冒険者ギルドには問題が山積み 終
私は最後の白い部屋へと入っていきます。
不思議なことですが、前回も宮廷魔導士の子息様とここで戦ったのが今となっては懐かしい話です。
ただ、あの子達は上流貴族といっても子供なので、今後に期待することができました。ですが、大人の中でも歳を召された年上を話をするのはあまり良い気分はしませんね。
「大変お待たせしました。賢者アーロン様」
「全くじゃな。年上を敬う気持ちもないようじゃな」
「そういうわけではありません。考えられる時間が必要かと思って最後にさせていただきました」
「考える? 何を考えるというのじゃ? テルミーは死んだ。それを殺したのはガルディウスの奴じゃった。ワシは長年、テルミーの師匠として彼女の指導をして、娘のように可愛がってきたが、このようなことになって本当に残念じゃ」
聖女ミレディーナ様と同じく落ち着いて見えるが、指は組んで、足はガタガタと小刻みに揺らしておられる。
言葉の端々にも舌打ちや、焦りのような感情が見て取れる。
落ち着いているというにはあまりにも程遠い態度に、我が身は深々とため息を吐きました。
「賢者アーロン様、まず一つ目の問題としてテルミー様の遺体を持っておられるのはあなたですね?」
「なっ、何を言っておる!」
「我が耳は嘘を見抜くのをお忘れですか?」
「くっ、そうじゃ」
「なんのために?」
「それは」
「あなたが行ったことは英雄の死体を奪いました。高名な方々の死体には、それだけで魔術的な価値があることは、賢者であるあなたならお分かりのはずです」
そう、今回のテルミーさんの遺体は、価値のあるものとして国の管理下にありました。つまり、賢者アーロン様はテルミーさんの死体を魔術的な意味合いで国から盗み取ったのです。
国への反逆行為と取られても仕方ないです。
「……うっうう!!! 貴様に何がわかる! 貴様のような若造にはわかるまい! 追い先短い年齢になって、女性の身を欲した卑しき老人の気持ちなど!」
「ええ、わかりませんね。歳もとっていません。それに
「なっ!」
「あなたは国に対して反逆行為を行ったのです。ただの犯罪者です。だから、これは質問であり、尋問であり、罪の重さを決める懺悔の時間です」
我が身とて、怒りを覚えることはあります。
本来は、裁判官として感情を表に出すことはいけないことです。
感情は真実を突き止めるために、不必要な存在だと教えられてきました。
ですが、人の道を外れた者に対して、怒りを覚えることはあります。
「テルミーさんは死んだのです。貴重な材料になるからこそ、王国はキチンと埋葬するために管理をする。埋葬して、魂が肉体から完全に離れたところで全ての弔いが終わるのです。四十九日の間、死者は天国に昇るのか、地獄に落ちるのか、それを裁判されています。その間に体を
我が身は神を信じてはおりません。
ですが、我が使う能力があり、賢者様が使う魔法があり、女神に祈りを捧げることで聖女ミレディーナ様が使う神聖魔法が存在します。
完全に神々がいないとは言いません。
だからこそ、人が死んで蘇生が使えないのなら、その人は死んでもうこの世にはいないので、その肉体を弄ぶということは、もっとも恥ずべき法でも許されない行為です。
「……まだ死んではおらん! 蘇生魔法を使えばいいのだ!」
「それは失敗しました」
「それがどうした! 神聖魔法の蘇生が失敗しても、医療術が、そして降霊術が存在するではないか?!」
「降霊術は禁忌です。使えば、あなたの魂はその場で地獄に堕ちます」
「それがどうした?! テルミーに会えるのであれば、その程度!」
「なら、一つことだけ言わせていただきます」
「なんじゃ?」
耄碌した老人にかけるにはあまりにも酷い言葉なのかもしれない。
「あなたはテルミーさんに求められていません」
「そんなはずはない! テルミーはワシを尊敬して、ワシを愛しておったはずじゃ」
「いいえ、テルミー様はあなた方三人から離れて、逃亡しようとしておりました。だから殺されたのです。あなた方が必要ないから」
狂ってしまった相手にかける言葉は正論しかありません。
「うるさいうるさいうるさい!!!! 出でよテルミーよ! 我前に!」
「判決を言い渡します。あなたの誇りである魔力を消滅させます。その上であなたには千の責めを受けていただきます。その間どれだけ消耗しようとあなたの肉体は死にません。よかったですね。あなたが望んだ地獄です。死なない体ですよ」
「やめっ! やめよ!!」
地獄の亡者たちが賢者アーロンを地の底へと引き摺り込む。
死刑よりも残酷な地獄行きの刑。
「世の中には、法で裁けない悪がいることは重々承知しています。それは犯罪者にも人権があり、大量殺人者であろうと裁判を受けるまでは死刑にならない。そんな歪んだ法律などあって良いのか私にもわかりません。ですが、ここは私の能力であり判決で死刑以上の刑も用意されています。それは、この能力を私に授けた何者かは、罪に対して死が最上級の罰ではないと考えているんだろうな」
我が身は全ての判決を終えて、裁判を閉廷した。
なんとも後味の悪い事件でした。
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