田舎の商人は都会で騙される? 2

 これはまたありきたりなテンプレ事案をもってきてくれたものですね。


 アールさんには、テンプレ職人という二つ名をプレゼントしたくなりますよ。


 前回、彼女は行商人として王都に来た際に、みかじめ料(飲食店や小売店などが出店する地域の反社会的勢力に支払う場所代、用心棒代)で揉められたことがありました。


 どうしても王都は魔物の巣窟です。

 千差万別センサバンベツな人種が溢れています。


 様々な方々がおりますので、問題を起こすヤカラが後を立ちません。


 そういう取り締まりを行うのが法の勤めです。


「さて、マリアンヌ。此度の一件どう思われますか?」


 商業ギルドに向かう途中、徒歩で向かうに少々遠いので、馬車をお願いしました。

 それぐらいの権限は私も持ち合わせております。


 お二人にお待ちいただく間に、我が身はマリアンヌに質問を投げかけることにしました。


「どう? とは、彼女が契約書をちゃんと読んでいなかったのが問題ではないのですか?」

「あなたはそう思われますか?」

「はい。確かに商業ギルドの人たちが、二重で契約を結ぼうとして、頭金を返さなかったことは問題です。ですが、頭金の返金のことも書かれていました。仮契約を結んだ時点で、お金は発生すると」

「そうですね。マリアンヌは間違ってはいません。ですが、それではエルさんに泣き寝入りさせることになります」


 我が身が伝えた言葉の意味を考えるように、マリアンヌは思考を巡らせます。

 彼女は聡く、我が身から発せられた言葉の意味を考えます。


「どうされるのですか?」

「我々は正義の味方ではありません」

「はい。それは先ほど教えていただきました」

「ですが、平等は得てして正義に見える時もあるのです」

「どういうことですか?」

「それは……到着しましたね。行きましょう」


 我々は馬車に乗り込んで商業ギルドへ向かいました。

 商業ギルドは、王国の管轄が半分と商人たちの組合が半分ずつで管理をしています。


 なぜ、全て国の管轄ではないかと言えば、国を管理するものは商売人ではないからです。


 商売人の気持ちがわからなくて、役人が決めたことでは不都合ができてしまうと、当時の商人ギルド側を管轄していたギルドマスターが組合を作ったらです。


 今でも、スタンスとしては商人を守るという名目を保たれています。


「どうも、ギルドマスター。お久しぶりです」

「これはこれはリブラ様ではありませんか?」


 人が良さそうな禿頭のおじさんに声をかけます。

 立派な髭に蓄えられた脂肪のお腹が随分とご立派になられました。


「またやってくれましたね」

「またですか?」

「はい」


 エルさんとアールさんを呼んで、ギルドマスターに紹介してから契約書を提出してもらいました。


「ハァー、まだこんなことをしとるんですか?」

「それはこちらのセリフです」

「お嬢さん。すまんかったな」


 商人ギルドマスターを務めるフーさんは、商人のためを思って組合の管理をしています。

 我が身に法律の相談にも来られて、様々な事案を話し合っている人物ですので、顔見知りになりました。


「えっ? いえ、私は頭金を返して欲しいだけで」

「うむ。それは無理じゃ」

「えっ!」

「実際に仮契約が結ばれておる。この時点で契約は一旦成立がされておる。これは嬢ちゃんのミスでもあるからな」

「うっ」

「じゃ、そっちの嬢ちゃんは即金で支払ったが、契約はまだなんじゃろ?」

「そうだ。すまんが嬢ちゃんの方を契約取り消し扱いにしてくれれば、この子は問題が生じないどうだ?」


 そう最初にアールさんに迷惑がかかるかもしれないと言っていた事案はそういう意味だ。今回、エルさんはすでに契約を結んでもらった手前、前金の返金は契約を行ったことでできないのです。


 だが、契約をしていないアールさんが手を引いてくれれば、エルさんは部屋を借りられて問題が生じません。


「それは私も困るね。私も店舗付きの店を持つために王都に来てやっと見つけたんだ。今更手放したくはない」

「ふむ。どちらかが泣き寝入りしなくてはこの一件は解決しないのだ。即金の姉ちゃんがキャンセルすれば、そちらは責任を持って返金を行わせることができる」


 ギルドマスターのフーさんの言葉に、アールさんに視線が集まりました。


「チッ、ああわかったよ。私が「ちょっと宜しいですか?」えっ?」


 アールさんが引き下がろうとされたので、我が身が意見を述べさせていただきます。


「リブラさん? これは商人の契約であんたは」

「いえ、ですからこれは我が身からの提案なのですが、エルさん」

「はい!」

「あなたは即金を支払えるお金がなく、頭金だけを支払って仮契約を取り付けました。現在の優先度は、確かにアールさんと言われていますが、契約上はあなたにも権利があります。そして、アールさん」

「なんだい?」

「あなたは即金が支払えるだけのお金があり、不動産を管理するものとしてはあなたに貸したい。ですが、契約前の状態です」

「そうだね」


 我が身がここまで言ってもお二人は理解されていないようです。


「二人でやればいいのではないですか?」


 我が身が発するよりも先にマリアンヌが言葉を発しました。


「はっ?」

「えっ?」

「ほぅ〜」


 マリアンヌの言葉に、三者三様の顔を見せる。


 我が身は発する言葉を言われてしまって、戸惑うばかりです。

 マリアンヌ、横取りしないでください。

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