冒険者ギルドには問題が山積み 12

 白い部屋の中、我が身は目の前のシビリアン様に視線を向き合わせます。


「シビリアン様、此度はとんだ失態を犯しましたね」

「……」


 意気消沈するシビリアン様に声を掛ければ、ゆっくりと顔をあげました。


 国選パーティーが冒険者として組んだのは今から5年前です。


 5年という月日が長いのか、それとも短いのかわからないです。

 ですが、若者たちが成長をして、言い争いにほどの発展するには十分な時間だったと言うことなのでしょう。


「ああ、俺は失敗したんだな」

「はい」

「くく、お前は相変わらず容赦がないな」


 シビリアン様と我が身は昔からの知り合いであります。


「シビリアン様は、優しすぎるのが問題です」

「やめろよ。様付けで呼ぶな。幼馴染だろ?」


 顔を上げた聖弓と呼ばれたシビリアンが、悲しい表情をする少年の顔をしています。


「あなたが法治国家テルミ出身であることは、我が身以外に知る者はおりません」

「ああ、その通りだ。スパイは俺だ。法治国家テルミで法律を学び、そのしがらみから抜け出したいと王国にやってきて、冒険者になった。そこであいつらと出会って、王国の張本人から国のために働いてほしいと声をかけられた……二重スパイってやつだ」


 いいえ、あなたは法治国家テルミのスパイではありません。


 だって、あなたは一度も祖国に何かを密告したことも報告したこともないのですから。ただ、出身が我が身と同じで机を並べて授業を受けた幼馴染と言うだけです。


「上手くはできなかったけどな。お前は俺を捕まえにきたのか?」


 四通目の手紙には確かに、シビリアン様が王国の依頼を受けていたことが書かれていました。

 ですが、彼は己の力だけで聖弓と呼ばれるほどに腕を磨いて、国選パーティーに選ばれるように成長をなされました。


「いいえ、あなたを捕まえることはありません」

「そうか、お前も俺を放っておくんだな」

「いいえ」


 彼の頑張りは、王国だけでなく法治国家テルミにも鳴り響いております。


「何?」

「今後は冒険者でありながら、国の諜報員としてご協力を願います。それも我が身が依頼する諜報員として」

「はは、それは本当か? 傑作だな……おい! バカにしているのか?」


 殺気を含んだ威圧が我が身を締め付けます。

 いくら暴力を封印した場所であっても、威圧を防ぐことはできません。

 

 そして、さすがは国選パーティーに選ばれるだけの人物ですね。

 その威圧は我が身を圧倒するほどに優れた気を放っています。


 ここが我が身が支配する空間でなければ、尻餅ついてチビっていたでしょうね。


 それほどに彼の気は洗練されて充実しています。


「いいえ、バカにしていません。これは決定事項です」

「決定事項?」

「はい。これより、多くの変革を世界は遂げます。その礎としてあなたには存在してもらわねばならないのです」

「変革する世界とは大きく出たな」

「あなたも歴史を学んだでしょ?」

「ああ、かつて異世界から大勢の勇者が召喚された歴史だろ?」

「そうです。彼らはチート能力という様々な力を持って召喚されました。そして、この世界の根底を覆して、作り出していった」


 かつて勇者と呼ばれた彼らは、学校という学び屋で多くのことを知って世界を渡ってこられました。


 そして、世界を変革させるために魔王を倒して、法律を作り、宗教を変えて、国に各々の血を伝えた。


「現在の世界は、歪に法律が作られ初めて、まだまだ安定していません。ですから、力が必要なのです」

「なんだ? 俺に人でも殺させるのか?」

「いいえ、先ほども言いましたが諜報員、つまりエージェントとして、様々なことを調べ、我が身とともに問題を解決する手助けをして欲しいのです」


 これは法治国家テルミ及び、カイオス王国の両国で許可を得ております。


「もしも、俺が失敗していなかったら、どうだったんだ?」

「それは国選パーティーを追放、もしくは解散されなかったらですか? その場合は、あなたが冒険者を辞めるまで待つつもりでした。先ほど、あなたが言ったではないですか?」

「うん?」

「我が身とあなたは幼馴染です。信じられる人間にしかこのようなことは頼めません」


 奴隷の少女を殺し、追放されそうになっていたシビリアン様は賢く追放を免れようとしていた。だが、人の感情というのはいくら賢く調整しようとしても上手く調整することなどできないのです。


「わかった。お前の依頼を受けよう」

「一つ、質問をしてもいいですか?」

「なんだ?」

「奴隷の少女を本当に殺したのですか? あなたは殺したと言いました。そこに嘘はなかった。ですが、違和感を感じるのです」

「……殺した。そして、蘇生した」


 この世界には、魔法が存在します。

 蘇生魔法ももちろん存在しますが、これはあくまで成功確率の低い魔法であり、蘇生魔法が使える聖職者の説明では、熟練の修行者で50%。


 そして、才能ある人物が使えば、70%は成功するそうです。


 ただ、そのためには綺麗な殺し方で、しかも殺された側の魂が体に残っていて、生きる意思がなければ意味がないと言います。


「やはり」

「そこまでお見通しか」

「はい。あなたほどの頭が回る人が、聖騎士のフォーリング様如きに騙されるとは思っていなかったんです」

「くくく、如きって酷い言い方だな」

「それに確信を得ることができました。誰が奴隷の少女を蘇生させたのか」

「わかるか?」

「はい。あなたからは仕事の承諾も得られて、謎も解けました。もう結構です」

「相変わらずそっけないやつだ。近いうちに酒でも飲もう」

「ええ、その時はよろしくお願いします」


 私は、シビリアン様を解放して、次の方の部屋に入りました。


 その部屋では、聖女様がお待ちです。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る