勇者召喚って誘拐じゃないですか? 4
勇者として召喚された三人は、訓練を開始することになり今までの勇者たちに習って一ヶ月の期間が設けられました。
我が身と契約を結んだことで、宰相閣下の約束を守ってくれているようだ。
彼らの動向を宰相閣下の配下たちが、監視していることもあり、十分にセキュリティーは守られていることでしょう。
「こっ、これはどうすれば良いのかしら?」
「それはですね」
我が身は頭を悩ませながら、マリアンヌが相手をしている美少女に目を向けています。宰相閣下より、とんでもないお荷物を預かることになってしまった。
「リベラ子爵。こっ、これで問題ないかしら?」
「確認させていただきます」
此度の一件の加害者であり、当事者の一人であるサラサ・ノープラン・カイオス第四王女様が我が仕事場で書類整理をしておられます。
「結構です。次の仕事をお願いします」
「わかったわ! あっ、わかりましたわ!」
わざわざ敬語に言い直して、次の仕事に取り掛かるサラサ王女。
どうして幼い彼女が我が仕事場に来ることになったのか? それは勇者たちとの契約を結んだ後の出来事だ。
「さて、勇者たちとは上手く契約を結ぶことができた。これも君のおかげだね」
「いえいえ、我が身など契約を結んだだけです」
「ふむ。そうかそうか、ならもう一つ君に仕事を頼みたいんだけどいいかな?」
「はい?」
我が身は宰相閣下に連れられてもう一度王族だけが住まうプライベートルームへと戻ってきた。
そこには王様と王妃様、そして今回の事件を引き起こした張本人であるサラサ様が待っておられました。
「お待たせしました。我が君」
「うむ、宰相よ。話し合いは済んだのだな」
「はい。こちらのシャーク・リブラ子爵の能力によって契約は結ばれました」
「そうか、リブラ子爵よ。感謝する」
「いえ、王の命とあらば、臣下の勤めにございます」
「褒美は宰相から送らせよう。して、宰相今後だが」
王と王妃がいるプライベートな謁見の間はソファーに座って王と向かい合います。
なんと恐れ多いと思うが、我が身としては内心ではどうでも良いと思っていました。
こうやって王様と向き合うのも仕事の一環です。
「はい。やはりサラサ様にも罰は受けて頂かなければなりませんでしょうな」
「やはりか」
「此度の一件は禁忌を発動したことが発端であることは間違いありません。そして、それを行なった人物であるサラサ様にお咎めなしでは他の者たちに示しが付かぬでしょう」
宰相閣下の言葉に、王様は顔を顰め、王妃様も悲しそうにサラサ様を抱きしめます。サラサ様も、両親から話を聞いていたのでしょう。悲しみに涙を流しておられます。
「して? どのような罰になる?」
「はい。一つは王族から廃嫡されて、尼として教会に身を寄せていただきます」
出家ということですね。
悪役貴族が断罪された後に貧しい教会に出家させられる話を聞いたことがありますが、王族でも同じなんでしょうね。
「それは! まだ成人も迎えていないのだ。勘弁ならぬか?」
「ならば、貴族の家に奉公に出すというのはどうでしょうか? 親元でヌクヌクと育ったことで付け入れられた。世間の厳しさを知るために身分を隠して奉公に出すことを罰とするのでは?」
宰相閣下は手を緩めるつもりはないようです。
王族と言えども断罪されます。
それが法の厳しさであり、法の下では皆が平等だと言われる所以なのです。
ですが、それを守れる人の方が少なく、宰相閣下のように王族であろうとハッキリと言える方は少ないでしょうね。
「仕方あるまいな。して? サラサの奉公先はどこになる?」
「流石に王族を下級貴族に預けるわけにはいきません。そこで、王家に恨みを持ちながらも忠誠を誓ってくれております。マルチネス侯爵家などいかがでしょうか?」
宰相閣下の申し出に今度は我が身が驚かされます。
マルチネスとは、マリアンヌの家であり、つまりはマリアンヌにサラサ王女を預けるということではないでしょうか? マルチネス家は、先のクリス王子が起こした追放事件で王家に不信感を抱いておられます。
良い人選とは言い辛い家です。
「再び、王家と結びを作らせる意味を持つか」
「はい!」
クリス王子が切ってしまった縁をサラサ王女を人質に結ぶということでしょう。
「サラサよ」
「お父様!」
「すでに事情は話した通りだ」
我々が勇者たちと会話をしている間に、王様はサラサ王女に事情を話しておられたのでしょうね。
「はい。ワタクシはとんでもないことをしてしまったのですね」
「ああ、だが、サラサに自覚はなく何者かに操られていた。その犯人を炙り出さなければいけないんだ。その上で禁忌に触れた罪も取らなければならない」
「わかっております」
さすが王女様と言ってもいいでしょうね。
スナオ君と接している時の彼女は、どこか恋に恋する少女でしたが、事の重大さを理解して、自分の責務を全うしようとされておられます。
「うむ。それでは宰相よ。サラサのことを頼んだ」
「はっ、マルチネス家に手配して、早急に」
王様との謁見を済ませると宰相閣下の執務室へと戻ってきました。
「というわけでよろしく頼むよ」
「すみません。あまり事情を理解したくありませんが」
「もう、君のことだわかっているのだろう? サラサ王女の護衛と監視を君に頼みたい。マリアンヌ・ローレライ・マルチネス侯爵令嬢を引き受けた君だ。サラサ王女のことも頼むよ」
頼むよと言われても困ってしまう。
マリアンヌは自らの意思で仕事を始めたと聞いたが、サラサ王女は成人も迎えていない子供であり、マリアンヌ家に奉公に出てメイドとしてマリアンヌに付き従わせるつもりなのでしょう。
頭が痛くなりながら、我が身は現状の仕事風景に深々とため息を吐いた。
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