第8話 ノエルと激戦
ノエルは控え室で他の生徒の戦いを見ていた。すると先生から呼び出しを受けた。次の決闘がノエルの番だからだ。ノエルは闘技場の入場口に立った。そこで深呼吸をして精神を統一した。
そして前の組の戦いが終わったタイミングで、ノエルは闘技場に入っていった。ノエルが登場すると、ノエルの美しさに目を奪われる者、悲鳴にも似た黄色い歓声を上げる者など、様々な反応があった。
闘技場にいる全員がノエルに注目していた。特に一般の観覧客はノエルの強さを知らないため、ノエルのことを品定めしていた。
ノエルが大勢の観客に見られて少し緊張していると、闘技場に大声が響き渡った。
「ノエルくーん!!!! 頑張れー!!!!」
それはクラスメイトのココロの応援だった。ココロは持ち前の大声で、ノエルに最大限のエールを送っていた。ノエルが声の方を見ると、そこでクラスメイトたちが横断幕や応援の旗を振っていた。
その様子にノエルは勇気を貰い、そして緊張がほぐれた。やる気が増したノエルは、クラスメイトに手を振って応援に応えた。
そしてノエルは逆サイドから入場してきた相手の女子生徒と握手をした。女子生徒はノエルと握手するとき、少し照れた様子を見せた。そして中々ノエルの手を離そうとしなかった。
審判の先生が咳払いをすると、相手の女子生徒はやっとノエルの手を離した。
「これより決闘を始める。お互い準備はいいか?」
「はい!」
「お互い、正々堂々と戦うように! それでは持ち場に着け!」
ノエルと女子生徒は距離を空け、所定の位置に着いた。女子生徒は先ほどの照れた様子がなくなり、やる気十分といった感じだった。
「それでは、始め!!!!」
審判の先生の合図で、決闘が始まった。最初に動いたのは女子生徒の方だった。女子生徒は地面に手を付いた。すると地面が隆起し、そこから土の塊が飛び出してきた。
女子生徒の能力、それは『土師 ランドマスター』、土を意のままに操るというものだった。操られた土の塊は轟音を響かせながら、ノエルへと押し寄せていった。
土の塊に飲み込まれ、ノエルの姿が見えなくなった。観覧客はノエルが倒されたのではと思い、ザワザワとしていた。しかし女子生徒は油断せず、ノエルの動向を伺った。
「これは小手調べよ。さあ、どう来る!」
するとノエルを覆っていた土の塊にひびが入り始めた。そして土の塊が砕け、ノエルが中から飛び出してきた。ノエルは既に半竜半人の形態になっていた。
ノエルの変身後の姿を初めて見た観覧客は、その美しさに目を奪われていた。対して相手の女子生徒は注意深くノエルを見た。ノエルは特にダメージを負っている様子はなかった。
それを確認した女子生徒はもう一度地面に手を付き、地面を操りだした。
「これならどう!」
再び地面が隆起し、土の柱がノエルに向かって伸びていった。大質量の土の柱はそれだけで凶器になる。それを理解しているノエルは、翼をはためかせ上空に飛び上がり、土の柱を避けた。
「上に逃げるのは想定内! 撃ち落とすだけよ!」
ノエルが上空に逃げると、女子生徒は土の弾丸を撃ち出し、ノエルを撃ち落とそうとした。それをノエルは立体的に飛び回ることで避け、当たりそうになったものは拳で破壊して対応して見せた。
そしてノエルは攻勢に出るため、女子生徒に近づこうとした。ノエルは天高くまで飛び上がり、そこから落下し始めた。落下の速度に加え、翼をはためかせることで速度を確保し、女子生徒に一気に肉迫した。
「やばっ!」
女子生徒は尋常ではない速度で近づいてくるノエルとの間に土の壁を作り出し、防御の構えをとった。
ノエルは土の壁に突っ込むと、全力の拳での一撃を放った。それにより土の壁は崩壊した。しかし攻撃は女子生徒までは届かなかった。女子生徒はノエルの攻撃の衝撃で吹き飛ばされてはいたが、まだまだ戦える様子だった。
ノエルは立ち上がる女子生徒を確認すると、土で攻撃される前に近づいて攻撃を仕掛けた。ノエルの連撃に、女子生徒は土の壁を作り出して防御するので精一杯だった。
女子生徒の『土師 ランドマスター』には弱点があり、それは一種類のものしか作り出すことが出来ないのだ。そのため防御用に土の壁を作り出すと、いつまでも攻勢に出られないのだ。しかもその壁もノエルの膂力の前では数秒しか持たず、女子生徒は追い詰められていた。
ノエルは拳を振るい、何層にも重なった土の壁を破壊していった。そしてついに最後の壁を破壊して、女子生徒の姿が見えた。ノエルは一気に距離を詰めると、拳での一撃を放った。
