第7話 ノエルと体育祭
六月に入り、空気が生暖かくなり、なんとも過ごしやすい気候になった。そんな空気が窓から入ってくる学校は慌ただしい様子だった。それは体育祭が近づいて来ているからだ。
ノエルは生徒会のメンバーとして、率先して体育祭の準備に励んでいた。生徒会は集まった体育祭実行委員と会議などを行い、体育祭が滞りなく運営できるように準備を進めていた。生徒会は役割分担からスケジュールの管理、運営のためのマニュアル作りなどを行っていた。
またこの体育祭は、一般の人も観覧することが出来る。そのため警備や誘導、受付も必要になるため、準備することが多いのだ。
「マコモさん、受付の当番表を作り終わりました!」
「ありがと。じゃあ次は、明日の会議の準備お願い」
「わかりました!」
亜麻色のウルフカットが似合うマコモは、少しぶっきらぼうなところがあるが、わからないところはすぐに教えてくれる優しい先輩だった。
「あ! ノエル君! こっち手伝ってもらってもいい?」
「はい! 大丈夫です!」
ノエルは副会長のセイコに呼ばれ、そちらを手伝いに行った。セイコは忙しなく動き回って、教員や生徒に確認を取っていた。
「ノエル君、議事録作って貰ってもいいかしら?」
「はい! 任せてください!」
生徒会長のアヤカは最も忙しそうだった。だが少しも辛そうな顔は見せず、淡々と仕事をこなしていた。
ノエルはそれらの体育祭の準備の他に、自身の鍛錬も怠らなかった。それは先日ライに宣戦布告をされたからだった。ライとの戦いに負けないように、ノエルは今まで以上に決闘に力を入れて取り組んでいた。
そしてクラスでも体育祭の出場競技に関する話し合いが行われた。催される競技は、普通の学校と同じ徒競走や球技などがある。その他に異能を使うのが許可されたレースなども開催される。そして何より目玉種目は、学年別のクラス対抗の決闘大会だ。
これは毎年注目される競技だった。各クラスから腕自慢の生徒が出場し、鍛えてきた自らの異能を遺憾なく発揮できるのだ。この決闘大会は派手で見栄えするため、人気な競技となっている。
また決闘大会で優勝したクラスにはトロフィーの他にご褒美がある。それは通年使える学食の大盛り無料券だ。これは食べ盛りの学生にとって、かなり価値のあるものだった。
これを勝ち取るため、各クラスは本気でこの種目に取り組む。それはノエルのクラスも同様だった。ノエルのクラスは確実に大盛り無料券を手にするため、満場一致でノエルを代表選手に選んだ。ノエルは自分にかかった期待を裏切らないために、より一層鍛錬に力を入れた。
ノエルはクラスの異能の実力がある者に頼み込み、放課後、鍛錬に付き合ってもらった。そうして自身の実力を上げていった。
生徒会での活動に放課後の鍛錬と、ノエルは忙しくしながらも、充実した毎日を過ごしていた。ノエルは積極的に学校行事に参加できることがとても嬉しかった。
そうして慌ただしい日々は、すぐに過ぎ去っていき、ついに体育祭の日になった。
※
体育祭の開催日、空は雲一つない晴天で絶好の体育祭日和だった。ノエルたち生徒は指定のジャージに着替えて、グラウンドに入場した。ノエルが入場すると、一般の観覧客はノエルに釘付けになった。皆、ノエルの人外じみた美しさに感嘆の息を漏らしていた。
今回の観覧客は前年度よりも多かった。ノエルという絶世の美少年がいるという噂を聞きつけ、一目見るために来た人が多かったのだ。
ノエルの姿は既にSNSなどで話題になっていた。しかし生のノエルは写真以上に美しく、観覧客は来たことを喜んだ。
ノエルは入場すると、生徒会のメンバーの横に並んだ。そのため他の生徒よりも目立ち、より観覧客の視線を浴びた。ノエルはいつも以上に見られているという意識から緊張していた。
ノエルが緊張していることに気付いたアヤカは、ノエルに小さく声を掛けた。
「大丈夫よ、堂々としてなさい」
アヤカの言葉を受け、ノエルは深呼吸をして落ち着いた。
そして全ての生徒の入場が終わると、校長による開会の宣言が行われた。選手宣誓も終わり、ようやく体育祭が始まった。
