冒険者ギルドには問題が山積み 13

 白い部屋の中で、マリアンヌに相手してもらって、お待たせしていた聖女ミレディーナ様の前に座って向き合う。


「お待たせして申し訳ありません」


 聖女の前に紅茶が出され、マリアンヌとティータイムを楽しんでいたようですね。


「いいえ、マリアンヌ様が相手をしてくれましたから。素敵なレディーなので、とても勉強になりましたわ」

「いえいえ、私の方こそ聖女ミレディーナ様にはたくさん教えていただきありがとうございました」

「ふふ、また友人とお話をしたいですわね」

「はい! ぜひお願いします」

「仲良くなられてよかったです。それでは質問に入らせていただいてもよろしいでしょうか?」


 この空間ではお腹を空くことも喉が渇くこともありません。

 ですが、彼女たちがお茶を飲んでいると香りが立ち、雰囲気が良い景色が広がっています。


 先ほどまで仲間内での解散騒動があったとは思えないほどに穏やかな空間です。


「ええ、結構よ。何をお聞きになりたいのでしょうか?」

「一つ目は、奴隷の少女を救ったのはミレディーナ様でしょうか?」


 蘇生を使える程の高位聖職者は、聖女様しか近くにおられません。


「そうよ。だけど、とても綺麗に殺していたから私がしたのは、心臓マッサージ程度の蘇生よ」


 治癒魔法は神聖国で多く知られる技術でありますが、逆に法治国家では医療が発展して心臓マッサージを実際に行って蘇生をしている。


「医療的な知識を持たれているのですね」

「そうね。治癒魔法も解剖学を学ぶことで、効果を高めることができるのよ」

「優秀なだけでなく、努力を続けているのですね」

「ふふ、あなたに褒められるとむず痒いわね。あなたこそ法の申し子と呼ばれているのでしょ?」


 おや? どうやら我が身が問いかけなくても、ミレディーナ様の方から話してくれるようですね。


「我が身をご存知とは、さすがは神聖国出身のスパイ様ですね」


 そう、国選パーティーのスパイは彼女だ。


「あら? スパイなんて無粋ね。私はちゃんと彼らに協力していたわよ。ただ、神に祈りながら出来事を話していただけです」

「そうですね。教会で懺悔をされていただけなのでしょう」

「そうよ。だから奴隷を殺したと聞いた時にも、反対も賛成もしないで傍観者を決めたの」


 聖女ミレディーナ様は全てを理解しており、我が身やシビリアンのこともわかっておられるのでしょうね。


「なるほど、ある程度の事情をわかっていたと言うことですね」

「そうね。テルミーのことも彼女が苦しみ、彼女に恋焦がれた男たちの気持ちも知っていたわ」


 こちらが質問を投げかけなくても、聡い彼女は話を続けてくれる。

 やはり頭の回転の速い方だ。


「今後はどうされますか?」

「どうもしないわ。冒険者としての活動も潮時だと思っているから、王都の教会でお勤めをするつもりよ」

「そうでしたか、あなたのような賢い方には、これからもご協力いただければ助かると思ったのですが、残念です」

「あら? どういう意味かしら?」


 我が身が発した言葉に、妖艶な笑みを浮かべるミレディーナ様は、とても魅力的な女性だと思います。


 テルミーさんの方がミレディーナ様よりもモテて、ミレディーナ様が他の男性たちに恋心を抱かれなかった理由として、こういう姿を見せていれば変わったのかもしません。


「そのままの意味です。冒険者を続けてくれていれば、こちらから依頼を出しやすいですが、教会に行かれてしまうと依頼が出せませんので」

「ふふ。ねぇ、シャーク・リベラさん。あなたは私を誘惑しているのかしら?」

「誘惑ですか?」

「ええ、そうよ。私が欲しいなんて、傲慢でとてもなんて甘美な申し出なんでしょうね」


 モジモジと顔を赤くしてしたり、クネクネとした雰囲気を出してくる聖女ミレディーナ様は見たこともないほどに可愛らしい態度を取られています。


「一つよろしいですか?」

「何かしら? 私の趣味は貯金よ」

「貯金なのですね。私も貯蓄は趣味ですよ。いえ、そうではなくて、同じ国選パーティーの男性たちには今のような姿は見せなかったのですか?」

「あら? どうして見せる必要があるのかしら?」

「そうですね。多分ですが、今の姿を見せていれば、テルミーさんではなく、ミレディーナ様に夢中になると思ったもので」

「まっ!」

「リベラ様!」


 二人の女性が驚いた声を出します。

 我が身は何か言ってしまいましたでしょうか?


「ふふふ、マリアンヌ。どうやらあなたとはライバルになるかもしれないわね」

「もう、知りません」


 なぜか、マリアンヌが頬を膨らませております。

 ミレディーナ様は楽しそうにしておられるので、二人が仲良くなってくれているのは良いことですね。


「先ほどのお答えですが、そこまで魅力的な殿方がおりませんでしたの。私は少し変わり者で、とても賢い方が好みですから。それでいて人としてはどこか欠落しているような人物がいれば最高ですね」

「うむ。とてもそんな存在は居なさそうな人物ですね」

「ふふ、そうかしら?」


 どう考えても、変わり者で賢くて、人として欠落しているなど、まるでマッドサイエンティストのような人物は見つける方が大変でしょうね。


「さて、全ての話を聞くことができました。私は最後の人物に会いにいくとしましょう」

「そう、とても残念ね。もう少し話をしていたかったわ。なら最後に、テルミーは本当に死んでいたわ。蘇生魔法を施したけど、効果はなかった」

「ありがとうございます。一番聞きたかった情報です」


 私はマリアンヌと聖女ミレディーナを解放して、最後の部屋へ向かいました。

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