田舎の商人は都会で騙される? 3

 マリアンヌの発言に三人が目を丸くされております。


「お二人が一緒にお店をやることはできないのでしょうか?」


 マリアンヌは続けてもう一度同じ言葉を発しました。


「いや、二人でやるって」

「そうだよ。そんなの」


 エルさんとアールさんが顔を見合わせます。


「すみません。私が引き継いでもいいですか?」

「えっ?」


 エルさんが戸惑いながら、アールさんを見て困惑していたので、私はマリアンヌの言葉を引き継ぐように言葉を発します。


 マリアンヌの顔を見れば頷かれたので、私は変わって説明をすることにします。


「今回の問題は、仮契約を結んだエルさんが頭金が返ってこないこと。アールさん、エルさんが共に同じ店舗で働きたいと思ってくること。そして、不動産屋さんが二重契約詐欺を扱ったことです」


 我が身が問題点を指摘すると、マリアンヌの発言の意図が理解できてくると思います。


「そこで、エルさんが契約者として、このまま契約を結んでしまえば頭金の問題は解決します」


 私は問題点の一つ目を解決する提案を始める。


「次に二つ目の問題ですが、アールさんはこの店舗で仕事をしたいと思われているんですよね?」

「ああ、ここは大通りに面しているし、店舗としても申し分ない」

「エルさんの足らない分をアールさんが補うことで、契約を結べば互いに少ない支出で店舗の契約が結べます」


 これが承諾してくれれば、二つの問題が一気に解決します。


「幸い、見取り図を見させてもらいましたが、表側は商品を並べられる店舗部分。奥が作業場。2階はキッチンとリビング、それリビングが挟んで二つの部屋があるようです。衣装や道具などを置くスペースが限られてしまうので、狭くは感じるかもしれませんが、二人で住むことはできると判断できます」


 私は最初にエルさんが契約書として提出してくれた中に織り込まれていた見取り図を指して提案をします。


「ふむ、なるほどね」

「えっと、それは……」


 アールさんは前向きに、エルさんは戸惑うように二人の中に提案としては悪くはないようです。


 商業ギルドマスターは少し考える素振りを見せて発言しました。


「よし。それなら後押ししてやれるぞ」

「え?!」

「エルさん、あんたは損をしない。アールさん、あんたに他の店舗を紹介してもいいが、ここは俺が見てもいい場所だ。ここ以上という場所はなかなか出てこないだろう。二人が一緒に店をするなら、俺が後ろ盾になるが?」


 フーさんの言葉で二人は背中を押されたようです。


「まぁ、私は予算が少ないから、それは助かるけど」

「私も困っている人を放っておくのは嫌だ。それに契約できる金額が少なくて済むのは助かるね。それにもっと商売が成功した暁には大きな店舗に移動することを考えれば、足掛かりとしてあの店舗は手放したくない」


 二人の意見が一致したこともあり、フーさんの後ろ盾を持って我々は仲介業を担った不動産を取り仕切る者のところへ向かいました。


「よう、ハンソク。お前も相変わらず狡い商売をしてるな」

「フーさん! どうして?」

「今回のお前がやったことを、ここにいるお嬢さんたちが、リブラさんに相談したからだよ」

「リブラさん?」


 ハンソクさんと呼ばれた男性は、細身で神経質そうな顔をした人でした。

 そして、不動産を取り仕切る商業ギルドには成績表と書かれたボードが貼られていました。


 ハンソクさんは成績が良い部類に入っています。


「どうも、法務省特別裁判官のシャーク・リベラ子爵です」

「秘書官のマリアンヌです」


 我々が名乗るとハンソクさんは状況が理解できない顔をしておられましたので、フーさんが我々に変わって説明をしてくださいました。


「そっ、そんなこと」

「うん? 何か問題があるのか?」

「いや、問題ばかりでしょ! そちらのアールさんが即金で全額お支払いいただけると言うから、私は渋々、エルさんと仮契約を結んだのに一緒に商売をするから、アールさんのお金は全額返金だなんて今更」


 汗をダラダラと流しているハンソクさんの顔色から察するに、彼は何かを隠しているようですね。


 ハァ〜ここまでお決まりの態度を取られると、流石に彼が悪さをしていると勘繰ってしまいますね。


「フーさん」


 私が声をかけると、フーさんもご理解されていたようです。


「おい! ハンソク。お前はもしかして使い込みをしたんじゃないだろうな」

「ヒェっ! そっそんなわけないじゃないですか!」

「ほう、だったら、今すぐアールさんの金を耳揃えてもってこい。彼女は契約を結んでいないんだ。預かり金であって、お前の金じゃねぇぞ」


 フーさんが怒鳴り声を上げると、ハンソクさんが慌てて立ち上がってお金を持ってきました。


「確かにあるね」

「ほっほら! 使い込みなんてしてないでしょ?」


 それでもまだまだ青い顔をして汗を流すハンソクさん。


「なら、次だ。エルさんの仮契約書と頭金を持ってこい」

「ヒッ!」

「仮契約書は互いに保管することが義務付けられているからな。もちろんあるよな?」

「もっももももちろんじゃないですか?!」


 そう言って、奥への入っていくハンソクさんに職員たちの注目も集まっています。


「こっ、こちらが仮契約書です」

「うん? 頭金はどうした? ここに書かれている金額をもってこい」

「うっ」


 どうやらこれは何かありそうですね。



 

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