第16話 ノエルと夏休みの一日

 夏休みのある日、ノエルたちは数人で集まり夏休みの宿題に取り組んでいた。寮にあるオープンスペースを利用していた。そこには他にも宿題に取り組む生徒がたくさんいた。


 他の生徒たちはノエルと一緒に勉強できることを羨ましがっていた。そんな嫉妬の視線をココロたちクラスメイトは心地よく感じていた。


 そんな視線を受けながら、ノエルたちはそれぞれの得意分野を活かして、互いに教え合った。全ての教科が得意なノエルは、まんべんなく教えていた。


 学年で一番成績の良いノエルがいることもあり、ノエルたちは順調に宿題を終わらせていった。


 そして宿題が一区切りついたタイミングで、ノエルたちは昼食を取るために休憩をすることにした。ノエルたちは寮の食堂に向かった。


 寮の食堂は夏休みだが賑わっていた。帰省していない生徒がたくさんいるため、いつもと変わらない光景だった。


 ノエルは生姜焼き定食を頼んだ。ココロたちクラスメイトはカレーライスやラーメンなど思い思いのものを頼んだ。


 食堂のご飯は学生向けに作られているため量が多く、大満足だった。昼食を食べ終えたノエルたちは再びオープンスペースに戻り、宿題のラストスパートを掛けた。


 そして時間が経ち、日が傾いて夕方になる頃には来ていたメンバーの宿題は終わっていた。皆は長時間の勉強に疲れた様子だったが、宿題が終わったという達成感に包まれていた。



          ※



 日が落ちて、すっかり暗くなった頃、宿題を終えたノエルたちは寮を出て近くのスーパーへと向かった。そこでノエルたちは花火を買った。


 宿題を終えたご褒美として、花火をして楽しむつもりなのだ。ノエルたちは花火を買うと、近くの河川敷へと向かった。


 バケツに水を用意し、ノエルたちは花火を始めた。手持ち花火や線香花火などでノエルたちははしゃぎながら楽しんだ。


 そして買った花火を全て楽しむと、ゴミを片付けて寮へと戻っていった。ノエルたちは宿題に花火という充実した日を過ごせたことに満足していた。



          ※



 ノエルたちが宿題や花火を楽しんでいた同日、一方でライはとある人物から呼び出しを受けていた。ライは街の裏路地にひっそりとあるカフェに来ていた。


 ライがカフェに入ると、そこにはたくさんの黒服を着た女たちと、それを従えている女がいた。女はブロンドの髪をした、ノエルに自分のものにならないかと言っていた人物だった。


「よく来てくれたわね。さあ、座って」


 女はライを歓迎し、席に座るように促した。ライは周りの黒服たちを警戒しながら、女の正面の席に座った。


「今日はわざわざありがとうね、ライ君。私はエリー、よろしくね」


 女はエリーと名乗った。エリーはライの警戒心を解くために世間話を始めた。


「飲み物はなにがいいかしら? コーヒー? それともジュースの方がいい?」


「必要ない」


「あら、そうなの」


 飲み物を勧められたライは、その申し出を断った。飲み物に細工されることを警戒したからだ。


「それにしても、今日も暑いわね。ここまで来るのも大変だったでしょ」


 エリーはライに話しかけるが、ライは無言を貫いた。その様子にエリーは残念そうな表情をした。


「もう、そんな警戒しなくていいのよ。私はお話がしたいだけだから」


「ご託はいい。さっさと用件を話してくれ」


「せっかちなのね、まあいいわ」


 ライは一切警戒を解く様子を見せなかった。その様子にエリーは警戒心を解くのを諦めた。そしてエリーはライに用件を話し出した。


「私、ノエル君に興味があるの」


 ノエルの名前が出たことでライは表情こそ変えなかったが、あからさまに不機嫌になった。ライの機嫌を損ねたことを理解しつつもエリーは話を続けた。


「この前の体育祭であなたたちの戦いを見てから、興奮が収まらないの。私は自分の欲しいものは必ず手に入れたい性分なの」


 ライは何となくエリーが言いたいことを理解した。


「私、ノエル君が欲しいの。そこでライ君に協力して欲しいの」


 エリーはノエルを手に入れるために、ライに協力を仰いだ。


「ノエル君の学校での情報とか、ノエル君をおびき出すのを手伝って欲しいの。学校には干渉するのが難しいのよ」


「断る。そんなことなら勝手にやれ」


 ライはエリーからの提案を一蹴した。しかしエリーは断られるのは想定内だった。


「これはあなたにとっても悪い話じゃないわよ。ライ君、ノエル君のこと嫌いなんでしょ? ノエル君を学校から追い出して、一番になれるチャンスよ」


 エリーは自分に協力するメリットを提示した。


「それに協力してくれるのなら、びっくりするぐらいのお金をあげるわよ。学生じゃとてもじゃないけど手に入れられない額よ」


「何を言われても俺は変わらない。断る。俺はそんなことをする気はない」


 ライは自分の中の矜持が傷つくことを良しとしなかった。そのためライはエリーの提案をはっきりと断った。


 ライからの返事にエリーは残念そうな表情をした。そして周りの黒服たちは一斉に能力を発動し出した。


 エリーはここまで話を聞かれて、ライを無事に帰すつもりはなかったのだ。ライは『雷神 アルゲース』を発動し、臨戦態勢に入った。


 そんなライの様子を見て、エリーは小さく呟いた。


「別にライ君でもいいのよ?」


 その日からライは行方不明になった。

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