冒険者ギルドには問題が山積み 9

 ギルドマスターのオーフェン氏の言葉に嘘は何一つありませんでした。


 ですが、イフ女氏の言葉には嘘が混じっております。

 

「オーフェン様、あなたは傍聴席へ」

「ああ」

「イフ女氏。あなたに重ねて質問をさせていただきます」

「はっ、はい。なんでしょうか?」

「あなたは本当にスパイを知らないのですか?」

「えっ? どっどうしてですか?」

「先ほどわかりませんと言われた際に、嘘が混じっておられました」

「ツツツ」


 我が身の質問によって、イフ女氏に動揺が見られます。

 どうやらヒントは意外なところから出てきてくれたのかもしれませんね。


「わっ、私は」

「我が耳は嘘を見抜きます。あなたが何か隠しているならば、ここでお話をしていただけませんか?」

「……わっ、私が知っているのは、テルミーさんが」

「裁判長!」


 イフ女氏が発言をしようとした瞬間に聖女ミレディーナ様が私を呼びました。


「……ミレディーナ様、今はイフ女氏が話すところでした。それを邪魔したということをわかっておいでですか?」

「ええ。わかっています。その上でよろしいでしょうか?」

「イフ女氏」

「はい!」

「あなたには話を聞きたいと思いますので、マリアンヌ。別室にて彼女の話を聞いて調書をお願いできますか?」

「かしこまりました」


 どうして聖女様が邪魔をしたのか、わかりませんが話をしようと思った人間を止めるわけにはいきません。イフ女氏を守る意味でも質問を聞かなければいけません。


「それではイフ女氏、我が助手と共に別室にてお話をお願いします」

「わかりました」


 彼女たちを別室へと移動させて、証言台には聖女ミレディーナ様が立ちます。


「それではミレディーナ様、どうぞお話ください」

「はい。申し訳ありません。お話を遮ってしまって」

「いえ、それは結構です」

「私は疑問に思ったのです。テルミーが何故罠を発動させたのか? そして、シビリアンがどうして奴隷を殺したのか?」

「今、それを議論していたところです」

「はい。そこで私の意見を述べれば、多少の参考になるかと思ったので意見を求めました」


 聖女ミレディーナ様は独特な雰囲気を持つ女性のようですね。

 これはまたシビリアン様とは違う意味で賢い人間なのかもしれません。


「まず、私はパーティーの中で、シビリアンのことを優秀な人間だと思っています」

「ほう、他の三人からは嫌われているのにですか?」

「はい。細かな雑用をしているのはテルミーとシビリアンでした」


 よく追放物では、追放された者が雑用していた話はよく聞きますね。


「テルミーは、我々の中で一番の新人で魔導士の才能があり、アーロンの指導を受けていましたが、確かに力不足で国選パーティーとして選ばれる器ではありませんでした。ですが、三人の男性からは愛されていたようですね」


 聖女ミレディーナ様の発言に原告席の三人は驚いた表情を見せます。

 

「シビリアンだけは、彼女にナビくことなく己を貫いていたと思います。そして、そんな賢いシビリアンが奴隷を殺したという話に私は疑問を感じていました」

「疑問ですか? 聖女として奴隷を殺した異常者と疑うのではなく?」

「はい。先ほども申し上げた通り、シビリアンは理由もなく奴隷を殺すとは思えません。その少女はどのような人物で、シビリアンが殺すに値するような相手とは? そう考えている際に、先ほどのスパイの話が出てまいりました」


 聖女ミレディーナ様が探偵役のように、現在の裁判内で聞いていた話をつなぎ合わせて一つの仮説を立てます。


「奴隷の少女は他国からの間者で、シビリアンはスパイとして見つけたために殺したのではないかと考えました」

「ほう、それは面白い仮説ですね」

「そうでしょ。私もそれならば納得できると思ったのです」


 シビリアン様は、殺したことを否定することなく、殺すと決めたから殺したと申していました。

 そこに嘘はなく、また聖女ミレディーナ様の仮説が正しければ、シビリアン様はなんらかの理由がありスパイを殺していたということになります。


「私は、此度の追放騒動を知りませんでした。いえ、パーティー内が不協和音を奏でていたことは理解しています。ですが、私自身がそこまで危機感を持っておりませんでしたので、関心がなかったのです」

「関心がなかったですか? 同じパーティーの出来事なのに?」

「ええ、人は誰かに興味を持つ際に、好意や嫌悪があると思います。ですが、私はシビリアンとテルミー以外には興味がありませんでしたから」


 これまたよくあるテンプレですね。

 聖女ミレディーナ様は、追放されそうな方を味方します。

 

「私の見解は以上です。裁判を止めてしまって申し訳ありません」

「いえ、それでは傍聴席へ。そして、イフ女氏」


 別室に移動してもらっていた二人を呼び戻して、私は調書に目を通します。

 そして、聖女ミレディーナ様が立てた仮説が一つ解明されたように思います。


「イフ女氏。ここに書かれていることに嘘はありませんか?」

「はい! 嘘はありません」


 今度の言葉に嘘はありませんでした。


「フォーリング様、イフ女氏からある事実を聞くことができました。そこで質問があります。あなたとテルミーさんは付き合っておられましたか?」

「……ああ。恋人同士だった」


 フォーリング様の言葉に賢者アーロン様、聖拳ガルディウス様が立ち上がりました。


「どういうことじゃ?」

「そうだ! テルミーは俺の妻になるはずだった女だ!」


 聖女ミレディーナ様が言われた事実を、イフ女氏からも同じ内容で聞くことができました。ただ、それは聖女ミレディーナ様よりも生々しいものであり、マリアンヌの顔は若干赤くなっていました。

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