第14話 ノエルと夏祭り
太陽が真上に昇った頃、ノエルは地元の田舎を散策していた。ひたすらに田んぼや畑が広がった光景は前と変わっていなかった。ノエルは田舎特有の静けさを満喫していた。
ノエルが歩いて町内を見て回っていると、至るところに提灯がぶら下げられていた。それを見てノエルは、夏祭りが近いことを思い出した。
ノエルは毎年出店が並ぶ、商店街に向かった。そこではすでに出店の準備が始まっていた。ノエルはその光景を見て、祭りが楽しみになった。
ノエルが散策を終えて家に帰って過ごしていると、電話が掛かってきた。電話の相手は幼馴染みのクレアだった。
「もしもし、ノエル、その、よかったら一緒に夏祭りに行かない?」
「うん! 行こう! 何時に行く?」
「じゃあ、七時頃に迎えに行く」
「わかった!」
クレアに夏祭りに誘われたノエルは、それを快諾した。そしてノエルは祭りに着ていく甚平がないか母親に聞いた。
「お母さん、甚平ってあったりする?」
「去年のがあるけど、まだ着られるかしら」
ノエルは押し入れの奥から引っ張り出された甚平を羽織ってみた。するとまだ着ることが出来た。
「うん、大丈夫そうね」
甚平が着られるとわかったノエルは、夜まで宿題をして時間を潰した。そして祭りが盛り上がり始める夜になった。
甚平に着替えたノエルが家を出ると、クレアが待っていた。クレアは花の模様の入った赤黒の浴衣を着ていた。
「クレアちゃん、浴衣似合ってるね!」
「あ、ありがとう。ノエルも甚平似合ってるよ」
ノエルとクレアはお互いの格好を褒め合った。そして夏祭りに向かった。夏祭りの会場である商店街には、昼間より多くの出店が並んでいた。
商店街にノエルが現れると、自然と視線がノエルに集まった。田舎でもノエルの美しさは褪せないため、皆注目するのだ。
そしてノエルの横にいるクレアにも注目が集まった。ほとんどが嫉妬の視線だった。
「彼女なのかな?」
クレアは彼女だと誤解されて、羨ましがられていた。クレアはその誤解を嬉しく思いながらノエルの隣を歩いた。
そしてノエルとクレアは出店を回った。焼きそばにたこ焼き、林檎飴などの食べ物を買って食べたり、射的やヨーヨー掬いをしたりして、出店を楽しんだ。
またノエルが出店で買い物をすると、出店のお姉さんたちがまけてくれたり、サービスしたりしてくれた。ノエルはそれを遠慮なく受け取った。
そしで出店を楽しんでいると、花火の時間になった。ノエルとクレアは人混みに揉まれながら、花火を楽しんだ。
「綺麗だねー」
「そうだね」
※
花火も終わり、夏祭りも終盤になってきた。すると柄の悪い女たちが現れだした。女ヤンキーやレディースのメンバーがやって来て、夏祭りの会場を練り歩いていた。
メンバー構成は、やんちゃな中学生から成人まで幅広い年齢層がいた。その女たちは会場で一際目立っていたノエルを見つけた。
「お前、ノエルって奴だろ?」
ノエルは地元でもかなり有名な美少年のため、名前を知られていた。
「なあ、あたしらと一緒に遊ばねぇか? 気持ち良くしてやるよ」
リーダー格の女がノエルに話しかけた。しかしノエルは毅然とした態度で断った。
「いえ、結構です」
「ああ? 何だその態度は? こっちは優しく声を掛けてやったのによぉ」
リーダー格の女はノエルに断られたのが面白くないようだった。
「どうせビッチなんだろ? 一緒に一発ヤろうや!」
取り巻きの女たちは、ノエルに心ない言葉を掛けた。ノエルは気にしていない様子だったが、横で聞いていたクレアは違った。
「ノエルをバカにすんな!」
クレアは女たちに食ってかかった。
「てめぇに用はねえよ」
女たちはクレアには興味がないようだった。そして女たちは能力を見せびらかしてきた。
「怪我する前に、あたしたちと一緒に来いよ」
しかしノエルとクレアは怯んだ様子を見せなかった。
(ここで戦うのは危ないな)
ノエルはこの商店街で戦うと、余計な怪我人が出ると考え、この場から離れることにした。ノエルはクレアの手を引いて駆けだした。
「追え!」
女たちは駆けだしたノエルとクレアを追った。そして二人は人気のない空き地に辿り着いた。
「わざわざ人の少ないところに来てくれて助かるよ」
女たちはノエルに下卑た視線を向けた。女たちは性欲で目がギラついていた。一方でノエルは冷たい目で女たちを見ていた。
そしてノエルとクレアは能力を発動した。ノエルは『白竜 ホワイトドラゴン』で半竜半人の姿になった。クレアは『炎剣 スルト』を発動し、炎を纏った剣を顕現させた。
クレアの能力を見た女たちは、クレアの正体に気付いた。
「お前、煉獄のクレアか!?」
「その名前で呼ぶのはやめろ!」
クレアは二つ名で呼ばれて恥ずかしがった。なぜなら昔やんちゃしていた時に名乗っていた名前だからだ。黒歴史というやつだった。
昔クレアはこの街でヤンキーの頂点に立っていた。しかしノエルに負けてから大人しくなり、今はマイルドヤンキーになっていたのだ。
「お前ら、怯むんじゃないよ! 相手は二人だ!」
リーダー格の女が号令を掛けると、手下の取り巻きの女たちがノエルとクレアに飛びかかった。
飛びかかってくる女たちをノエルは拳で撃退し、クレアは剣の側面で切らないように女たちを殴った。
女たちは所詮烏合の衆で、統率が取れておらず、せっかくの多対二の状況を活かし切れていなかった。
一方でノエルとクレアは見事に連携していた。ノエルの後ろから攻撃する女にはクレアが対応し、逆の場合はノエルが対応した。
ノエルはもとより、元々ヤンキーのトップだったクレアも戦闘には慣れており、女たちは敵ではなかった。
そしてあっという間に取り巻きの女たちは倒された。残ったのはリーダー格の女だけになった。
「クソっ! ならあたしが直接やってやる!」
リーダー格の女は吼えると、額から角が生え、体が大きくなっていった。その姿は鬼のようだった。
そして女は拳を振り下ろした。ノエルとクレアが避けると、拳が当たった地面にクレーターが出来ていた。女はそこそこ膂力があるようだった。しかし攻撃が大振りで鈍重なため、二人には当たらなかった。
ノエルとクレアは拳と剣を女に叩き込んだ。女は痛みで怯み、隙を晒した。そこにノエルはラッシュをした。
女はリーダー格なだけあってしぶとかったが、二人の敵ではなかった。女は腹にノエルの渾身の拳をもらい、そのままノックアウトした。
「食後の運動にちょうど良かったな」
クレアは余裕そうに呟いた。
「それじゃあ、お祭りに戻ろうか」
そう言うとノエルとクレアは祭りに戻り、最後に出店を巡ってから家に帰っていった。
残された女たちはその後、二人にボコボコにされたのが効いたのか、大人しくなったという。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます