第12話 ノエルと海水浴

 どこまでも続く青い海、燦々と照らす太陽、きらめく砂浜、そして大胆に肌を露出した大勢の人たち。ノエルたちは海水浴に来ていた。


「海だー!!!!」


 ノエルと海に来られたことにテンションの上がったココロは、大声を出した。周りの人が驚いて少し視線を向けてきた。


 ノエルたちは脱衣所に向かい、そこで着替えを始めた。ノエルはサーフパンツとラッシュガードを着た。色素の薄いノエルは陽射しにあまり強くなかった。そのためこの格好にしたのだ。


 ノエルが脱衣所を出て砂浜に行くと、すでに女子グループが待っていた。


「皆お待たせー」


 ノエルの水着姿を見たクラスの女子たちは、薄着で肌を晒すノエルに興奮した。しかしそれはクラスの女子たちだけではなかった。海水浴場に来ていた他の女性客も、ノエルの水着姿を見て興奮していた。


「水着姿もいいわー……」


「天使……」


「きゃー、ノエル君素敵!」


 クラスの女子たちはノエルに手を合わせ拝むようなポーズをした。


 そして合流したノエルたちは砂浜にシートを張って、パラソルを立てて陣取りをした。ノエルはそこに座ると、おもむろにラッシュガードを脱いだ。するとノエルの陶磁器のような白くて滑らかな肌が晒された。


 周囲の人は一瞬でノエルに目を奪われた。そしてノエルは視線を無視しながら、日焼け止めを取り出して、全身に塗り始めた。その姿はとても官能的かつ美しく、女性の視線を一点に集めていた。クラスの女子たちも目をぎらつかせてその様子を見ていた。


 するといつもなら興奮して騒ぎ出すココロが無言でいることに、クラスの女子たちは気付いた。ココロはノエルが日焼け止めを塗る様子を真剣な目で見ていた。


 そしてココロはおもむろにノエルに近づいた。


「ノエル君、背中塗ってあげようか? 塗りづらいでしょ?」


 ココロは下心を感じさせない菩薩のような目で、ノエルに尋ねた。


「ありがとう! でも大丈夫だよ!」


 ノエルは感謝を伝えながらも、ココロの提案をやんわりと断った。ノエルは意外とガードが固いのだ。ちなみに、その後ココロはクラスの女子たちに、いつも通りボコボコにされていた。


 準備を終えたノエルたちは早速海に飛び込んだ。


「冷たくて気持ちいいー!」


 海水の温度は冷たく、陽射しで暑くなった体に心地よかった。


「ボール持ってきたから、ビーチバレーしようぜ!」


 そしてノエルたちはクラスメイトの一人が持ってきていたボールで、ビーチバレーをした。また砂にココロを埋めて遊んだりもした。


「ちょっと! 出られないんだけど!」


 ノエルたちは笑い合いながら海水浴を楽しんだ。するとノエルは声を掛けられた。


「君、可愛いね! あたしたちと遊ばない?」


 ノエルに声を掛けたのは、いかにも遊んでますといった見た目のギャルだった。


「ごめんなさい、友達と来ているので……」


「えぇー、あたしたちと遊んだ方が絶対楽しいよー!」


「そうだよー、あたしたちと遊ぼうよー!」


 ノエルは誘いを断るが、ギャルたちは諦めが悪かった。するとココロたちがノエルとギャルの間に割って入った。


「おうおう、お姉さんたち。うちのノエル君に何か用?」


「は? 誰、あんたら?」


 ココロたちはノエルをナンパする不届き者を威嚇した。一触即発の雰囲気が海水浴場に流れる。ノエルはそれを止めに入った。


「お姉さんたち、ごめんなさい。今日は友達と遊びたいんです……」


 ノエルは目を潤ませながら、ギャルたちにお願いをした。すると涙を浮かべるノエルに罪悪感を覚えたのか、ギャルたちは引き下がることにした。


「わかったよ、でも写真だけ一緒に撮ろうよ」


「それぐらいなら、良いですよ」


 ギャルたちはせめて思い出だけでもと、ノエルと写真を撮ることを提案した。ノエルはそれを承諾した。そして写真を撮ったギャルたちは約束通り、大人しく去って行った。


 ナンパを穏便に回避したノエルたちは、お腹が空き始めていた。そのため海の家で昼食を取ることにした。ノエルたちは、カレーや焼きそば、かき氷など、思い思いのメニューを注文した。


