勇者召喚って誘拐じゃないですか? 3

 宰相閣下が彼らに求めたのは、王女様の断罪ではなく、その背後に控える諸悪の根源を誘き出すことです。


 彼らには囮になってもらうということなので危険を伴います。


「あの、いいですか?」


 これまで黙って聞いていたスナオ君が手をあげて発言を求めました。


「それは危険なんじゃないですか?」

「はい。そうですね。ですが、あなた方は私たちが持ち得ない特殊な能力を持ってこちらに来られました。本来であれば危険人物として拘束したのちに死刑にすることも可能でした」

「なっ!」

「勝手に召喚しておいて」

「なるほど」


 スナオ君は驚き、ユウナさんは怒り、ヒネル君は納得を見せました。


「そんなのってないわ! どうして私たちばかりがそんな危険なことをしないといけないんですか?! おかしいじゃない」


 やはり怒りを表したユウナさんがさらに宰相閣下を捲し立てます。


「いいえ、おかしなことではありません。先ほども申し上げましたが、あなた方は死ぬ寸前の人間だった。ここが天国になるのか、地獄になるのかはあなた方次第です。ですが、我々はあくまで友好な存在でいたいと思っています。ですからこうやって全てをお話しさせていただきました」


 宰相閣下は交渉術に長けている大人です。

 彼らにとって不利な条件を伝えることで、こちらに有利なように話を持っていく。


 この状況を突きつけられた三人の中で納得している彼に我が身は注目しました。


「辺見様、あなたはどう思われますか?」

「俺? 納得はできた」

「ちょっと! ヒネル!」

「ユウナ。まずは落ち着け」

「これが落ち着いてられるはずないのでしょ!」

「それでも落ち着け」


 ヒネル君が威圧を放つとユウナさんが首を抑えて言葉を発しなくなりました。

 どうやらヒネル君のチート能力に関係しているのでしょうね。


「まず、俺たちが死ぬ寸前だった事は事実です」


 ヒネル君の話にスナオ君も顔を上げました。


「そして、この世界に来たことで命を延命できている。そして、剣と魔法が使えてチート能力が使える俺たちを警戒するのも理解ができます」


 どうやら彼はこちらの事情をちゃんと理解してくれているようです。


「ですが、その上で理不尽だとも思います。いきなり放り出されて囮になれというのは俺たちにも恐怖はある」


 これも理に適った言葉なので理解できます。


「そこで、訓練期間をいただけないでしょうか?」

「訓練期間ですか?」

「はい。俺たちは自分の能力を使えると言えるレベルではない。剣も魔法もまだまだ訓練を開始したばかりで自分の身も守れない。だから訓練期間を設けていただき、その上で囮にするということではいかがでしょうか?」


 ヒネル君の言葉は納得ができる範囲の提案であり、こちらとしては期間が長くなければ問題はない。


「ヒネル。大丈夫なのか?」

「スナオ、このままここで話し合いをしていても平行線だ。それに今の俺たちは衣食住を約束されているが、それは俺たちがまだ何も知らないからだ。もしも、知らない大人たちが俺たちを利用しようとして甘い言葉をかけてきた時、俺たちはそれを判断できない」


 ヒネル君は本当に聡い子ですね。

 我が秘書に欲しいくらいです。


「だが、こちらの方々は俺たちに事情を説明して協力を求めてきている。脅しに取れる言葉も含めて誠意を見せたんだ。それに答えないでわからない知らないを通す事はできないぞ」

「ああ、ヒネルの言うとおりだ。ユウナちゃん。僕もヒネルの言う通りにした方がいいと思う」


 スナオ君がユウナさんに言葉をかけると、ヒネル君が能力を解除して、ユウナちゃんが話をできるようになる。


「ハァ〜わかったわよ。言うことを聞けばいいんでしょ。やるわよ」

「ありがとう」

「別にスナオがお礼をいうことではないでしょ。自分たちのためなんだから」


 三人組の関係性はわからないが、上手く話がまとまってくれたようですね。

 宰相閣下が我が身を見ました。


「それではここからは我が身が話をさせていただきます。我が身は法律を司る仕事をしております。シャーク・リブラと申します。あなた方には契約書にサインをお願いします。その内容も今話し合いで決まったことを互いに承諾するというものです。万が一あなた方が契約に破ることがありましたら、我が能力によって罰が生じることも含めてご説明をさせていただきます」


 眼帯にステッキを構える我が身の存在に、ユウナさんは顔を背けスナオ君は息を呑みます。


「あんたはファンタジー感満載なのに、法律家なんだな」

「ファンタジー感?」

「いや、こっちの話だ。説明を頼む」

「はい。それでは」


 我が身が能力によって生み出した計画書は、簡易法廷内で判決をされた効力と同じ能力を持つため、契約を結べば法律で定めた者として、互いに破ることはできなくなります。


 それでも能力を破る場合は互いに決めた罰則に応じて罰が与えられます。


「奴隷契約ではないんだな」

「はい。奴隷は、認められておりますが、犯罪奴隷、契約奴隷、借金奴隷しかおりません。あなた方は奴隷ではありません。ですが、もしも契約を強引に破ることがあれば、犯罪奴隷に落ちることは確実です」


 我が身に質問を投げかけたヒネル君も唾を飲み込みました。


「これにて契約は成立です。皆様のご武運をお祈りしております」


 我が身の役目はここまでです。

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