ノエルの出場はまだまだ先なため、ノエルは自分のクラスメイトを一生懸命応援した。
「頑張れー!」
ノエルに応援されたクラスメイトは、いつも以上の力を発揮することができた。絶世の美少年に応援され、期待されているのだ。期待に応えようといつも以上に頑張れたのだ。
その結果、ノエルのクラスはかなりの好成績で午前の部を終わることが出来た。
※
昼食を挟み、午後の部になった。皆午後の部の始まりを待ち望んでいた。すると放送がかかった。
「これより闘技場でクラス対抗の決闘大会が行われます。観覧の皆様、並びに生徒は指定の場所に移動をお願いします」
今回の体育祭のメインイベント、決闘大会が始まろうとしていた。放送でアナウンスされたことで、観覧客や生徒は闘技場のある場所に移動し始めた。
そして出場するノエルは控え室に向かった。控え室には既に他の生徒がいた。そこにはノエルの見知った顔がいた。
「ヒロキ君! ヒロキ君も出場するんだね!」
「そうなんだよー」
ノエルはヒロキがこの決闘大会に出ることを知らなかった。そしてヒロキが出場することに驚いていた。ヒロキはノエルを驚かせるために秘密にしていたのだ。
「ヒロキ君が出るなんて、意外だね」
「大盛り無料券が掛かってるからねー。僕が出ることになったんだよー」
「ヒロキ君らしいね」
ノエルはヒロキの実力を知らなかった。しかしこの決闘大会に出るということは、実力に自信があるのだろう。ノエルはヒロキの戦いに興味が湧いた。
ノエルがヒロキと話していると、控え室のモニターにトーナメント表が映し出された。そして担当の先生が集合するように声を掛けた。
「皆、集まれー。各自対戦表を確認するように」
ノエルはヒロキと一緒にトーナメント表を確認した。クラスは八組まであり、三回勝てば優勝できるものとなっていた。ノエルは一番端に位置していた。そして宣戦布告してきたライは逆の端にいた。そのため決勝まで進まないと戦えない組み合わせとなっていた。
ノエルが自分とライの場所を確認していると、ライがノエルの前にやって来た。
「決勝で待つからな。せいぜい負けないようにするんだな」
そう言うとライは一回戦の準備のため、闘技場に向かった。残ったノエルはヒロキに話しかけようとした。するとヒロキはトーナメント表を見ていた。
「順当に勝てれば、二回戦はノエル君とだねー」
「そっか。良い戦いになるように、お互い頑張ろうね!」
「手加減は出来ないから、よろしくねー」
「うん!」
トーナメント表では、ノエルとヒロキが一回戦に勝つと、二回戦で戦う組み合わせとなっていた。二人はお互いを鼓舞して試合が始まるのを待った。
少し待っていると、一年生の部の初戦が始まった。初戦はライが戦うため、ノエルはモニターでその様子を観察していた。ノエルはライの戦っている姿を初めて見るため、この戦いでライの能力と実力を見極めようとしていた。
固唾を飲んで始まるのを待っていると、先生の宣言で決闘が始まった。決闘が始まるとライの周りをバチバチと紫電が走った。
「電気を操る能力なのかな?」
ノエルは注意深く観察しながら、ライの決闘を見守った。ライは能力を発動すると、目にも止まらぬ早さで闘技場中を駆け巡った。ライの速度は尋常ではなく、カメラはライを捕らえることが出来ず、ライが通った後の残像しか捕らえることができていなかった。
そしてそれはライの対戦相手の女子生徒も同じだったようで、能力で風を操ってライを攻撃するが、全て当たっていなかった。
相手の攻撃を避けて隙を見つけたライは、トップスピードで女子生徒に肉迫し、そのまま速度の乗った一撃を放った。それにより女子生徒は吹き飛ばされ、ノックアウトした。
相手が戦闘不能になったことを確認したライは能力を解いた。ライは汗一つかかず、余裕の表情をしていた。そんなライの戦いぶりに会場は沸き立っていた。歓声が飛び交い、ライを賞賛する声が止まなかった。
そんなライの様子を見たノエルは、気を引き締めた。ライの実力を把握し、自分以上の実力者だと判断したからだ。
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