 そして昼食を終え、海の家を満喫したノエルたちは午後からも遊んだ。するとまたしてもノエルに声を掛ける輩が現れた。


「ねぇ、僕、私達に着いてきてくれない?」


「一緒に楽しいことしましょうよ」


 ノエルが声の方を見ると、そこには刺青を入れた女の二人組が立っていた。明らかに堅気ではない雰囲気だった。


「すいません、友達と来ているので」


「友達なんてどうでも良いじゃん。ほら、来なさいよ!」


 ノエルは穏便に断ろうとしたが、刺青の女たちはノエルの手を引っ張り、強引に連れて行こうとした。クラスの女子たちも刺青の女たちの雰囲気に怖がって、止めることが出来なかった。


 そんな中でココロだけは刺青の女たちに注意をした。


「ノエル君嫌がってるじゃん! やめてよ!」


 ココロが強めに注意をすると、刺青の女たちは面白くないといった顔をした。


「あんたには聞いてないのよ!」


 そう言うと刺青の女の一人が能力を使い、ココロを吹き飛ばした。


「ココロさん!」


 ノエルは吹き飛ばされたココロを心配した。ココロは何とか無事そうだった。友達に危害を加えられたことで、ノエルは殺気立った。


「おー、怖い怖い」


 刺青の女たちは殺気立つノエルを茶化した。そして刺青の女たちは能力を使って変身してみせた。一人は牛の様な角が生え、もう一人は獅子の様な姿になり、半人半獣の形態をとった。


 一方でノエルも『白竜 ホワイトドラゴン』を発動し、半人半竜になって一歩も引かなかった。ノエルは刺青の女たちと睨み合った。


「ちょっと痛い目見てもらうよ!」


 最初に手を出したのは刺青の女たちだった。牛の能力の女はノエルに向かって突進した。それをノエルは闘牛のように華麗に躱した。


 そしてそれを躱しながら、ノエルは横腹に拳を叩き込んだ。拳を叩き込まれた女はその場にうずくまった。


「やるじゃないの!」


 そう言うと獅子の能力の女が爪を振るった。ノエルはあえてそれを躱さなかった。爪はノエルに直撃した。しかし爪で切れたのは、ノエルが羽織っていたラッシュガードだけだった。爪はノエルの竜鱗を傷つけられていなかった。


「は? まじ?」


 困惑する女にノエルは蹴りを放った。ノエルの見た目より重い一撃に女は吹き飛ばされた。しかし刺青の女たちは諦めが悪く、立ち上がった。


 そしてノエルに肉迫し、攻撃をするが砂浜に足を取られて、上手く動けていなかった。一方でノエルは翼で浮くことで、いつも通り動けていた。


 ノエル二人の攻撃を捌いていると、突然大声が聞こえ、刺青の女たちが吹き飛んだ。それはココロの攻撃だった。ココロは『咆哮 ハウリング』で衝撃波を発生させ、女たちを攻撃したのだ。


 ココロの援護もあり、ノエルは二人を容易く制圧できた。そしてノエルが二人を倒したタイミングで、騒ぎを聞きつけたライフセーバーがやって来た。


 刺青の女たちはライフセーバーに連れて行かれた。


「私達は頼まれただけだ!」


 連れて行かれながら、女たちは何かを喚いていた。それを聞いたノエルは不審な顔をした。


 そしてノエルたちはこれ以上問題が起こる前に帰ることにした。荷物を片付けながら、ココロがノエルに謝った。


「ごめんね、ノエル君……。うちが海に誘ったせいでこんなことになって……」


「ううん、いいんだ。それに守ろうとしてくれて嬉しかったよ!」


 ココロはノエルの言葉で笑顔を取り戻した。そして片付けを終えたノエルたちは家路に着いた。

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