第6話 異世界転生だと?


 そいつはナチュラルストレートの黒髪で少年の姿をしていた。

 顔は整っていて、黒い眼球に金色の瞳が印象的だ。

 身に着けている衣装はスタイリッシュだがまるでピエロのような格好をしている。


 ふざけた態度といい、まるで俺のことを挑発しているようだ。

(なんだお前……)と思わず立ち上がりそうになったが慌てて体勢を低くする。


「心配しなくていいよ、ここはさっき君がいた場所とはまた別の空間だから」

 さっきの男たちに見つかることはないよ。という素振りをしつつ

 ピエロのような少年は俺をじっと見つめると話を続けた。


「だってそうだろ?いきなりこんな洞窟に連れてこられて何が何やらわからないという所だよね」


(そうだそうだ、その通りだ!)


 俺は心の中で相づちを打つ。


「ここは君がいた世界とは別の世界。いわゆる異世界だよ」


(は?)


 俺は一瞬硬直した。

 異世界?日本じゃないってことか?


「そう、別の世界!君も聞いたことあるんじゃない?異世界転生」

 ピエロ少年はうれしそうに両手を広げながら話を続ける。


(異世界転生?異世界転生って……あれか?なんか違う世界に生まれ変わるってやつだよな)

「そうそう、そういう感じ」

 俺の心を見透かすようにピエロは相槌を打つ。


(いやでも、俺、生きてるし……)と俺が考えているとピエロはまたあざけるような笑いを浮かべる。

「あっははは!君はすでに死んでいるよ!

 あっちの世界で死んだ君の魂をこちらの世界でたまたま死んだ男の体に転生させたんだからね。

 僕は神様なんだからそれくらい簡単な事なんだよ!」


(なに!?神だって?)

「神と言っても、君たちの倫理観からすれば悪魔に近い方なのかな?邪神って感じなのかもね」


(邪神……だと)

「まぁ神だの悪魔だの邪神もだけど君たち人間が作った概念だからね、単なる個性の違いだね」

「で、異世界に転生させるなら誰だろうって考えたときに、ちょうど良いタイミングで死にそうな君を見つけたんだよ!」

 ピエロは両手をさらに広げながらそう答えた。


(いやちょっと待てよ、なに勝手に話進めてんだ!)

 と俺が思っているとまたも俺の心を読んだかのように言う。


「だから分かるってば!どうせ君だってこんなこと望んでここに来たわけじゃないんだろ?お望みなら美女に囲まれるハーレムとかにしてあげてもいいよ?」


(お、美女に囲まれる……)

「だけども、それもつまらなそうだからやめとくよ」


(つまらなさそうってなんでだよ!)

「だってさ、美女に囲まれてチヤホヤって転生者のありがちパターンじゃない?これまでに見てきた転生者ってだいたいそうなんだよ」


(これまでにって、そんなに転生者居るのか?)

「まぁそんなに多くはないけどね、僕みたいな君たちから見て神と呼べる概念の存在は何人かいるよ。そしてそれぞれ1人だけ転生者を持つことができるんだ」


(ペットみたいなものか?)

「そして、その転生者の様子は好きな時に見ることができて結局僕たちは暇つぶしをしてるってことなのさ。ぷぷっ」


(何がおかしいんだ!)

「いや、ごめん。冗談だよ。だからそんな怖い顔しないでよ」


(じゃあさっさと転生させてくれよ)

「だからなんで異世界に転生したがるのかが理解できないんだよ!君みたいな平凡な奴なんて、こっちの世界でちょっと腕っぷしがあるヤツに殺されればそれで終わりじゃないの」


(いやいやいや、お前にとってはそうなのかもしれないが俺にとっては違うんだって)

「違うってどう違うの?」


(俺は日本で生まれたときから今までずっーっと平凡な生活だったんだぞ)

「ふむふむ、いいじゃない平和で」


(平和なのはそりゃいいことかもしれないさ、でも平凡な人生で平凡な死に方するとか……)

「平凡に死ぬのも悪いことじゃないと思うけどね。この世界で君みたいな存在はいくらでもいるし」


(もっとこう、自分を開放したいんだよ!)

「確かに…君からはなにか歪んだものを感じるよ。…なにかどす黒い…」


 ピエロは顎に手を当ててしばらく考える。

「そうだ!じゃあ君がこの世界で一番強くなってやりたいことをやってみるっていうのはどうだい?」


(ま、まじかよ!)

 俺は思わず心の中でガッツポーズをしてしまった。

 そんな俺の心の内を見透かしたのかピエロはニヤニヤしながら続ける。


「まぁ気まぐれで目を付けたんだし、君が転生者のハーレムパターン以外を僕に見せてくれるなら…だけどね」


(ああ、ああ!やるぜ!やってやろうじゃないか!)

「君ならそういうと思ったよ。じゃあ約束通り君に特別な能力をつけるね。

 あとこの世界の事も分からないだろうから、君の魂を転生させた元の体の知識を共有しておいたよ」


 ピエロがそう言った瞬間、あたりが急に暗くなってきた。

「目が覚めたら君はもうさっきの場所に戻るよ。じゃあね!せいぜい楽しませてねー!」

 ピエロが俺に向かって投げキッスをしたのを最後に、俺はまたも意識を失った。


(あれ?ここは……)

 意識が戻ったとき、俺は先ほどと同じように薄暗い洞窟の中にいた。

 同じ態勢で同じ状態。


(なんだ?意味が分からない。何か変わった?)


 すると先ほどの三人が戻ってきているようだった。


「あ~俺もあの女とやりたかったなぁ」

「あきらめろ、どうせ明日にはあの世行きだ」


(あの女!?さっき連れてかれた女性か?)


「まぁまた獲物は通るだろう。最近ダンジョンの街に向かう商隊が多いからな」


(こいつは野盗みたいなものか。俺はこれからこいつらを皆殺しにするんだな……)

 俺の心には殺意がふつふつと湧いてくる。

 今手元には何もない。だが殺すイメージははっきりと浮かんでいた。


 ピエロが言うように、確かに俺の中で何かが変わっていたのだ。

(野盗なら殺しても問題はないよな?)


 俺はそう確信し、倒れている俺に意も介さず元来た方向へと向かう男が通り過ぎるのを確認しゆっくりと起き上がった。


(お、おお!なんだこれ!めっちゃくちゃ体が軽いぞ!)



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