冒険者ギルドには問題が山積み 10
テルミー様の不貞行為。
その事実が露見して、受付嬢のイフ女氏の告白には、三人の男性とキスをしているのを見たという事実。
そして、聖拳ガルディウス様と宿から出てくる光景を見たという。
「バカな! 私とテルミーは将来を約束した恋人同士だったのだ!」
「あの子はそのようなことをするような子ではない。ワシを本当の父として慕ってくれていたんだ」
「俺は結婚するって約束した婚約者だぞ!」
三人の男性の心を弄んだテルミーさんとは果たしてどのような人物なのか? 今となっては知ることはできません。
果たして、彼女の遺体はどこに行ったのか? 本当に死んでしまったことすら今となってはわかりません。
もしも彼女がスパイであるならば、皆が認識しているテルミーさんという人物を我が身が召喚しようとしても実在していない人物を召喚することはできません。
彼女の本名や人物など、必要な情報がここには少なすぎるのです。
「静粛に! 静粛に! 三人ともあまりにも醜く哀れとしか言いようがありません」
我が身は粛清カードを使って三人を黙らせて被告席に戻します。
暴力を振るおうとしても、魔力を発動しようとしても、この場では無意味です。
三人の男性による醜い争いは、今はなんの意味もありません。
「お話を聞く限り、ここまでの出来事をつなぎ合わせれば、あの罠を発動したのはテルミー様でした。そして、国からは彼女がいることで国選パーティーでいることに難色を示されていた。そこでシビリアン様がテルミーさんを殺したと三人は疑っておりました。しかし、テルミーさんの方が疑わしい事実が出てきました」
「いいかい?」
我が身の発言に対して手を挙げたのはシビリアン様でした。
「はい、シビリアン様。何か意見が?」
「この裁判は、俺を追放するかどうかだったな?」
「ええ、そうですね。そのために皆さんの話を聞いて判断するというものでした」
「なら、ここまでの話で疑わしいのは俺ではなくて、テルミーだとわかったはずだ」
「それはそうですね。反論がある方はおられますか?」
シビリアン様の言葉に反論を口にする者は……、お一人手をあげておられます。
「聖女ミレディーナ様、反論がありますか?」
「反論というよりも言いたいことがあるのだけど?」
「なんでしょうか?」
聖女ミレディーナ様が証言台に立たれます。
これまでのやり取りで、彼女は独特な雰囲気を持った人物は心得ているので、じっと見つめます。
「追放は賛成でも構わないと思うわ」
「なっ!」
聖女ミレディーナ様の発言にシビリアン様が驚きを口にします。
これにより四人から同意をして正式な追放となるでしょう。
「ただ追放ではなくて、国選パーティーは今日をもって解散でいいんじゃないかしら?」
ガタッ!
聖騎士フォーリング様が立ち上がります。
しかし、静粛カードの影響で話すことはできません。
「だって、そうじゃない。テルミーのことがあったとしても、いいえ、なかったとしても三人はシビリアンのことが信用できない。そして、私は四人と一緒に旅をして安心して冒険は無理だと思うわ」
「ちょっと待てよ! 俺たちはビジネスパートナーとして組んでいるんだ。今まで通りビズネスパートナーでいいじゃねぇか?!」
「あなたは、自分が疑われているのに最後まで仲間を守ろうとするのね」
「俺は……」
聖女ミレディーナ様の言葉に反論を口にすることなく、シビリアン様は座り込んだ。
「スパイの話題が出ていましたが、もしも五人の中にスパイがいるなら、それこそ今後誰がスパイかと疑う話も出てくるでしょう。ならば、今ここで解散を決めた方が全ての決着がつくのではないかしら?」
もっともな意見に誰もが顔を背けられました。
我が身は深々とため息を吐いて、進行をしなければいけませんね。
「ならば、我が身からも一つよろしいでしょうか?」
「何かしら?」
「テルミーさんについてです。彼女は本当に死んだと思われますか?」
「ええ、それは私が確認したから間違いないわよ」
どうやら死んでいる人間であることは間違いないようです。
スパイとして、偽物と変わっていることも考えましたが違うようです。
「ならば、賢者アーロン様、聖拳ガルディウス様、あなた方二人は、テルミー様の遺体が消えたと聞いた時、驚いた素ぶりは見せませんでしたね。聖騎士フォーリング様は声を出して驚いていたのに。好意を持つお二人はどうして驚かれなかったのでしょうか?」
粛清カードを解除して、お二人に問いかけます。
我が身からの問いかけによって、聖女ミレディーナ様も二人を見ました。
「そっ、それは」
賢者アーロン様は動揺を見せました。
どうやら遺体の行方を知るのは、アーロン様のようですね。
「ふん、死んだ遺体になんの価値がある」
「ありがとうございます。今ので理解できました。もう一つ、聖拳ガルディウス様」
「なんだ?」
「あなたはテルミー様を殺しましたか?」
「なっ!」
これまで発言が少なかったですが、ガウディウス様が話した内容が気になっていました。
「嘘があったわけではありません。あなたは女性の悲鳴が聞こえて争いは終わったと言いました。それで話を終えられましたが、テルミー様が見つかった方角から来たのはシビリアン様とあなただけです。そして、シビリアン様は直接殺していない。間接的に殺したかもしれないと言ったのは、テルミー様を一人にしたからです」
集まった一同は驚いた顔をして、視線をガウディウス様に向けます。
「……そうだ。俺がテルミーを殺した。あの時、シビリアンと会話をして言い争いをしているテルミーが言ったんだ。潮時だって」
シビリアン様は顔を伏せて、話を聞きたくない素振りを見せました。
しかし、観念したようにポツリとシビリアン様が、テルミー様との会話を話し出しました。
「テルミー! どうして罠を発動させた?」
「シビリアン、あなたならわかるでしょ? 潮時なの! もうこの生活をやめて自由になりたいの!」
「あの三人から好意を寄せられていることにか?」
「そうよ。最初は三人も親切心からよくしてくれたんだと思う。だけど次第に求める好意が増していって、もうしんどいの」
「なら断ればいいじゃないか?!」
「それをすればパーティーの仲が悪くなるじゃない。
「だから、死んだふりをして姿を消すのか?」
「そうよ。私がいなかったら国選パーティーに成れるのでしょ。なら解放してくれてもいいじゃない!」
「……わかった。好きにしろ」
「ありがとう、シビリアン。本当はあなたのことが一番好きだったわ」
シビリアン様が話した内容に原告席の二人が驚いた顔を見せる。
「あの女は裏切り者だったんだ。俺以外の男に色目を使い。俺の前から逃げようとした! だから問うた。俺の物になるか、殺されるか? そうしたら」
「やってみなさいよ。私は自由になるの! もう放っておいて!」
「ですが、宿から一緒に!」
「何もさせてもらえなかったよ。国選パーティーになればとか言って、それも嘘だったんだ」
ガウディウス様の告白が終わりを迎え、我が身は判決を言い渡さなければいけません。
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