田舎の商人は都会で騙される? 1
《side商人エル》
私には夢がある。
昔から、家は職人でアクセサリー細工を作ってきた。
かつては、勇者のアクセサリーを作ったことがあると祖父が自慢していたほどだ。
だけど、村の発展は止まってしまって、もっと大勢の人たちにアクセサリー細工を認められたい。
「お父さん。私、王都に行って勝負したい!」
「お前……好きにしろ」
お父さんは反対したいんだと思う。
だけど、私の夢を知っているからぶっきらぼうに言っているんだ。
「ありがとう」
数年、お父さんの下で貯めたお金を持って私は王都に向かった。
♢
「えっ?! どう言うことですか?」
「いや〜、すみませんね。頭金を入れてもらったのですが、即決で決められた方がおられまして」
「私だって、頭金と仮契約をしましたよね? 契約は私が先のはずです」
「いや〜、即金をいただけると言うことで」
「待ってください! 私もここしか行く場所がないんです!」
「そう言われましたも」
王都に出てきた私は商業ギルドで、ギルド証を見せて店舗の斡旋をお願いした。
数日待って、やっと紹介してもらった店は二階建ての店舗住宅で、ここしかないって思えた。
「悪いね。私は行商人として、しっかりと資金を貯めてきているんだ。早い者勝ちではなく、取引として成立する方が商売では優先だろ? これは商売の鉄則だ」
「商業ギルドでは、私が先だったじゃないですか」
「それはそうなのですが、彼女が言う通り商売は、売りたい側にも選ぶ権利がありまして、彼女の方が即金でしたから。あなたは頭金は入れてくれましたが、残りは月々の家賃に上乗せでしたよね?」
「うっ!」
確かに、私の持ってきた資金を全て使えば払えないことはない。
だけど、それをしてしまえば、材料の仕入れや商売ができない。
「もう少しこじんまりとしたところになりますが、別の店舗をご紹介しますので」
「……わかりました」
私は渋々、承諾して。
「じゃあ、頭金を返してください」
「えっ? それはできません。仮契約時に、締結しなくても金額の返金はできませんと書いていたでしょ?」
「そんな項目知りません!」
「いえいえ、我々も紹介は慈善事業ではありませんよ! 契約書もタダではないんです」
「ハァ?! なら、私と契約したってことじゃない。だったら私も引き下がりませんから、出るところに出ます」
「ふふ、これだから田舎者は、良いですよ。お好きにどうぞ」
私は小馬鹿にしてくる商人ギルド員に腹を立てて、その場を立ち去った。
だけど、飛び出した私は仮契約書を持って途方にくれてしまう。
「どうすれば良いのよ……」
「なぁ、あんた」
「えっ?」
声をかけられて、顔を上げれば、そこにいたのは私と店舗を競った相手だった。
「なっ、なんですか?」
「話を聞いていて、私もあいつはちょっとおかしいと思った」
「えっ?」
「だからさ、ちょっと付き合いなよ」
「どこにいくんですか?」
私は行商人の女性アールさんに手を引かれて、法務省と大きな文字が書かれた立派な建物に連れてこられる。
「ひっ!」
「何をビビってんだよ。ここは王都で唯一のお悩みを聞いてくれる場所なんだよ」
「王都で唯一お悩みを聞いてくれる場所?」
「とにかくおいで」
アールさんも一年前に、王都で商売をする際にお世話になった人がいると言う。
その時に理不尽な状況を納得できる程度まで戻してくれた人がいるそうだ。
「あの、誰かおられますか?」
建物の中に入って奥へと進んだ先の部屋へと入る。
「はい。ようこそ」
出てきたのは、眼帯をつけた怪しい男性と、凄い美少女のヘンテコなコンビでした。
「おや、あなたはアールさんでしたか?」
「お久しぶりです、リブラ様。相談があってきました」
「また商売で何か揉めたのですか?」
「今回は私も巻き込まれたんですが、彼女が詐欺にあってね」
「詐欺?」
私は大きな声を出して立ち上がる。
「なるほど、また立証が難しい事件ですね」
「とにかく話だけでも聞いてください」
「わかりました」
「ほら、エル。説明しな」
「はっ、はい!」
私はアールさんに促されて、怪しい男性に商業ギルドを仲介して、頭金を掠め取られた話を説明した。
「これが、契約書ですね」
「はい」
私は持ってきた仮契約書を提出して見せた。
「なるほど、商業ギルドの彼が言った通り、書かれていますね」
「えっ?」
「ほら、ここに」
説明の端に小さく追加で確かに書かれている。
「こんなところまで読みませんよ!」
「まぁそうですね。ですが、あなたは商人として契約書を一番大事にしなければいけないのではないですか?」
「うっ!」
図星を突かれる。
「どうにかしてやれないかね?」
「そうですね。全てを回収することはできません。それにアールさん。あなたにも協力してもらう必要がありますよ?」
「それは仕方ないね。乗り掛かった船だ」
「ハァー、わかりました。それでは行きましょうか?」
「行くって?」
「もちろん商業ギルドにです。あちらの話も聞かなければいけませんからね」
私は怪しい男性に連れられて、商業ギルドに向かうことになった。
これが私にとって一生を左右する出来事になるなんて思いもしなかった。
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