それを喰らった女子生徒は吹き飛ばされ、ノックアウトした。審判の先生は、女子生徒が戦闘不能になったことを確認した。
「そこまで! 勝者、ノエル・ブラン!」
相手の女子生徒を倒したノエルは能力を解いて、いつもの姿に戻った。そんなノエルに観客から大きな歓声が浴びせられた。
「キャーッ! ノエル君かっこいい!」
ノエルは相手の女子生徒が立ち上がると、すぐに近寄って握手をした。
「ありがとうございました!」
「こちらこそありがとうね!」
そしてノエルは歓声を背に受けながら、闘技場を後にした。
※
初戦が終わり、闘技場から控え室にノエルが戻ると、そこには生徒会の会計であるマコモがいた。
「マコモさん! お疲れ様です!」
「ん、お疲れ」
ノエルはマコモの元へ行き挨拶をした。マコモは相変わらずぶっきらぼうだったが、内心ではノエルと話すことが出来て喜んでいた。
「ノエル、手出して」
「はい!」
マコモはノエルに手を出すように頼んだ。そしてノエルが手を出すと、マコモはその手を掴んだ。マコモは若干顔を赤らめながら、自身の能力を使った。するとノエルの傷や疲れが癒えて、万全の状態にまで回復した。
これがマコモが控え室にいる理由だ。マコモは『癒しの波動 パナケイア』という能力を持っている。触れた相手もしくは自分を癒すことが出来るのだ。この能力で決闘に出た選手の傷を治し、次も戦えるようにしているのだ。
「終わったよ。これで次も戦える」
「ありがとうございます!」
ノエルの傷を治したマコモは、少し惜しみながらノエルの手を離した。そして他の生徒の傷を治すために行ってしまった。
「応援してるから、頑張って」
マコモは去り際にノエルに激励の言葉を掛けていった。その言葉に嬉しくなったノエルは手を振ってマコモを見送った。
そんなやりとりをしていると、次の試合が始まっていた。その試合にはヒロキが出ていた。ノエルはモニターでその戦いを見守った。
ヒロキは能力を使ったようで、体から白煙が出ていた。
(どんな能力なんだろう?)
ノエルはモニターから得られる情報でヒロキの能力を分析しようとした。しかしその試みは失敗に終わった。なぜなら戦いがすぐに終わってしまったからだ。
ヒロキから白煙が上がると、ヒロキは見た目にそぐわないスピードを出して、相手に近づいた。そして尋常ならざる膂力で相手を吹き飛ばし、一発でノックアウトしたのだ。
「つ、強い……」
ノエルはヒロキの圧倒的な強さに驚いていた。そしてこの戦いにヒロキが勝ったことで、次のノエルの対戦相手がヒロキに確定した。
※
ノエルが控え室で待っていると、戦いを終えたヒロキが戻ってきた。
「ヒロキ君! お疲れ様!」
「あ、ノエル君。お疲れー。次の戦いはよろしくねー」
「うん! よろしく!」
ヒロキはノエルと少し話すと、自身のバッグから飲み物とエナジーバーを取り出して食べ始めた。その様子をノエルが見ていると、ヒロキはエナジーバーを一つノエルの方に差し出した。
「食べる?」
「いいの? ありがとう!」
ヒロキはいつも自室でお菓子を食べているときも、ノエルに分けてくれるのだ。ヒロキからエナジーバーを貰ったノエルは、それを並んで食べながら次の戦いが始まるのを待った。
闘技場の整備と小休憩が挟まれた後、初戦を勝ち上がった者たちの二回戦が始まった。初めはライの試合からだった。ライは初戦と同じように爆速で戦いを終えた。初戦との違いと言えば、今回はその場から一歩も動かず、電気を操り、攻撃したというところだ。
ライは苦戦する素振りを全く見せなかった。また試合をすぐに終わらせることで、体力を温存しているようだった。
ライの戦いが終わり、ノエルとヒロキの番になった。ノエルとヒロキはそれぞれ入場口から登場した。入場するとココロを筆頭にしたクラスメイトの応援が聞こえてきた。そしてそれに負けないくらいのヒロキを応援する声も聞こえた。
「頑張れー!!!! ノエル君!!!!」
「ヒロキ君! 勝ってー!」
闘技場は準決勝ということもあり、かなりの盛り上がりだった。ノエルは場の空気に飲まれないように深呼吸をした。
ノエルとヒロキは闘技場の中心で向き合った。そして審判の先生の確認を終えて、所定の位置に着いた。
「それでは、初め!」
ノエルとヒロキは同時に能力を使った。ノエルは半竜半人の形態になり戦闘態勢に入った。対してヒロキも体から白煙を出し、臨戦態勢に入っていた。
ノエルは間近でヒロキの白煙を浴びて気付いた。
(これって、蒸気?)
