勇者召喚って誘拐じゃないですか? 7

 第四王女であるサラサ様をマリアンヌの従者として、共に出社する日々は一週間が過ぎています。

 

 勇者一行の修行期間も着々と進んでおられ、チート能力を使えるようになっていっているようです。

 このまま順調に行ってくれれば問題はないのですが、事は簡単に終わりそうではないのが厄介なところですね。


「王族の家系図ですか?」

「はい。もちろん、公爵家まで派生してしまえば王位継承権を持つものは無数に存在するとは思うのですが、一応把握しておきたいと思いまして」


 マリアンヌに頼む仕事として、私はサラサと共に王位継承権を持つ者をある程度把握しておきたいと注文しました。


 此度の事件は、王女様に近づける者が必ず必要になります。


 例えが、催眠術を使って王女様に勇者召喚を行わせるためにも王女様との接触がいるのです。

 

 また、黒魔術師が遠隔に操作を行う場合でも、プライベートルームの詳しい間取り図だったら、王女様のスケジュールを把握できる者が協力者としていなければ、行うことはできません。


 つまりは、プライベートルームに入ることが許された限られた者の中に犯人と思しき手がかりが存在すると考えているのです。


 勇者召喚は、王族の血を引く者が幾人かの魔導士と共に魔力を行使することで成功すると言われています。


 時の大量召喚の際には、1万を超える魔導士の命を使ったとも言われており。

 また、数年前に行われた魔王討伐に召喚された勇者の際には、王族と魔導士五人の魔力によって十人の勇者が召喚されたと言います。


 ですが、此度は三人の勇者を召喚するのに、いくらサラサ王女の魔力が多いと言っても無理があるように思えるのです。


 では、魔導士の補助はどうやって受けたのか? それを準備したのは誰なのか? また王女様を操って行わせられたのは? それらを思考していくとどしても王位継承権を持つ者が怪しいという結論に至るのです。


「なるほど。では、私が知る限りでも大丈夫でしょうか?」

「はい。よろしくお願いします」


 マリアンヌは第二王子クリス様の婚約者として、様々な勉強を国妃になるかもしれないということで学んできました。


 その知識は、我が身が知らない王国の中枢に関する知識も含まれます。

 宰相閣下などにお話を通せば、家系図をいただくことも可能だとは思いましたが、マリアンヌに問いかけた段階で自分が答えられると言ってくれました。


 サラサ王女もそのお手伝いをしてくれるというので、二人に王位継承権を持つ者を書き出してもらったのです。


「こちらになります」


 マリアンヌが差し出してくれた継承者の名前は意外にも少なくて驚きました。


「少ないですね」

「はい。王家は男性が継ぐことが決められているため、王族に男子が生まれなかった場合は王女様の婿を王として、子供を作り。王女様の子を継ぎの王にするのがしきたりです。そのため、現在王族として王権を告げる男性だけになります」

「なるほど」


 第一王子イスカ・ノープラン・カイオス

 第二王子クリス・ノープラン・カイオス

 第三王子アイン・ノープラン・カイオス

 ユーク・ダ・フェイ公爵


 現在の王位継承権がある人物は四人しかいませんでした。


 有力なのは、イスカ第一王子です。

 そして、イスカ第一王子に何かあれば、クリス第二王子が第二王位継承権を持ちます。クリス王子に何かあれば、アイン第三王子に移ります。


 三人がいなくなった場合だけ、現在の王弟であるフェイ公爵に王位継承権が委ねられています。


 王位継承権を狙っている方がいれば、イスカ王子以外の三人ということになるわけです。


 ですが、此度の勇者召喚をここに記された人物たちがするでしょうか? そしてどうして王女様にさせる必要があったのでしょうか?


「ふぅ、クリス王子以外には会ったことがないので、どのような人物かわかりませんね」

「それでしたら、私がお話をしましょうか?」

「サラサ王女様?」

「お仕事も大切ですが、家族の話をすれば良いでしたら私がしますよ」

「それがありがたいですね。サラサさんからみた四人の人物像を教えていただけますか?」

「かしこまりましたわ」


 我が身は三人分の紅茶を入れて、ゆっくりと話を聞く姿勢をとりました。


 現在は、緊急の要件以外は窓口を閉めさせてもらっています。

 そのため来客は入ってはきません。


「まずは、イスカお兄様ですわね。イスカお兄様はとても優秀な方ですわ。豪快で剣術や武術に秀でておられて身長だけでなく体格もご立派で、このご時世ではなく戦乱の世に生まれていれば英雄と呼ばれていただろうとお父様が言っておりました」


 なるほど、武術に秀で体も丈夫。

 王位を継ぐ者として少しばかり危険な人物に感じますが、逆を言えば暗躍するような人物には感じられませんね。


 真っ向勝負を好みそうに思います。


 何よりも王位継承権が有力である以上は、一番犯人候補から遠い人物だと思っていました。


「次はクリスお兄様は」


 チラリとマリアンヌを見ました。

 マリアンヌは済ました顔で表情を作っていません。


「ただの阿呆ですわ」


 サラサ王女の発言に、マリアンヌが密かに吹いていた。

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