集まった者たちにはすでに依頼者のあんたからどんな依頼が来ても受けるように交渉は済ませてある」

「ほう、それは事前準備がいいことですね」

「我々のような裏でしか生きられない者たちを活かそうとしてくれているあんたに報いたいと思っているんだ」


 意外な言葉に私は口角をあげてしまいますね。

 どんな生き方をしていようと、人に恩を感じるというのは不思議な者ですね。

 その恩返しがどんな方法で行われるにしても、私にとってはかまいません。


「それはそれはありがとうございます。それでは交渉成立としましょう」

「ああ、この場に集まった者たちで必ず成功させることを約束しよう」

「それでは私は先に失礼します」


 真っ暗な円卓のテーブル席を立ち上がって後ろに備え付けられた扉から私は外へと出ました。しばらく真っ暗な廊下が続いて外の灯りが見えてきました。


 さぁ、王国の終わりを始めましょう。

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