白煙は確かな熱を帯びており、そして水気を帯びていた。ヒロキの能力、それは『蒸気機関 スチームパンク』。体に蓄えた脂肪と水分をエネルギー源として、爆発的な運動量を得ることが出来るのだ。
ノエルとヒロキ、どちらも近接パワータイプであるため、観客は激しい戦いを期待していた。そして両者が戦闘態勢に入り、睨み合った。闘技場に張り詰めた空気が流れた。
最初に仕掛けたのはヒロキの方だった。ヒロキはノエルに近づき、ジャブを放った。ノエルはそれを真っ向から受け止めた。しかしその拳はジャブというには重すぎるものだった。ヒロキの膂力は能力で強化されており、また体重差がかなりあることから、ジャブとは思えない一撃になっていた。
(攻撃を喰らっちゃダメだっ! 一旦距離を……)
あまりの攻撃の重さにノエルは引き気味に戦おうとした。しかしヒロキはそれを許さなかった。ノエルが引くと、それ以上にヒロキが近づいて攻撃を撃ち込んでくるのだ。そのため二人は常にインファイトの間合いに入っていた。
(逃がす気はないんだねっ! それなら僕も!)
ヒロキのインファイト戦法にノエルは真っ向から向き合うことにした。ノエルは一瞬ヒロキの攻撃に隙が出来たタイミングで、逆に攻撃を撃ち込んだ。予想外の一撃はヒロキのボディに直撃した。
しかしヒロキはそれでは怯まなかった。一旦呼吸を整えると、ヒロキはまたノエルに拳を撃ち込み始めた。ノエルは竜鱗を剥がされながらも、攻撃を続けた。
ノエルとヒロキ、両者とも一撃が重いため、攻撃がぶつかった余波で闘技場が震えていた。お互いノーガードの殴り合いをしているため、攻撃が直撃しているが、それでも二人の目から闘志は消えず、痛みなど気にせずに撃ち合っていた。
観客は激しい攻防に盛り上がっていた。各クラスの応援も声を張り上げており、歓声と応援が闘技場を包み込んでいた。
しかし徐々にノエルは押され始めていた。近接の殴り合いならヒロキの方に分があったのだ。それでもノエルは何とか攻撃に耐え、勝機をうかがっていた。
そして数十秒、何とか攻撃を耐えながら戦っていたノエルは、一つの変化に気付いた。
(ヒロキ君、出力が落ちてきてるっ!)
ヒロキのパンチが徐々に軽くなってきていたのだ。またヒロキの体躯がどんどん痩せてきていた。ヒロキの能力は体に蓄えられた脂肪と水分をエネルギー源としているため、それがなくなってくると、能力を維持できなくなってくるのだ。
終わりが近いことはヒロキも把握しているようで、ヒロキはノエルにラッシュを仕掛け、決着を付けようとした。
最後の力を振り絞ったヒロキのラッシュは重く力強かった。しかしノエルはそのラッシュを耐えきった。そして逆にノエルは攻勢に出た。
ノエルは竜鱗を剥がされボロボロになっていたが、攻撃の手を弱めはしなかった。ノエルは渾身の一撃をヒロキの体に叩き込んだ。会場に重い音が響き、ヒロキは闘技場の壁まで吹き飛ばされた。
土埃が晴れると、そこには倒れてノックアウトしたヒロキがいた。そしてノエルは右手を突き上げて、勝利を噛みしめた。
勝負に決着が付き、会場は熱狂の渦に包まれた。そして今日一番の激戦を見せてくれたノエルとヒロキに、惜しみない拍手と歓声が送られた。
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