冒険者ギルドっておかしくない?

冒険者ギルドには問題が山積み 1

《sideマリアンヌ》


 仕事が大変であるとお父様が昔言われていたことがあります。

 

 王位継承権第二位のクリス様に嫁いだ暁には、もしも第一である王太子殿下に何かあった場合には国母になることを想定して、習い事、国の歴史、礼儀作法などを行ってきました。


 もちろんレディーとしての見た目や態度もその中で学んだものです。


 ですが、法務省に勤め出して、一週間が経とうとしております。

 そんな今までの生活とは明らかに異なる日々に戸惑い感じずにはいられません。 


 仕事は、基本的に資料の整理と、相談者の法律についての悩みをリベラ様と一緒に聞いて勉強するものです。

 リベラ様の受け答えを聞いていると、法律の知識や解釈がまだまだ足りないことを日々実感させられております。


 それでも業務は難しいことは法律的な判断だけなので難しいと感じるほどではありません。リベラ様にも字が綺麗で、対応が丁寧だとお褒めて頂けています。


 ですが、私は本当にリベラ様のお役に立てているのでしょうか? リベラ様は不思議な方です。


 ついついとリベラ様を観察してしまうのです。


 普段は紅茶を飲むのを趣味として、ティータイムを日に六回は行われます。


 まず出社してすぐに一杯、続けて二時間毎に一杯ずつ飲まれます。

 

 ランチは、その日の気分や仕事によって取れるのかわかりません。

 仕事が舞い込んできてしまうと、相談者を優先しなければいけないこともあるので、しばしばランチが抜きになります。


 その代わりにティータイムの際には、隠していたビスケットを分けてくださいました。なんだか学園の時にはできなかったことなので、悪さをしているようで楽しかったのです。


 他にもリベラ様の仕事場である執務室には、猫のパトラさん。梟のアーサーさん。

 二匹のペットが居座っておられます。

 リベラ様はどちらも可愛がっておられて、ご自身で食事からトイレのお世話までしてあげている姿に和んでしまったことはないでしょです。


 定時になって私が帰る頃にも、リベラ様は仕事されています。

 一度帰らないのですかと聞いた際に……。


「眠くなれば、宿屋に行きますのでお気遣いなく」


 夜に寝られる際には、商業区にある宿屋で行かれます。

 国から支給された寮として住める部屋も貴族区にあるそうなのですが、帰るのが面倒だという理由で宿に行かれるそうです。


 私がこれまで生きてきた貴族としての生活の中では考えられないほど、自由で不規則な生活習慣に驚かされるばかりです。


「マリアンヌは優秀ですね。仕事が素早く終えることができました」


 不意にお褒めの言葉を発するのはズルイと思います。

 普段は、人をおちょくり、煙に巻いてしまうような態度を取られるのに、調書を仕上げてお持ちした際には、褒める言葉を発するのです。


「とても字が綺麗だ」

「うん。理路整然とまとまっている」

「読みやすいですね」


 何か一言を告げられるだけで、自分の胸がドクンと弾むのは、少しばかり戸惑いもあります。


 ですが、一手も、二手も先を歩くリベラ様は私にとっては憧れであり目標です。 


「すみません! よろしいですか?」

「はい! ようこそ法務省特別裁判官室へ。どうされましたか?」


 受付業務が随分と滑らかに発せられるようになったものです。


「うわ〜」


 顔を赤くした少年に、私が微笑みかけると慌てて帽子を脱ぎました。


「おっ、俺は冒険者ギルドに登録したばかりのビリーです! 今回はちょっとした相談がありまして」

「相談ですか?」

「はい。実は俺が冒険者ギルドに登録した直後に先輩冒険者であるテッパンさんに絡まれまして」

「新人に絡む冒険者様ですね」

「はい。やめてほしいと何度か言っているんですが、なかなか聞いてもらえなくて、どうしたいいのか冒険者ギルドでも受付さんに相談したのですが、ニコニコと笑顔を浮かべるだけで話も聞いてもらないんです」


 ビリーさんの言葉に、私は首を傾げながら考えます。


 新人冒険者に、先輩冒険者絡んでいる光景を……。

 自分も新人として法務省に勤めました。


 もしも、リベラ様が私に絡んでくる?


「マリアンヌ。新人のあなたを私が個人的に指導して差し上げましょう」

「まっ、待ってくださいリベラ様」

「さぁ、手を」


 リベラ様が私の手を取って……は! 何を考えてるのですか、ここは仕事場ですよ。


「あっ、あの」

「申し訳ありません。新人に絡む先輩という構図を考えておりました」

「そうだったんですね! 酷いでしょ!」

「えっ?」


 私はリベラ様が手取り足取り教えてくれたら、とても嬉しいと思ってしまいました。むしろ申し訳なさと恥ずかしさの方が勝ってしまうかもしれません。


「だって、何もわからないのに頭ごなしに怒鳴られて、だからダメだって言われるんですね」

「あ〜それは嫌ですね」


 リベラ様に怒鳴られたり、ダメって言われたら、きっと私は泣いてしまうかもしれません。それは悲しくてではなくて、自分が不甲斐ないのが申し訳ないないからです。


「でしょ! ですから、どうにかできないかと思いまして」

「お話は聞かせていただきました。ビリーさん、我々法律は双方の話を聞かなければ判断ができません。あなたの言い分に対して、あなたの申し出は、先輩冒険者からの強引な絡まれるパワハラが耐えられないと言うことでいいですか?」

「そうです! って誰ですか?」

「申し遅れました。法務省特別裁判官シャーク・リベラです。あなたの言い分はわかりましたので、冒険者ギルドに行きましょう」

「えっ? ギルドに?」

「あなたの言うことが正しくて改善を求められているのであれば、冒険者ギルドで話をしなくては解決できませんよ」


 リベラ様がやってくると私の出番は終わりです。


 私はスッと席を譲って、今聞いていたことを調書にまとめていきます。

 大事なのは記録係に徹してリベラ様の邪魔をしないことです。


「わかりました! どうかお願いします!」

「よろしい。それでは行きましょうか、丁度別方面からも依頼が舞い込んできたので、冒険者ギルドは問題が多いですね」


 リベラ様の手元には手紙が握られていました。


 

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