勇者召喚って誘拐じゃないですか? 5
どうやら王女様をハメた人間は王様や宰相閣下が、罠を張っていることに気づいているようです。
二週間が過ぎても、姿を現すことはありませんでした。
そこで我が身は、どうして王女様を使って勇者召喚をしなければいけなかったのかを考えることにしました。
今回の勇者召喚をなぜしなければいけなかったのか? その人物にとってどうして勇者召喚が必要なのか?
勇者召喚をする者にとってのテンプレとはなんでしょうか?
1、魔王が現れて倒すためには勇者でなければならないため、救いを求めて勇者召喚を行う。
2、世界の危機を救ってもらうために、新たな知恵や能力を貸してもらうため勇者召喚をする。
3、他国と戦争するために勇者を召喚して、国の兵として利用しようとしている。
4、個人の魔法使いが、己の能力を試す。もしくは、必要な何かを得るために召喚を行う。
テンプレを考えるのであれば、その者にとっては勇者召喚をすることで、何か救いを求めるためだと考えられます。
また召喚に応じる場合も強い救いの力が働いていると言われているのです。
ですが、そもそも今回の召喚は根本的なテンプレから何かズレれているように感じるのです。勇者召喚に求めることはないのですから。
我が身としては、その根本的な部分が見えていないことがどうにも気持ちの悪い違和感を覚えてしまいます。
「リベラ子爵様」
「はい? マリアンヌ。どうしました?」
「サラサ様、いえ。サラサを連れて帰ります」
「はい。十分に気をつけなさい」
マリアンヌとサラサには密かに王が護衛をつけています。
それに勇者召喚を終えた王女にどれほどの価値があるのかわかりませんが、ツケ狙っているかもしれないのです。
もしもサラサ王女を何かしらの手で操れたとして、それが出来た人物は誰なのか? 今回の事件はなんとも難解な事件になりまそうです。
姿無き犯人。
記憶無き実行犯。
そして、勇者召喚でやってきたチート勇者たち。
この整合性が結びついていないように思うのです。
「おい、邪魔するぞ」
「マリアンヌたちが帰ったと思えば、随分とむさい男がやってきましたね」
「誰がむさい男だ。俺はこれでも美男子として有名なんだ」
「二十代後半になって何を言っているんですか?」
「二十代はまだまだ若いだろ?」
「人生50年。すでに半分を過ぎていますよ」
「ぐっ、そんなことはどうでもいい。お前から依頼されていた物を持ってきたぞ」
我が身は冒険者のシビリアン様にある物を取り寄せてもらうために依頼を出しました。はい。全ては宰相閣下に頂く経費があるからです。
普段は、経費などいただけませんが、今回は王女様の護衛を含んで居ますので、経費が出るのです。
ビバッ経費! お金があるって最高ですね。
しかも自分のお金を使わなくていいとか、本当に幸せです。
「喜んでいるところ悪いが、結構苦労したんだ」
「何かありましたか?」
「ああ、黒魔術ギルドと暗殺ギルドが何から揉めていたな」
「黒魔術ギルドに、暗殺ギルドですか? どちらも王都では解体されたと思っていましたが」
「ああ、実際に解体は宰相閣下の命令で行われた。しかし、主犯格は捕まっても、全ての構成員が捕まったわけじゃない。逃げ延びた奴の中には、転職して身を隠して要る者もいるんだ」
「そのような方をよくご存知ですね」
冒険者ギルドの国選パーティーにまで選ばれた人が、黒い噂のある人間と友人とは由々しき事態です。
「そいつは、足を洗って今では鍛治師をしているからな。友人なんだ」
「なるほど、昔の伝手を持つ人とお知り合いなのですね」
「ああ、そいつの話では黒魔術ギルドに大きな仕事が舞い込んできて、良い稼ぎが入ったという話だ。そして、黒魔術ギルドが、暗殺ギルドに何か仕事を依頼していたという」
「なるほど、このタイミングで良い稼ぎですか」
何をしたのか、憶測ができますね。
ですが、これは確信ではありません。
ですが、このタイミングで関係ないとは思えないですね。
「すみませんが、もう少し詳しく情報を集めていただけますか?」
「うん? 黒魔術ギルドと暗殺ギルドのか?」
「はい。今回のアイテムもですが、そちらも今回は関係していそうな気がします」
「お前は裁判官なのにそんなことするのか?」
「今回はイレギュラーだと思っています。色々な思惑が絡み合っていそうな気がするので、テンプレからはズレているのかもしれません」
「お前の知識にないってことか? 面白いじゃん」
「面白くはありませんよ。推測ができない場合は面倒なだけです。まぁ実際には別のテンプレが隠れているのかもしれませんがね」
「別のテンプレ?」
我が身はシビリアンから受け取った品物を見つめながら、アーサーに餌をあげて思考するように呆然と考え始めました。
「全く、とにかく調べてくればいいんだろう。報酬はきっちりもらうからな」
シビリアンを見送りながら、パメラを膝に乗せてブラッシングをします。
「テンプレに隠れたテンプレ? さて、どのような相手なのでしょうか?」
霧の向こうに隠れる相手を探すようで、ついつい口角を上げてしまいますね。
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